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第三話 オ日様ニ嫉憎ト背後霊ノ報復(その12)

自分より年下の女子高生に説教を食らわれて樋上さんは屈辱に思えた。

スズメさんはとてもしっかりしている優等生だが時々、自分が思った事を口に出す理不尽嫌いなところもある。

さすがに俺は相手の精神を追い詰めるような責め方はできないけど相手が取った行動で間違った道理を持っていたら遠慮なく突き詰めて物申す。

大人相手にここまではっきりと言えるとはさすがスズメさんと俺は感心した。

生徒会秘書をやっている事だけはある。

それに俺も彼女に言いたい事があった。

「樋上さん。あなたがどれだけ苦労していたのか俺も分かります。母親の代わりに内職の仕事をやったり家事やったりなかなか自分の時間が作れなかったんですよね?俺もそういう似た経験をしたことがあります。家族の事で手一杯で他にやる事があって余裕がなくなってしまう気持ちはよく分かります。自分ばかり何で?って疑問に思う事もあります。ですが、自分は幸せじゃないという理由で他人の幸せを邪魔するのはよくないと思います。陽菜さんは複雑な家庭内から解放されたくて自分の幸せを見つけようとしたんです。そして、大海さんと出会っていつか彼と一緒になれる日を願い続けていたのにあなたはただの身勝手な嫉妬で陽菜さんは本当の幸せを掴めず命を落としてしまった。深刻な家庭事情を抱えていたのはあなただけじゃない。陽菜さんにだって自分から選択肢を決めさせてもらえない家庭に居続けてとても辛かったはず」

もし俺が陽菜さんだったら家にいるのが息詰まって何もかも決めつける母親から逃げ出したくなり夜中に荷物まとめてすぐ友達か恋人の所へ行くと思う。

それに、母親が全て自分の人生を決めつけるのは当人にとってもそれはさすがに嫌だな。

ただ母親の事よりも一番許せなかった事が一つだけあった。

「でも。一番許せないのは大事なネックレスを返さず事故とはいえ溺れていた陽菜さんを助けなかった事です。天候が悪い海の上から落ちて上手く泳げなかった彼女を助けようとはせずあなたはその場から逃げたことです。近くにいる漁師に知らせるか警察に連絡する事だってできたはずです。ですが、あなたはそれをしなかった。これって立派な殺人になりますよね?ただ自慢していただけの事でなぜ彼女が死ななくちゃいけなかったのか俺には分かりません。それに、憎んでいたとはいえ本人のすぐ近くにいたあなたがもっと迅速な対応をしていれば大海さんは陽菜さんのご家族に咎められる事はなかったはずなのでは?」

身勝手な嫉妬心に狩られ陽菜さんを邪魔な存在と認識し事故を利用して彼女を消した樋上さんのやり方はどうしても許せなかった。

家庭等の事情で辛いのは樋上さん一人だけじゃない。日本、いや世界中にも俺や彼女たちと同じ立場で苦しんでいる人は星の数ほどいる。

樋上さんも母親にないがしろにされて苦い青春時代を送っていた事は同情する。が、祝福を受けた二人の幸せを邪魔して全て失わせた事は決して許せない。

彼女は事故だと言い張るが揉み合いになった時点で彼女の罪は特定されていたのかもしれない。

自分がした事を否定して何もしていないと関係なさそうに主張して罪から逃げようとする。これって人間のエゴなのかもしれない。

「なあ。お嬢さん。あんたにとって陽菜ちゃんは邪魔な存在だったかもしれんが陽菜ちゃんは別にあんたを羨ましがらせようとわざとやったわけじゃねえんだ。人間ってのはな他人の才能を羨ましがる生き物なんだ。現にのび太だってそうだろ?いつもスネ夫に自慢話させられてムカついたりしずかちゃんが出木杉くんと一緒にいる所を見かけると気に食わぬ顔をして不愉快になったり。それってさ。スネ夫と出木杉くんの事が羨ましいから嫉妬するんだよ。君は大海さんが自分より陽菜ちゃんの方が一番仲いい事に失望したんだろ?最初は自分の事をいつも気にかける優しい友達として接していたが彼と触れ合う度に好意を抱き始めた。それに響矢くんはけっこうイケメンで学生時代かなりモテていただろう?地味な自分と脚光を浴びる彼とでは生きる世界が違うと思っていた。だから、好きだと言えなかった。そりゃまあそうだよな。地味で影にいる静かな子が眩しいほど光っている子に告るなんて相当勇気が必要だもんな。それからは影で響矢くんを見守りながら片思いが継続中のところに陽菜ちゃんが登場。僕が言うのも何だけどさ。君さ。好きなら好きとちゃんとはっきり言った方がよかったと思うよ。例え断られても周りになんて言われようとも自分の気持ちを素直に受け入れなくちゃ一歩前進したくても前進できないよ?それにさ。君は事故だと言い張っているがちょっと押したら海に落ちたんじゃ事故とは言えないな。話を聞く限り揉み合いに夢中になりすぎてつい物の弾みで突き落としてしまった感じにしか聞こえないんだよ僕。一番いけないのは自分から助けるか誰かに助けを求めなかった事だな。それはもう『殺し』と同等な扱いになる。君は人一人の命だけじゃなく二人の人生を奪ったんだよ?そして、今日ここで彼女の遺品であるペンダントを隠滅しようとしたよね?遺品を勝手に捨てるのは重い罪になるんだぞ?例え君がそのペンダントを海に捨ててやっと普段通りの生活を送れると安心してもあの世へ行ったらもう安心じゃなくなる。地獄の王様たちは人間がやっている事は何でもお見通しなんだぜ?罪の意識を自覚していない人間こそが後で恐い目に遭うんだ。泣き寝入りしたって地獄では全く通用しないし慈悲も受け付けない。罪そのものは消えないが自分の罪状を軽くするには死ぬまで自分が犯した罪を背負う事だ。そして自分が起こした過ちを決して忘れないこと。君がやった事は決して許されない。このまま罪の意識を感じていないならばあの世へ逝って潔く地獄へ行くんだな。例えどんな嘘をついても結果、浄玻璃の鏡で嘘を見抜いちゃうし舌も抜かれる。本当に今回の件、七ヵ月前の事を反省しているならば開き直らず地道でひたむきに生きるんだな。そして、二度と忘れるな。彼女を助けなかった自分の罪過をな」

とても真面目で真剣かつ一言一言に重みを感じた。

まるで自身の経験を話しているかのように厳しくそして二度と間違った道を進まないように釘を刺して罪の意識を自覚するように強く伝える。

さすがは自ら『地獄から来た』と証言した事だけはある。こんなに樋上さんの事をきつく言うのは一度、本物の地獄に堕ちた事がある経験者だからこそ言える言葉なのではと思う。

そういえば。なぜサエグサさんが地獄に堕ちたのかまだ聞いた事がない。

「そう言う訳で響矢くん。彼女は陽菜ちゃんに襲われた分、今日の出来事で精神に相当なダメージを負っている。もうこれ以上、彼女を責めたてる必要もない。ハートブレイク真っただ中の乙女ってけっこう繊細だからな。これ以上、傷つけたら精神崩壊スピリットバーストを起こして何をしでかすか分からん。今回の件で本人も十分応えたはずだからもうその辺にしてやってくれよ。な?」

サエグサさんに言われて怒髪冠を衝いていた大海さんの興奮パラメータが下がり落ち着きを見せた。

「陽菜ちゃんもさ。もう復讐なんてしなくていいんだ。彼女は死ぬまで自身が犯した罪を意識し背負いながら生きるんだ。例えるとストファイみたいにガードで身を守っていながらもなかなか反撃をする隙が見つけられなくて相手プレイヤーに連続攻撃でじわじわと攻められながらHPがちょっとずつ削られていく。そんな感じだ」

「なんで例え方がゲームになるんですか?しかもストファイってなんですか?」

「だから陽菜ちゃん。もう樋上さんを恨むのをやめて大人しくあの世へ逝きな。手っ取り早くあの世へ逝くとすれば幽霊電車の方がおすすめだな。今からだと乗車時間にはまだ間に合うから少し現世を散歩できる。もしくは時間が来るまで彼氏さんの背後霊になってもいいぜ?死神さんはなんやかんやと忙しい身だから迎えに来るヒマはないと思う。あっ。それと背後霊の件だがもし、しばらく彼氏さんの側にいたいというならまずは地獄の裁判を受けてそれから死神局へ行って『守護霊』になる手続きをした方がいい。手続きもしないで無断で背後霊になると最悪の場合、いつの間にか自然に凶霊になりかねんからな」

陽菜さんを忠告しながら大人しくあの世へ逝くようにと勧めるサエグサさん。

「これは響矢くんの為でもあるんだ。彼からすれば君の姿は見えんが想いはちゃんと残っている。この世に留まるよりも静かにあの世へ逝って成仏した方が浮かばれるってもんだ」

幽体が黒から元の白色に戻った陽菜さんは響矢くんの方を見た。

今の彼の顔を見て陽菜さんは冷静になりもうさっきまでの狂言と凶暴化する様子は当に消えていた。

もう彼女には樋上さんを襲う気力も無いように見えた。

静かな波音が聞こえる中、大海さんは口を開いて彼の目には見えない陽菜さんの方に向かって喋った。

「陽菜。俺の事はもう大丈夫。だから安らかに成仏してくれ」

そう言われて陽菜さんは彼の話を聞き入った。

「ごめんな。あの時、俺がもう少し強く止めていれば君を悪天候の中、一人で波止場に行かせる必要はなかったんだ。君が死んだのは俺がちゃんと止められなかったからこんなことに・・・・。本当にすまない」

彼が言っているのは高波が起きるほど天候が悪かった時、陽菜さんを一人で波止場へ行かせてしまったその時の後悔と謝罪だった。

それを聞いた陽菜さんは首を振った。

「違う。響矢くんのせいじゃない。悪いのは私の方。私がちゃんとあなたの言う事を聞いていればこんな事にはならなかった。だから響矢くん。あなたは悪くない」

陽菜さんも彼の言う事を聞かずに一人で高波が押し寄せる波止場へ行った事を後悔していたみたいだ。

二人は自分の不注意が原因でこんな事になったと責任を感じていた。

俺は思う。もしも、陽菜さんが大海さんの言う事を聞いて彼の側にいたら樋上さんと拗れる必要もないし海に突き落とされずに済んだかもしれない。そうすれば、彼らの運命は変わっていたかもしれない。

「樋上。お前がどんな気持ちで苦しんでいたのか気づいてあげられなくてごめん。でもお前がした事、陽菜を見捨てた事は絶対に許さない。お前は陽菜の人生を奪ったんだ。彼女の代わりにその人生を背負って真っ当に生きてくれ。それと、もう二度と俺の前に姿を見せないでくれ」

とどめの一撃を食らったかのように樋上さんは今の言葉で心が刺さったのかうずくまってむせび泣いた。

俺達に見守られ夜の静けさに響く海の波音に乗せられながら。

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