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第三話 オ日様ニ嫉憎ト背後霊ノ報復(その8)

スズメさんのアルバイト先である中華レストラン本店の近くで話し込んでいた俺たち。

大海さんがいつも陽菜さんの首に付けていたペンダントが無かったことを今気づいた。

そのペンダントは大海さんがプロポーズする際に陽菜さんにプレゼントしたという。

海に溺れていた途中でペンダントを無くしたのかつけ忘れていたんじゃないかとサエグサさんは考えていたがそれは有り得ないと大海さんは即座に断言した。

離れていても彼女はいつもペンダントを首に掛けていたと言っていた。

じゃあ、なぜ大事なペンダントが消えたのだろうか?

「樋上さんは陽菜さんとも仲が良かったんですよね?でしたら、直接電話で本人に訊いてみては?」

スズメさんが電話で本人に訊いてみたらと勧めてみたが「いや。多分、訊いてみても彼女は知らないと思うぞ?」とサエグサさんは言った。

「だが、注意すれば簡単に波止場から落ちて溺れるなんて事はしなかったはず」

そう付け加えてサエグサさんは手に顎を付けて考え込んだ。

「まさか。陽菜さんは誰かに突き落とされたとでも?」

俺の頭に思い浮かんだのは何者かが隙を突いて人為的に大海さんを突き落としたというイメージだ。まるで、刑事ドラマみたいな感じになってきている。

「でも、そしたらペンダントを付けたまま落ちることになるよね?」

スズメさんの発言に確かにと頷いた。

じゃあ。誰かがスズメさんのペンダントを奪ったというのだろうか?

その時だ。大海さんはズボンポケットからスマホを取り出した。

スマホはバイブ音を鳴らして小刻みに震えている。

「樋上か?」

大海さんは震えたスマホを耳に当てる。

相手は幼馴染で鎌倉に観光で来ていた樋上さんみたいだ。

『き、響矢くん!助けて!』

スマホ越しから助けを求めている樋上さんの声が聞こえた。

その声に大海さんの表情が変わった。

「どうした?」

『ひ、陽菜 ザザッ ころ ザザザッ たす ザザッ』

雑音が酷すぎて聞き取りにくかったが糸が切れたかのようにプツンと通話が切れた。

大海さんが何度も呼びかけるも樋上さんの音声は途絶えたまま音信不通で途切れた。

「どうしたんですか?」

スズメさんは何があったのか聞こうとすると大海さんは信じられない表情を浮かべていた。

「樋上が助けてって。それと、彼女の口から陽菜の名前が」

どういうことなのか俺とスズメさんの頭の上には?マークが浮かんで状況が追いつけなかった。しかし、サエグサさんだけは樋上さんの身に起きている現状を颯爽と気づいていたようだ。

「彼女は今どこにいる?!」

何だか慌てている様子で険しい表情を浮かべながら大海さんに迫る。

「些細な事でもいい!何か手がかりになりそうなことはなかったか?!」

差し迫る危機感に焦っているサエグサさんは強い口調で問いかける。

突然、肩を摑まれて険しい顔で慌てるサエグサさんの迫力に驚きたじろぐ大海さんは電話越しから聞こえたある音を思い出し教える。

「そういえば。波の音が聞こえたような」

波の音・・・。

その言葉を聞いて俺とスズメさんはあそこだと気づくと突然、サエグサさんが走り出した。今置かれている現在の状況を一番早く理解したサエグサさんが慌てた様子で走ると俺もスズメさんも大海さんも彼の後を追いかけた。

「サエグサさん!どうしたんですか?!」

俺は樋上さんの身に何があったのか血相をかいて必死に走るサエグサさんの後を追いながら説明を求めた。

険しい表情で走るサエグサさんは後から追いかけている俺たちに樋上さん本人が置かれている状況を詳しく話してくれた。

「樋上さんは由比ヶ浜にいる!恐らく陽菜さんもそこにいる!早く気付くべきだった!僕らが見た写真にはちゃんと響矢くんの背後に彼女がいた。彼女は背後霊としてずっと響矢くんの事を見守っていた。さっき話したように、背後霊は人の背中に取り憑いて側から離れずただ見守るだけの霊だが今回は違う。背後霊が自ら取り憑いた人間を離れて独行動どっこうどうを取るなんてあまりない。きっと陽菜さんは七ヵ月前に起きた出来事の真実を響矢くんに知らせたくて背後霊になったんだ。だから、物音を立てたり彼に溺れる夢を見せたのは陽菜さんなりに送ったメッセージだったんだよ!言っただろ?背後霊はただ人を見守るだけじゃない。何かを〝伝えている〟という例もあるって」

「じゃあ。あの写真に写っていた背後霊は、陽菜さんの霊?!」

走りながら答えるスズメさんの言葉にサエグサさんは「正解!」と答えた。

衝撃的な答えに大海さんは信じられないと驚きが隠せなかった。あの写真に写った黒い影が陽菜さんだったなんてなかなか信じ難いだろう。

俺とスズメさんも同じ気持ちだ。でも、有り得なくもない話だ。

「本来、背後霊が夢で伝える場合は対人関係や自身の内面、未来の出来事といったアドバイスやサポートというかたちで知らせる事はよくあるが、自身が生前に体験した事を相手に伝えるのは時たまにあるんだ。例えると霊能者に自分を殺した犯人の名前や姿を教えてどんな風に殺されたのか詳しく話す哀れな霊みたいな感じだ。陽菜さんは足を踏み外して落下したとか自ら命を絶ったんじゃない。何か別の理由があって海に落ちたんだ」

陽菜さんは自分から足を踏み外して海に落ちたわけでも自殺をしたわけでもないと聞いた時、俺は一つの予感に辿り着いた。

「もしかして。その理由って樋上さんと陽菜さんの関係性に係わっている事ですか?」

「そうだ!もし、俺の予想が合致していたなら間違いなく彼女は陽菜さんに殺される!二人の間には何らかのトラブルがあってそこで陽菜さんが死んだんだ。急いで陽菜さんを止めないと彼女自身が〝悪霊〟になってしまう!」



静かな真夜中に広がる波の音。

反射した月の光の影は海波に揺られ安らぎと眠りを誘いだすかのような清らかな音が静けさに包まれた浜辺には人っ子一人もいない落ち着いた景色が広がっていた。が、そんなロマンチックなムードをぶち壊す不届き者がいた。

波が立つ音と一緒に女の悲鳴が聞こえる。助けを求める声だが彼女の周りには助けてくれる人は誰もいない。

助けを求めた女性 樋上は自分の顔を守ろうと抵抗している。

樋上の顔に目掛けて拳を振るっている女は鬼のような怖い形相で襲いかかっていた。

数分前。樋上はペンダントを海へ投げ捨てようと振り上げた時、背後から女性が自分を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと目の前にいたのは、とても綺麗な女性だった。

厚着のコートを羽織っていて長い黒髪をした美女が背後に立っていた。

お日様のようなにこやかな笑顔を見せる彼女を見て樋上は驚いて度肝を抜かした。

12月の真冬、波止場の上でペンダントの奪い合いで押した衝撃で海に落下し命までも落とした陽菜本人だった。

服装はあの時のままで白い影となって姿を現した陽菜を見て夢かそれとも幻かと思った樋上は言葉が出なかった。

お日様のように明るい笑顔を向ける陽菜。しかし、その優しそうな顔が急に変わった。

突然、彼女の白い手が樋上の頬を一発強く叩いた。平手打ちを受けた樋上は衝撃で体制が崩れ転んだ。突然、現れて平手打ちを受けた樋上は鳩に豆鉄砲を食らったかのような顔をしてこちらに迫り来る陽菜を見て尻もちつきながら後退った。

浜辺の砂場の上で腰を抜かしていた樋上は慌ててペンダントを砂浜に捨てスマホを取り出して大海に連絡を取ったが雑音でなかなか聞きにくかった。

これは数分前の出来事だ。

そして、現在は陽菜にのしかかられて殴られている。

陽菜は、樋上を逃がさないよう彼女のお腹の上に乗っかって手のひらではなく強く握りしめた拳で殴りかかっていた。

霊は実体を触れることはできないはずだが、陽菜は簡単にできた。霊が物理的な攻撃を食らわし樋上を殴り続ける。

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