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スッと武藤君が立つ気配。
帰るのかな。
あきられたんだろうな。
テレビの音がすごく遠くに聞こえる。
何もかも忘れてしまいたい。
時間が戻ってくれたならばといつも後悔をする。
「涼華」
近くで声が聞こえる。
「俺はお前のことを嫌いになったり、見捨てたりしねぇー。
お前の事を守りたいと思うし、不安なものを全部壊してやりたい。
お前が話すのが苦手なのも知ってる、でも何があったか言ってもらわないと俺等はわからねぇ。
涼華、話せることから話してくれ。
全部自分の中にしまいこまないでくれ。
でないといつかお前が壊れてしまう」
気づけば、私は武藤君の腕の中に居た。
ああ、人ってこんなに温かいものなんだ。
こんなにも言葉をかけて貰えるって嬉しい事なんだ。
泣けそうなことなんだ。
「しゃ…写真を…撮られて、あの日、呼ばれて、考えずに…
トイレで、付いて行った私がいけないんだけど、色々言われて、言い返したんだ。ムカついて…」
きちんと言葉を整理出来ずに言った言葉は文章になってない。
それでも相槌を入れながら、話を聞こうとしてくれる武藤君に感謝する。
「今日、写真持ってきたんだ、あの人が。
渡されたって。私を良く思ってない人からって…」
そうだ、あの人は個人的に武藤君に恨みがあるとも言ってた。
上手くない説明でも何とか武藤君は分かってくれようとした。
「涼華、話してくれてありがとう」
感謝するのはこっちの方だよ。
いつもいつも。
「ううん。話したら…意外と落ち着いたかも…」
はっと気づいて慌てて武藤君の腕から逃げた。
「そんな逃げなくても…」
「ご…ごめんなさい…」
武藤君はいつも慣れない事をしてくるから、ドキドキする。
心臓に悪い。
「はは、まーいーや」
安心してる。
武藤君が笑ってくれてる事に。
笑って優しくしてくれるから頼り切ってる自分が居る。
いつも武藤君が助けてくれるから。
…駄目だ。頼り切ったら。
頼り切ってしまうから。
そんなことを考えてたら武藤君の携帯が鳴った。
相手は薺だったらしい。
電話から薺の大きな声が聞こえた。
最初は普通に話してたけどだんだん喧嘩腰になっていた。
「ちっ。涼華、薺が今こっちに向かってるらしい」
パタンと携帯をなおしながら武藤君は言葉を発した。
「あ…そうなんだ」
薺が来たらなんて言おう。
怒られるかもしれない。
飽きられるかもしれない。
あれだけ、力になってくれると言っていたのに。
薺がくる数分間がとても長く感じて、胸の辺りがムカムカした。
ああ、私は一人でも生きていけると思ってた。
だけど、こんなにも私を心配してくれる人がいる。
怒ってくれる人がいる。
そう思ったら目の前が滲んでた。




