薪二本目
「……いやいや、確かに燭の脚本はすごいよ。でもさ、お前の書いてるものとはジャンルが別物じゃん。畑が違うっていうかさ」
「そうかな」
草太がテレビのチャンネルをザッピングし、一つの番組で止まった。それは最近話題のドラマだった。軽快なBGMと共に女性社員がバタバタと走る。
「ほら、これ。脚本・幽井至だぜ」
主人公は田舎から東京へ出た新人OL。少女漫画の編集社員になるつもりが、彼女が配属されたのは児童用絵本の編集部。「子どもが求めているものとどう向き合うか」「一般書籍との違いは何か」。そういった壁に向かって突き進むお仕事ストーリーだ。
「主人公のエミコも好きだけど、俺は先輩のミータが好きだな。七話での魅せ方が最高だった。あの俳優さん、うまいよ」
「……ありがとう」
「お前がいるから俺も頑張れるんだよ、また明日もオーディションでさ」
「……そう」
幽井は低い声で返し、微笑んだ。「応援してるよ」
「おう。飯はもういらない?」
「大丈夫」
テーブルの上で空になった皿を一瞥し、草太はリビングを出ようとする。
「皿は明日洗うからシンクに入れといてくれ。じゃあおやすみ、幽井センセイ」
名前を呼ばれ、心臓が冷たく鳴った。
「草太」
「何?」
「なんで、その名前で呼ぶんだ」
草太はドアノブを引く手を止め、上を向いた。そしてその後、幽井を見て答える。
「そっちの方がやる気出るんだよ。偉大な脚本家と一緒に住んでるんだから、俺もデビューしなきゃってさ」
「……そう」
そのまま彼は出ていった。
幽井が有名になり始めたときからだろうか、草太は彼のことを本名で呼ばなくなった。「幽井センセイ」と茶化すような、しかし確かな敬意の籠もった声色で。
佐藤草太という男を彼は心から応援している。まだまだ俳優になりかけの彼は常に忙しそうにしていた。時にオーディション、また時にアルバイトとかつかつだった。
加えてこの家の家事はほとんどが草太だ。幽井は彼の「センセイはそんなことしてないで、作品に集中しててよ」という言葉に甘えてしまっている。代わりにやってあげたいのは山々だが、家事がどうしても苦手だった。彼の負担を重くしてしまいそうだから、キッチン付近はノータッチでいることにした。
そんな草太を見て、幽井はなんとか彼の夢を叶えようと知り合いの映像監督へ紹介するとを何度も提案した。しかし彼の返事は決まってノーだった。
「そうじゃない、センセイ。そうじゃないよ。俺はちゃんと認められて、ちゃんとデビューしたいんだ。センセイみたいに」




