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「涼華…」
腰が抜けて立てなくて。
座り込んでる私の目線に武藤君が合わせてくれた。
「…ごめん、涼華」
え?
「もっと早く来てれば…嫌な思いしなくて済んだんだ」
なんで、武藤君が謝るのさ。
違う。もし武藤君が来なかったら…
「ち…ちが…武藤君…が来なかったら…」
どうなってた?
先のことを考えたら怖かった。
何も考えたくなかった。
「涼華、悪い…本当に」
謝らないで。
武藤君は謝らないで。
私は同じ馬鹿なことを繰り返してる。
考えればいいだけの事なんだ。
「ご…ごめ…んなさい…わたしが…」
私がいけないんだ。
「涼華、泣くな。お前に泣かれるのは…嫌なんだよ」
あ、私、泣いてる。
泣いてるのか。
泣くのなんて随分と久しぶりだ。
人前で泣くなんて初めてだ。
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭っても一回泣き出したらなかなか止まらないんだ。
「あ、涼華…」
武藤君が伸ばしてきた手に体が勝手に驚いて。
「あ、悪い…」
「ご…ゴメン…か…らだが…かってに…」
武藤君は少し手をさまよわせた後、私の左頬に手を添えてきた。
武藤君はあの人とは違う。
私なんかを心配してくれて、助けてくれて。
いつも、武藤君に迷惑かけてる。
本当に、いつもいつもごめんなさい。
「む…とう…くん、いつも、ゴメンな…さい…」
「いい、気にしてない」
ぽんぽんと頭を撫でてくれるのが嬉しくて、少し恥ずかしかった。
「ん、武藤君、ありがとう、もう…大丈夫」
何分ぐらい泣いたのか分からなかった。
でもその間ずっと傍に居てくれた武藤君に申し訳なかった。
「立てるか?」
「だ、大丈夫」
よくよく考えたら、私は何て恥ずかしいことを…
武藤君の前で大泣きするなんて…
手を引かれ保健室に連れて行かれた。
「まぁ、どうしたの!?その顔!!」
保健室の先生にすごく驚かれて蒸しタオルを作ってもらった。
「先生、俺等帰るからいっちゃんに伝えといて」
え、帰るって…
「え、武藤君?帰るの!?」
目をタオルで暖めていたから眼鏡を外していたため武藤君の表情が見えない。
「ああ、お前その顔で授業受けるつもりなのか?
根掘り葉掘り聞かれるぞ」
「う…」
確かに…
「五十鈴先生にね、分かったわ。今回だけだからね」
先生はそういいながら何も聞かずにいてくれた。
とてもありがたい。
「あ、でも鞄…」
「薺に持ってこさせる」
ああ、そうか。
薺には悪いけどそれが助かる。
今は他の人と会いたくない。
早く、家に帰りたい。
今日の事を早く忘れたかった。




