第二話 七種十三郎トイウ男(その1)
一週間前、俺はサエグサと名乗る男と出会った。
実に不思議な人だった。
一見、どこにでもいる普通の30代のおじさんだがその『普通』とは違う雰囲気があった。
大型トラックに轢かれた時、あの人はランプみたいな物で何かをした。そう。あれに何か秘密があると思っていたが聞きそびれてしまった。
そして、あの人は言った。
俺の周りに何か変わった事があったらまた交番所に訊ねてきてくれ。
僕のせいで‶アレ〟が見えたり見えなかったりするかもと。
‶アレ〟って一体何なのか俺は分からずその理由を探った。しかし、〝アレ〟の正体についてはまだ何も分からず考えても無駄だと思い忘れようとした。が、ある日突然に俺は〝アレ〟とは何かこの目で見えてしまった。
初めて〝アレ〟が見えたのはサエグサさんと再会した二日後の授業中の時だ。
数学を担当している先生から変な黒い影が見えたのだ。
最初は目が悪くなったか疲れ目のせいなのかと思い自分の目を擦ってみたが変な黒い影は消えなかった。その影はまるで生き物のように動いていて二つの目が見えた。
影に映る目がジッと数学の先生の方を見ているその視線は何だか怖かった。
あまりにも突然変な物が見えたりするので幻覚か何かだと思っていた。
そして、もう一つ変化があった。
スズメさんの様子だ。いつも元気で笑顔を見せる彼女だが一昨日から少し体調が優れなさそうな顔をするようになった。
スズメさんが体調不良になるなんてあまりにも珍しかったから自分も正直驚いた。
あまり無理しない方がいいと促すも彼女は「ちょっと気分が悪いだけだからほっとけばすぐ直るよ。このぐらいの事で学校を休むわけにはいかないわ」と自ら自分の体に鞭を打つかのように登校している。
しかし、日に日に顔色が悪くなっていくようで俺はもちろん彼女の友達も心配している。スズメさんは一年生の頃から生真面目なところがあるからちょっとした体調の悪さでも隔てなくちゃんと学校に来る。
今日も学校に来ていて今頃、教室で休んでいるはずだ。
もちろん。彼女にはサエグサという人物と再び出会ったことを話した。
あの人はお巡りさんで一見、普通の人に見えるが何だか不思議な人でもあったと話した。
サエグサさんは自分と会った事や話した事は忘れても構わないと言っていたがなぜか印象に残っていたのか忘れようにも忘れられない。
だってあんな風変わりな格好をしていて事故で大怪我してもケロッとしている。そんな特殊な人間がいたら忘れたくても忘れられない。
放課後─
部活が終わり体育館から戻ってきた途中、保健室からスズメさんが出てきた。
何だかさっきより具合悪そうで心配だ。
俺が彼女を呼び止めるとスズメさんがこちらに振り返った。
半目で猫背、血色が悪く沈んだような顔をしていた。
「大丈夫?今朝より顔色が悪くなっているみたいだけど?」
今朝見た時より大分悪化しているみたいで心配になってきた。
「平気。ちょっと頭痛がして体がだるいだけだから」
いや。全然大丈夫じゃないよ。
「朱富さん。ゾンビみたいになってるぞ?」
バスケ部の仲間は土気色な顔で弱っている彼女をゾンビみたいに見えているようだ。
「親御さんには連絡したのか?」
「いや。してない。っていうよりうちの両親、仕事で夜いないんだよね・・・。それに連絡するほどそんなに悪くないしこの通り歩けるから」
スズメさんの大丈夫はちょっとズレているかもしれない。
すると、彼女を見送っていた保健室の先生が「朱富さんを家まで送ってくれない?」と頼まれた。三人がかりで家まで送り届けるのも何だから俺は自ら手を挙げて名乗り出た。
そして、俺は再び気づいた。授業で見たのと同じでスズメさんの背後に影が憑いているのを。




