心労から神父にキスしたら女神様がぶちギレました
「シスター・アンナはよく働いて偉いですね。きっと女神の意向に適うことでしょう」
「えへへー。ありがとうございます、神父様!」
わあい、神父様に褒められました!
コビエ村の教会に若い司祭が派遣されてきて二年になりますかね。
神父ヨハン様と仰るのですよ。
穏やかな知性ある眼差しで、とっても素敵な方なのです。
美形ですし、ポッ。
何と神父ヨハン様は魔法もお使いになれるのです。
ですからお若いのに司祭になれたのですかね?
建築途中の小屋が倒れて作業員が下敷きになった時はすぐ現場に急行して、御自身が魔力切れで倒れるまで回復魔法を使用したのですよ。
おかげで死者は一人も出ませんでした。
高潔無私の化身である神父様は村中の人に尊敬されているのです。
現在のコビエ村は、聖純教の支部が設けられるほどの規模はありません。
昔はもう少し大きい村だったそうで、その当時に作られたのですね。
街道が敷設される時にルートから外れたために、徐々に人口が減っているのですって。
だから神父ヨハン様のような若い司祭が、修行のために寄越されたのではないですかね?
小さい支部ですので神父様と助祭の他に修道女数人しかいないのです。
その修道女もあたしの他はお年を召した方ばかりなので、あたしが働くのは当然です。
でもそのたびに神父ヨハン様に褒めていただけます。
ありがとうございます。
でも最近悩みがあったのですよ。
聖純教は聖職者の結婚が禁じられているではないですか。
いえ、あたしも女神様に一生を捧げるつもりで修道女になったのですよ?
でも心は思うに任せず、神父ヨハン様のことが大好きになってしまいました。
神父ヨハン様と結ばれたいのですが、どうにかならないでしょうか?
教義は変えられませんよね?
うまい抜け道とかないのかしら?
思い余って先輩の修道女達に相談してみたのです。
「シスター・アンナの気持ちもわかります。神父様はできたお方ですものね」
「若くして司祭でしょう? 将来性も抜群ですし」
「大体愛を説く聖純教なのに、聖職者の結婚を禁じるというのがわからないですねえ」
「還俗すれば結婚はできますよ。アンナはいいでしょう。でも司祭まで進んだ方に還俗を求めるというのもねえ。それこそ愚かな願いに思えます」
理解はしてもらえても解決法はありません。
先輩の中には夫と死に別れたので修道女になったという方もいるのですよ。
死に別れれば聖職者になれるなんて、わけがわかりませんよね?
必死で考えてもうまい方法を思いつくわけではなく。
あたしらしくもなく、悶々と心労の日々を送っていたのです。
「すー……」
ある日、神父ヨハン様が居眠りをなさっていたのです。
お疲れだったのですかね?
その寝顔があまりにも可愛らしく思えて、思わずキスしてしまいました。
だってあたしを惑わせる無防備フェイスが目の前にあったのですもの。
つい魔が差したと言いますか、重々反省しております。
ところがその場面を助祭に見られていたようで、神父ヨハン様を蹴落とそうと、本部に告げ口されてしまったのです。
何と卑劣なことでしょう!
地方司祭のポストが空くと助祭から格上げというケースは多いですからね。
神父様よりずっと年上の助祭ということで内心鬱々としたものがあったのでしょうが、あなた人望がありませんから!
しかしえらいことになりました。
ふしだらだ許しがたいということで、神父様とあたしが破門になってしまったのです。
いえ、あたしが破門されるのはわかります。
自業自得です。
でも神父ヨハン様は全然悪くないですよね?
意識がなかったのですから。
あたしの考えなしの行為に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。
でも神父様は笑って仰るのです。
「いえ、私がシスター・アンナのことを憎からず思っているのは本当です。心のまま素直に生きよという女神の思し召しかもしれません」
神父ヨハン様があたしのことを憎からず思ってくださっているのですって!
いえ、そうじゃありません。
喜んではいけません。
神父様のような人を憎まない方こそ女神様の使徒たるべきなのです。
あたしは村人達に働きかけました。
「ええ? 神父様クビになっちまうのかい?」
「いい人じゃねえか。シスター・アンナが惚れるのもわかる」
「俺は以前、神父様に命を救ってもらったんだ。破門なんて絶対に受け入れられない!」
「コビエ村の神父はヨハン様でいいよ。どうすりゃいいんだい?」
「作戦がありまして」
村人達を一致団結させることに成功、助祭と王都本部から派遣されてきた新たなる司祭を追い出し、あたし達は神父ヨハン様を女神様の使徒たる聖職者として戴くことに決めたのです。
女神様を信奉するのは同じなので、あたし達は聖純教コビエ村派を自認していたのですよ。
でも王都の本部からは、言うことを聞かない異端扱いされました。
もっとも生活に支障はなかったですけれどね。
そうこうしている内に、神父ヨハン様とあたしの結婚が決まりました。
コビエ村以外の聖純教聖職者や信徒の中にも、あたし達の考え方を理解してくれる方が実は少なくなくて。
純粋な愛ならいいじゃないか。
聖純教内部にはもっと腐ってるやつらがいるから放り出せって、ハッキリ口にする人もいましたね。
結婚式では神父ヨハン様の友人の司祭が立ち会ってくれることになりました。
ありがたいことですねえ。
結婚式の日、かなり物々しい雰囲気だったのですよ。
あたし達を異端視する聖純教の関係者に見張られていましたから。
また村人達もそれを警戒していたでしょう?
何とか無事に終わるといいなあと思っていたのですが。
そこであたしの意識は途切れてしまったのです……。
――――――――――
「……はっ!」
「やあ、起きたかい、アンナ」
神父ヨハン様のキスで目覚めました。
わあ、ありがとうございます。
幸せです。
でも何これ?
異常な筋肉痛と言いますか、身体がビキビキしていて全然動かせないのです。
「大活躍だったよ」
「大活躍?」
全然記憶にないのですが。
何でも女神様が現れ、あたしの身体を使って全員に説教をしたそうで。
もう後光が差しているというかオーラが溢れているというか。
決して大きな声ではないのに全員の頭にガンガン響くので、女神様で間違いないということになったのですって。
その場では神父ヨハン様のお姫様抱っこで寝台に連れていかれました。
今日は疲れただろうからゆっくりお休みということで、初めての夜はおあずけでした。
残念ではありましたけどいかんともしがたく。
睡魔に襲われむにゃむにゃ……。
以下は翌日聞いた女神様のお言葉です。
『わたくしを信じる者達よ。ちょうどわたくしの器となり得る者がおりますので身体を借り、この際誤解を正しておきます。わたくしは聖職者の結婚を禁じてなどおりません。わたくしが嫉妬して聖職者の結婚を許さないのだろう、などというデマは風評被害です!』
女神様信仰から聖純教が誕生したことは間違いないのですが、教義を定める際に女神様の考えでないことが混ざってしまったようなのですね。
それでいつの頃からか聖職者の結婚を禁ずるルールができたそうで。
世襲で権力を握るのはよろしくないという考えがあったせいかもしれないと、神父ヨハン様が仰っていました。
なるほどです。
ヨハン様は頭がいいですね。
『ヨハンのような正直者をわたくしが排斥することなどありません! 聖純教がヨハンを破門しても、わたくしの可愛い信徒であることは変わりありません!』
そうです、ヨハン様はとっても素敵な方なのです。
女神様わかってる!
名を女神様が記憶していて直々に話題にしたということで、神父ヨハン様の価値が爆上がりしました。
もちろん破門は取り消されました。
『それよりもわたくしが許せないのは、姦淫の罪を犯している者どもです! 高位聖職者の中にも多数の女性を囲っている者、多数の美少年を侍らせている者がいます! 即刻クビにしなさい! 言うことを聞かないとこうです!』
青天なのにいきなり雷が落ち、村一番の大木が裂けたのですって。
女神様は怖いです。
言うことだけ言って女神様はお帰りになり、意識のないあたしが残されたということですね。
ただ女神様が御降臨なされたことは大反響を呼びました。
何しろあたし達の結婚式は村人達の他、結婚式を監視していた聖純教関係者が複数人見ていましたもの。
女神様が現れてヨハン様を許し、同時に聖純教に対して不満をぶちまけたのは間違いないのです。
女神様の怒りは避けねばなりませんから、すぐに教団内部調査の運びとなりました。
密告が出るわ出るわ、姦淫の罪が発覚して破門になった者の中には司教クラスの高位聖職者もいまして。
司教ともなるともちろん定員があるのですが、空きが出たためヨハン様が任じられました。
史上最年少の聖純教司教です。
妻のあたしも鼻が高いですねえ。
あたしも女神様の依り代となったということで注目されたのですよ。
おそらく女神様と考え方が似ているからシンクロしやすかったのだろうと。
でも偶然ですよ。
あたしなんか全然偉くないのです。
あたしが重視されると夫であるヨハン様の存在感が増しますので、澄ました顔をしておりますけれど。
コビエ村の教会も大きくなったのですよ。
何と言っても女神降臨の聖地と定められましたから。
雷で割けた大木なんて観光名所になっていますからね。
巡礼者が多くなり、村も大変賑わうようになりました。
当然皆が望んだことですけれども、馴染みのあるヨハン様がコビエの司教に就任いたしまして。
聖純教内部の腐敗を一掃し、一方で聖職者の婚姻を認めさせるきっかけとなった『改革者ヨハン』の名は、天下に鳴り響きました。
特に婚姻が自由になったため、司祭以下の若い聖職者人気が大変高いのですよ、ヨハン様は。
でもヨハン様は以前と全然変わらないのです。
いつも穏やかでニコニコしていて。
それでこそあたしの大好きなヨハン様なのですよ。
ヨハン様はあたしを愛してくださっていますし、あたしもまたヨハン様を愛しております。
これが女神様の望んでいたことなのだなあと、気持ちが晴々とするんです。
女神様の依り代になったからか、そういうのがわかるようになりました。
見つめる先に愛する人がいる、平凡で十分な幸せ。
『心労から神父にキス』が『新郎から新婦にキス』になって返ってきた、たったそれだけのお話なのです。
4日前に投稿した拙作『突撃新妻は氷の伯爵令息を撃破する』https://ncode.syosetu.com/n8270ls/ の後書きで『『新郎から新婦にキス』のところ、『心労から神父にキス』と変換しました』と書いたら結構反響がありまして。
感想欄で『心労から神父にキス』のお話もという案をいただいたので、急いで書いてみました。
いかがでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
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