第一話 奇妙デ奇天烈スギル摩訶不思議ナ男(その2)
雨に打たれながら宙を見ている男性はピクリとも動かない。
あまりの衝撃的な瞬間を目撃して立ちすくんでいた俺たちは慌てて轢かれた男性の方へ駆け寄り様子を見た。
「だ、大丈夫ですか!?」
あまりの突然だったので俺は自分の傘を投げ捨てて濡れた地面に膝をつき男性の容体を見た。男性は頭から量の血が流れていて鼻血までも出していた。
彼は虚空を見つめているような目をしていて返事がない。
「こらーっ!待ちなさい!!」
スズメさんは逃げ去っていく大型トラックに向かって叫んだがその声は雨の音でかき消されてしまった。
俺は咄嗟に男性の首に指をつけた。呼吸はしている。つまり彼はまだ生きている。
でも、体の損傷はかなり酷いに違いない。
「ジョーくん。どう?」
心配そうに様子を見るスズメさんは雨で濡れている俺を傘に入れてくれる。
「息はしているし脈もある。でも、たくさん骨折っているかも」
「急いで救急車を呼んだ方がいいわ」
俺は頷き急いでズボンのポケットからスマホを出した。
スマホのロック画面を開いて電話アプリの履歴画面をキーパッドに切り替える。
その時だ。
「あ~。そこのお兄ちゃんにお姉ちゃん。心配ありがと。僕の事は大丈夫だから。ほっといていいから」
薄ら目でこちらを見てくる男性は血を流しながら自分は大丈夫だと言い出したのだ。
大丈夫?その状態で大丈夫って?
しかも、その薄ら目は如何にも意識が遠のいている証拠だ。
でも、若干だが意識はあって言葉も喋れるみたいだ。
「ほっとけないですよ!あなた。トラックに轢かれたんですよ?!今、救急車呼びますので大人しくてしていてください」
そう伝えながらキーパッドに119の番号を入力しようとした。
「えっ?何?救急車?」
救急車という名前を聞いた途端、急に男性は血相かけ始めた。
「ま、待ってくれ!救急車はよしてくれ!救急車だけはぁぁぁ!」
突然、大声を出してきたので俺とスズメさんはびっくりした。
目を大きく開いて頭だけ起こし雨で血が流れながら男性は必死に止めようとする。
遠のいていた意識が保ち薄っすらだった目がくっきりと見えた。
「余計な事はしないでくれ。僕のことは大丈夫だから早くお家に帰りなさい!」
お家に帰りなさいたって大怪我した人をほっとくわけにはいかない。
「ジョーくん。この人、思いきり頭を打ったせいでおかしくなったんじゃ?」
落下した直後に後頭部を強く打ったのではとスズメさんは思っていたみたいで俺も同じことを考えていた。
「あまり大声出さないでください。すぐ救急車を呼びますから」
大人しくしてもらわないと救急車が呼べない。こんなにも救急車を嫌がる人は初めて見た。
「いや。呼んでくれるなら嬉しいが呼ばないでくれ!僕、保険証持ってないし金もないから呼ばないでくれ!」
とうとうヤバいんじゃないかと思った俺は彼の断りを聞かずキーパッドをタップした。
「うう・・・くそ」
全く理解してくれなかったのか男性は突然、ガラス張りの四面ランプを手にして何かを飲んだ。見たこともない珍しいランプから紫色のビーズ玉サイズの飴玉が出てきて男性の口に入ったその時だ。
男性の体から靄が噴き出した。シュ~ッと小さな音を立てた煙が消えると血塗れの男性が突然、起き上がり全速力でダッシュした。
あまりの突然に俺もスズメさんも驚愕して急いで後を追う。
「気遣いあんがとさん!もう大丈夫だから!」
水飛沫を上げて風のように走り去った男性に俺とスズメさんは全く追いつけなかった。
あの男性を見失うと俺とスズメさんは足を止めて息切れしていた。
動悸がドックンドックンと激しい鼓動を鳴らしている。
雨の中のダッシュはさすがにシビアだった。おかげで全身濡れてビショビショ。
「あ、あの人、どこ行った?」
膝に手をつけながら男性を見失いもう走れなかった。
スズメさんが俺の傘を持ちながら信じられないといった様子で言う。
「あの人。あばらとか体の骨は折れているはずなのに急に起き上がってしかもあんなに早く走り出すなんて。普通はあんな事できないのに」
スズメさんから持ってくれていた自分の傘を受け取る。
「あの男の人。保険証は持ってないとか言ってたよな?」
「それだけじゃない」
スズメさんは何か気づいたみたいだ。
「あの人、ランプから何か飲んだよね?それに学ランっぽい服も着ていたし・・・。でも、普通の学ランとは少し違うような・・・?まるで、昭和の警察服っぽかったけど」
確かに。今の時代ではあまり見慣れない服装をしていた。
ボタンは全部外して中にパーカーを着て帽子も被っていた。その帽子はまるで警官帽っぽかった。
一体、あの人は何者だったのだろうか?




