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怖い思いも今までしてきた。
身の凍るような思いも体験してきた。
私には何もおこらないと思ってた。
何もかも、自分の考えの甘さに嫌になる。
慰めの言葉が欲しかったわけじゃない。
一人でも平気だと思ってた。
…全然平気じゃなかった。
誰かが何も言わずに傍に居てくれるのがどれほどありがたいか身に染みて分かった。
「…武藤君…お茶でいい?」
「あ、ああ…」
泣きはらした目は赤くなっていた。
充分過ぎるぐらい泣いた。
もう涙が出ないんじゃないか思うぐらいに。
父さんと母さんが死んだときは、泣けなかったのに。
自分の身が危なくなったら泣くなんて…
なんて、親不孝な…。
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私の家。
武藤君が家に来るのは2回目。
何も言わずにテレビを見てる。
武藤君は何を思って助けてくれたんだろう。
何でいつも何も言わずに居てくれるんだろう。
お茶を持ったまま、暫く立ち尽くしていたら武藤君が突然こちらを振り向いた。
「何やってんの?座れば?」
あ、うん。
と言い私は持ってきたお茶をテーブルに置いた。
武藤君とは反対側に何故か正座で座った。
私もテレビの方を見た。
内容なんて頭に入ってない。
映ってるだけ。
頭の中で違う事を考えてる。
これから私はどうなるのか。
あんなに強気な事を言ったのに、とても不安で。
胃の辺りが重くなった。
今はまだ、騒ぎにもなってない。
武藤君は誰にも言ってない。
よく、知らない。
…あの人が誰かに言うのだろうか。
言ったのだろうか…。
あの画像は、どれだけの人の目に晒されたのだろうか。
ふつふつと怒りとか、不安とかいろいろな物が上がってきた。
私はどうなるのだろうか。




