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第二話 七種十三郎トイウ男(その3)

「ねぇ。一体何が起きてるの?!」

スズメさんは一体全体何が起きてどうなっているのか理解不可能でいた。

成績優秀な頭のいい彼女でも今の状況はそう簡単に飲み込めない。

もちろん。俺もそうだ。

「分からない!突然、黒い影がスズメさんから離れてサエグサさんがそいつを追いかけていったぐらいしか」

「サエグサさんってこの前私たちの目の前でトラックに撥ねられた人だよね?」

「前に話は聞いたけどあの人って本当に何者なの?」

「分からん!!」

正直、俺もサエグサさんが何者なのかは全く知らない。

あの時は世間話的な事をしたまでで詳しい事情はまだ詳しく聞いていない。

それに、このまま見失えばまた会えなくなるような気がしてならなかった。

俺たち二人はどこかへ消えたサエグサさんを探しながら走り回った。俺はバスケ部で体育館内を三周は知っているからまだ体力はあるけどスズメさんは少し疲れ気味ている。

一気に全快したとはいえさっきの体調不良がまだ残っているかも。

すると、目の前に怪しい影が見えた。さっきの黒い影だ。

黒い影は俺たちと目が合った瞬間、もうやけくそだと思ったのか俺に目掛けて襲いかかってきた。

気のせいだろうか俺から見た黒い影はだんだん何らかの生物の形へと変貌しているかのように見えた。

「エエエイ!オトコニハシュミナイガオマエ!ボクノタテニナレ!!」

黒い影がそう叫んで俺に纏わりついた。

スズメさんはこの黒い影が見えているみたいで俺に纏わりついたこいつを見て「えっ!?何!?この黒いの!?」と驚いた。さっきまでスズメさんに憑りついていたのが今度は俺に憑りつき引き剥がそうとするも嫌に粘りつくので引き離したいにも太刀打ちできない。

これではスズメさんと同様で俺が具合悪くなってしまう。

バスケ大会も控えているのにここで体調が悪化してたまるものか!

「てんめぇ~。いい加減お縄につきやがれ」

遂にサエグサさんが登場。何かゼーゼーと息を切らしながら鼻血を出していた。

またどこかで不運にも怪我したんだなと俺は思った。

「コ、コレイジョウクルナ!」

黒い影は俺を人質にして個以上近づいてくるなと警告するがサエグサさんはこいつの言う事なんて一切聞かなかった。

ランプをグルグルと回しながら「そこの女子の乳を揉んでたド変態野郎が言う権限はない!!」と言った時、スズメさんは驚愕して咄嗟に手で胸を隠した。歪で気持ち悪い黒い影に自分の胸を触られたらそれはさすがに嫌だろう。

「くらえ!!ジャスティスフラッシャー!!」

何かの特撮ヒーロードラマで聞いた事がある技名を叫んだサエグサさんは思いっきりランプを投げると再び黒い影の顔面に直撃した。

二度目の顔面直撃に黒い影は蹲る。自分もあんな風に顔面食らったら絶対に痛いと哀れな黒い影を見て思った。まぁ、おかげで離れたからいいけど。

黒ずんだ手で顔を抑えている黒い影は怯えている様子で慌てて飛んで逃げようとした瞬間、長い鎖が俺とスズメさんを横切って飛んできた。今度はランプではなく錨が飛んできたのだ。頑丈そうな鎖が追いかかる中、逃走を図る黒い影だが既にロックオンされていて錨がグルッと方向を繋がれていた鎖も錨の動きにつられて何度もUターンして黒い影をグルグル巻きにして捕縛した。

「お前の変態心に一本釣り!!必殺!バックドロップならぬ岩石落とし!!!」

必殺技を叫んだサエグサさんは放った鎖を引き上げて背負い投げをする勢いで投げ飛ばすと鎖に絡まって身動きが取れない黒い影は彼の勢いに引き込まれて頭を思いっきり地面に叩きつけられた。

あまりにも派手で豪快な演出に俺たちは唖然とした。頭を強く叩きつけられた黒い影は目を回し倒れた。

「ウォッシャアアアアアアアアア!!とっ捕まえたぞ!!」

まるで長年追いかけ続けていた犯人をやっと捕まえたという達成感を味わう刑事みたいに雄叫びを上げるサエグサさん。

一週間前まではとても落ち着いた雰囲気を見せていたスズメさんだが今は彼の取った行動と押さえつけられている変な影を見て驚きを隠せないでいる。

「サエグサさん。あの黒い影は一体なんですか?」

あの揺らめいている黒い影は何なのか俺は訊ねると

「もしかして、あいつが見えるのか?」

鎖を摑みながらサエグサさんは俺の質問に答えた。

「あれは霊だ」

「レイ??」

俺もそうだがスズメさんもピンとこなかった。

「幽霊だよ。幽霊。ほら目を凝らしてジーッと見てみな」

そう言われて俺とスズメさんは目を凝らしてジーッと見てみた。

すると、黒く覆われた影がベールを外して姿形が露わになった。

影の正体は人間。歳は俺より年上で50代後半辺りの小太りな男だった。

いわば普通のおっさんだ。

「こいつは数週間前、何度も他の女性に憑りついて霊障を起こしていた常習犯なんだ」

「れいしょう?」

「憑りついた人間に悪夢を見せたり不眠や体調不良などの障害や病を起こす現象だ。お嬢ちゃんが具合悪くなったのもこいつのせいだ」

鎖でグルグル巻きにされた中年男は時代劇で犯人を逃がさないように足で押さえつけられ身動きが取れない状態になりすごく困り果てていた。

足で押さえつけているサエグサさんは中年男を見下すような目で睨む。

「おい。ちちくれ変態糞親父。てめぇの事はよく知っているぞ。一ヵ月前に死んで現世滞在期間が過ぎているそうじゃないか?そのうえ、あの世へ行く前に堂々と姉ちゃんたちのお乳を好き放題にサワサワしてたそうじゃんか?お前の幽体が黒いのはおめぇが死んでも性欲に溺れていたからほぼ悪霊化しちまったんだ。僕に捕まった以上、お前の罪は更に重くなりあの世での裁判はより倍のシビアに見舞われるだろう」

「ひ、ヒィ~~~~」

「お前をここであの世へ強制送還する!中年ジジイが若い女の乳を揉んでパフッてんじゃねえぞ!羨ましいだろうがコノヤロー!!『黄泉送り』発動!」

サエグサさんは警官服の懐から取り出した手錠を中年男の手に掛けた。

ていうかこの人、女子の前で普通にエッチい事を堂々と発言するからスズメさんが胸を抑えながら死んだ魚のような目でさっきのサエグサさんの言い方にドン引きしていた。

すると、手錠をかけられた中年男がシュンっと一瞬で姿が消えた。

姿形もなくどこかへ消え去った中年男がいなくなったらサエグサさんはこれで一件落着といった顔で鎖を丸めて腰に装備した。

「あの。今の人はどこに?」

俺はさりげなく訊くと彼はこう答えた。

「あの世へ送った。手錠をかけといたからあの男は閻魔様たちに少し厳しい裁判を執り行うことになるだろう」

あの世?あの世ってあの天国と地獄の事だよな?

俺の心はそう呟いた。

「お姉ちゃん。体の調子はどう?」

気遣ってかサエグサさんはスズメさんに調子はどうか訊ねる。

「大丈夫です」

どこにも異常がないと教えると「それはよかった」とサエグサさんは安心した顔を見せた。

彼女はもちろん俺も何が起きたのか全く頭がついていけない状態で何が何だかさっぱり分からなかった。

幽霊だの。悪霊だの。あの世だの。霊障だの。まるでオカルトの世界に引き込まれたかのような展開で脳が理解不能と訴えている。しかし、あれはまさに幽霊だった。のかな?幻でも見たのかと思うぐらい非現実的な体験に未だに信じられないでいた。

特にスズメさんなんかは簡単に受け入れないと思う。頭のいい天才人はこういった非科学的な話を本気にしないと俺は思っていた。

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