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「っつー」
痛かった。痛かったけれど男に蹴られるよりはマシだった。
手に持っていたガラスの破片はどっかにいった。
「誰が勝手に動いていいって言ったと思ってんの!?
あんた自分の立場わかっているわけ!?」
ヒステリックにいう目の前の女を見て私はこの人の血管が切れるんじゃないかと思った。
「わかってるよ。わかってるからこそじっとしていたらダメなんだよ」
この騒動の原因が私ならじっとしていてはダメなんだよ。
「こんなことして、こんな騒ぎ起こしてどうするって言うのさ。警察沙汰だよ」
頭に血が上っているんだろう。興奮して判断が付かないんだ。
「…なによ。なによ、なによ!なによ!!
全部私が悪いって言うの!!?私たちが悪いっていうの!!?忠告したのに聞かなかったアンタが悪いんでしょう!
私たちを無碍にした武藤君が悪いんでしょう!!
聞き入れてくれなかった赤里君が悪いんでしょう!?
裏切った千鶴が悪いんでしょう!!??
何で私たちばかり悪く言われなきゃいけないのよ!」
そう吐き捨てるのと同時に体の上に乗られてすごい勢いで私の首に手が襲い掛かってきた。
「…くっ!」
顔を見ると哀しそうな、恨んでいるような。
そんな瞳だった。
「アンタが!アンタさえ居なければ何も変わらなかった!!武藤君がアンタを見つけさえしなければ何も変わりはしなかったのよ!目障りなのよ!
今までずっと、ずっと想い続けてきたのに…!!
何も知らない!突然出てきたアンタに奪われるのが!!こんな、綺麗でもない!ブスで醜いアンタなんかに!!!」
ギリギリと腕に力を入れられる。
綺麗に伸ばしていたであろう彼女の爪が段々食い込んでくる。
わかったよ、貴女の気持ちは。
でも、だからと言って自分がしてきた事が正しくなるわけじゃないだろう?
このままじゃ話も何も出来ない。
そう思い勢いよく体を横に向けた。
「きゃっ!」
元々軽かったのだろう。
彼女は軽々と私の体から離れて床に崩れ落ちた。
「はっ…はぁ…貴女の、気持ちとか、わかったよ。
はぁ…でも、今までやってきたことは悪くないとは言わせない。結局は自分の気持ちだけで人を傷つけて苦しめて、こんな騒動まで起こしてしまったんだ」
私は立ち上がり床に寝転ぶ彼女を見る。
本当は、綺麗な顔立ちをしているのであろう。
今は汚れきっている。
「アンタがいけないのよ、今まで武藤君があんなに必死に守ろうとする人間なんて居なかったもの。
…今だって此処に来てる。あんたみたいな奴を助けようとしている。…何でよ。何でなのよ!!」
「…アンタ餓鬼だよ、買って貰えないものがあったら泣き喚いてわがまま言って、それでも買ってもらえなければ暴れまくって親を困らせる餓鬼と一緒。
手に入らないものがあることを知っているはずだ。
…諦めないって精神もいいけど周りのことを考えなきゃ、いつか一人になってしまうよ」
肩で息をする彼女を見て、壊れた窓ガラスを見る。
まだ、終わらないみたいだ。そりゃそうか。
「…一人には、ならないわ、武藤君が居るもの、皆が居るもの…」
「…皆って?武藤君が居るって?現に貴女は一人でここに居るじゃない。あなたの言う皆ってどこに行ったの?さっきの女何人か?それとも…大沢さんの事?」
はぁと息をつき空を仰いでみた。
夜空がなんて綺麗なんだろう。




