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きっと気持ちなんてどうすることも出来ないんだ。
その気持ちとどうやって向き合っていくかが大切なんだと思うんだ。
日常生活において決して目にすることの無い光景。
こんなことが実際に目の前で起こってしまうなんて。
それは、誰のせいなのか。
「…酷い…」
一番酷い騒音の部屋に足を踏み入れれば、
目に入るのは人。
気絶をしているのだろう倒れている人の山。
ジャリジャリとガラスを踏みしめていく。
一体、何人の人間が此処にいたのか。
「…わ…私は…こんな事を望んだわけじゃ…」
繋いでいる左手に力が込められる。
「…大丈夫。もう終わらせよう。こんな事、無意味なんだよ」
何のためにこんなに血を流すのか。
何のために喧嘩をするのか。
すっと息を吸い込んで言葉を発しようとした時に凛とした聞き覚えのある声が当たりに響いた。
「涼華!!」
一瞬の静寂に包まれる。
言葉を発したのは薺。
立っていたほんの数人はよく見るいつものメンバーだった。
「涼華!何やってんのよ…!アンタ…!!」
今まで見たことも無いような薺の表情だった。
今にも泣いてしまいそうな。
「ゴメン」
ただ、謝ることしか出来ない。
「おい!お前なんで…」
武藤君は驚いた表情で私の隣を見る。
当然の反応だと思う。
皆がどういう経緯でここまで来たかはわからないけれど、今、此処にいるこの人に呼び出されて来たのだろうから。
「それに、その腕!」
武藤君が近づいてきて右腕を掴む。
「った…!」
激痛が走ると共に未だ流れ落ちる血液が武藤君の手を赤く染めていく。
「…涼華、誰だ、お前刺したのは」
ひゅっと一瞬にして周りの空気が冷たくなる。
武藤君はじっと流れる血液を見て静かにそう言った。
私の左側でビクリと動いた彼女に武藤君が反応した。
「…お前が、涼華にこんなことをしたのか」
ぞくりとする低い声で、今にも彼女を殴らんばかりの武藤君に制止をする。
「む…武藤君!違うの!なんでもないの!ちょっと自分でドジッただけだから!」
じっと少し赤みを帯びた武藤君の目が私を射抜くように見てくる。
なんとなく、目を逸らしてはダメだと本能的に思った。




