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「将!やめとけ」
それ以上は無意味だと武藤君の肩を叩いて止めてくれたのは赤里君。
いつも見るような穏やかな表情はそこには無い。
わかることは皆ピリピリしていること。
ハッと気づけば周りの騒音も静かになっていた。
遠巻きにこちらを伺ってくる人物たち。
きっとあの男のグループなんだろう。
「なんで、テメェがそこにいるんだよ」
ゾワッとする声質。
確か、三潴とか呼ばれていた。
彼は私の後ろに隠れてしまった彼女に言っているらしい。
「…彼女はもうこんな事したくないらしいよ」
後ろに隠れてしまった彼女の代わりに言う。
「ハン!やっぱりな。所詮中途半端な奴だとは思ってたぜ!
周りに誰かいないと何も出来ない奴だしよ!お友達に逃げられて今すがる奴がいないから形振り構わず目の前の奴に頼ってよ!
自分だけが傷つかないようにいつだって逃げて隠れて卑怯な奴だよなぁ」
バカにしたように話す男にカチンと来る。
「そんな言い方無いんじゃないの!?
仮にも!あんた等仲間なんじゃないの!?
同じ目的もってたから一緒に行動してたんじゃないの!?」
理由はそれぞれ有るかもしれない。
きっと互いが互いに利用していただけなんだろう。
「…仲間ねぇ…仲間だったら裏切ったのはそいつだよなぁ」
ニタリと笑うこいつの顔が嫌味ったらしくて仕方が無い。
私はまだ言い返そうとしたができなかった。
「ん!」
武藤君に口を手でふさがれてしまったからだ。
「どーでもいいよそんな事。誰がどいつの味方とか関係ねーよ。俺らの目的は済んだんだ。涼華さえ帰ってくればいいんだよ。後は好きにやってろ」
そのまま肩を引かれ体がよろめく。
彼女と手が離れてしまった。
「帰るぞ、涼華は病院だ」
彼女と離れた手を今度は武藤君が引っ張っていく。
「む…武藤君…?」
先ほどと違って目を見てこない。
ピリピリと怒っている雰囲気を感じ取ってしまう。
「そうやって、いつだってお前は俺の前を行こうとするよな」
気にくわねぇ、気にくわねぇんだよ!と叫んだ声が聞こえた。
その言葉の次に見たのは彼女が持っていたのよりも刃の長いナイフ。
切れた彼はナイフを振り回しながら武藤君に切ってかかっていた。
私が近くに居た為にうまく避け切れなかったのだろう。
目の前で、飛び散る鮮血。
真っ赤な血。
怖くなかったかといったら実際ものすごく怖かった。
なのに体が考えるよりも先に動いていた。
ザクリと横腹に走る痛み。
突然前に出てきた私に驚き怯んで力の抜けた彼の手からナイフ叩き落とした。
誰かの叫ぶ声と。
誰かが人を殴る音と。
体が崩れ落ちる音。
遠くでザワザワと騒がしい音。
何台もの車の止まる音。
一瞬のうちにいろんな
音が耳に入った。
もう、なんだか疲れた。
誰も死んでないよね。
目の前で誰かが死ぬのなんてもう味わいたくないんだ。
ぼんやりとする意識の中で誰かが私の名前を読んでいたけれど分からなかった。
疲れたんだ。
今は眠いから誰も起こさないでよ。




