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第三話 オ日様ニ嫉憎ト背後霊ノ報復(その5)

午後10時。

中華レストランは閉店した。

俺とサエグサさんはスズメさんと今日の目的である大海さんが店から出てくるのを外で待機していた。

それにしても、俺は本当に親切過ぎるのかもしれない。

サエグサさんはたくさん注文した料理の代金を持ち合わせていなくて俺が彼の分と一緒にお金を払った。スズメさんが友達だからと安くしてくれたからいいけどおかげでお小遣いが素寒貧になりかけている。

この人は本当に自分が思っていた以上、食べまくっていたから驚いたけど高校生に奢らされる大人ってどう思う?

親切過ぎると身を滅ぼすって前にサエグサさんに言われたけど正にそうかもしれない。

すると、入り口から制服姿のスズメさんと私服姿の大海さんが出てきた。

こう思っちゃ大海さんに大変失礼だがイケメンなのに私服は何というかちょっとダサく見えるのは俺だけだろうか?

「お待たせ。昨日お話ししました。大海さんです」

「初めまして」

とても律儀そうで素直そうな人だ。

「どもども~。サエグサです。ヨロピコ」

お笑い芸人みたいな自己紹介の仕方をするサエグサさん。

「初めまして。祭城です。スズメさんと同じ学校に通っています」

背筋を伸ばして体を斜め40度の角度でお辞儀をする。

それにしても、大海さんはどこぞの芸能事務所にいそうな凛々しい顔をしている。

大海さんはもう一度丁寧にお辞儀をすると「どっちが朱冨さんの彼氏なんだい?」と彼が小声で言うのをキャッチした俺は一瞬ドキッとした。

スズメさんもほんのりと頬を赤く染めて「ち、違います。友達と知り合いです」と慌てて答える。面白半分でちょっとだけスズメさんに意地悪したのだろうか?

まるで年下の妹が連れてきた男友達を見て年上の兄が軽く揶揄う兄弟あるあるみたいだ。

改めて見ると大海さんは確かに俺たちより年上だけどまだ若々しい。25~27歳ぐらいだろうな。

「朱冨さんから聞きました。俺に何か訊きたいことがあるみたいですね」

「あっ。はい。僕です」

元気よく手を挙げたサエグサさんはそのまま質問に移った。

「響矢くん。急で悪いが今から君にいくつか質問するから答えてくれるかい?」

そう訊かれた大海さんは「はい」と頷いた。

「最近、体調が悪くなったりしたことは?」

そう問われると大海さんは迷うことなく即答した。

「いいえ。特には」

「じゃあ、次。感情が乱れたりしたことは?」

「あまりないですかね」

「気分が落ち込みやすくなったり心身の負担になったりしたことは?」

「いいえ。問題はありません」

「じゃあ最後。最近、誰もいないのに物音が聞こえたり気配を感じたりは?」

「それは時々あります。気配は感じませんが物音は聞こえたり聞こえなかったり」

「いつから?」

「三カ月前ぐらいからです。でも、あまり気にしてはいませんが」

質問を終え彼の答えを聞いたサエグサさんの判定は・・・・

「長年見てきた僕の結論からしてどうやら悪霊じゃないみたいだな」

「あの・・・。一体何の話ですか?」

俺たちは大海さんに会いに来た理由を話した。

彼の背後にいた幽霊の事や心霊写真についてなど。

普通なら意味わかんなくて混乱するかもしれないが彼は違う。

「やっぱり。これは心霊写真だったんですね」

スズメさんにスマホを借りながら大海さんは仕事仲間から送られてきたこの写真が心霊写真だという事は分かっていたみたいだ。

「知っていたのね」

「初め写真を見た時は『えっ?なにこれ?』って驚きましたがすぐ心霊写真だっていうことが分かりましたよ」

それもそのはず。あの写真はスズメさんだけじゃない。大海さんや他の人達にも出回っている。突然、心霊写真が取れてしまったことに受信者はもちろん撮影者も驚いただろう。

それにこの人、受け入れが早い。

最初は偽造とか合成写真とかだと疑うのに一発で本物の心霊写真だていう事を納得していた。

「サエグサさんでしたっけ?もしかして、漫画やアニメで観た人間の負の感情から生まれる『呪霊』と戦う呪術師とか魔法律で悪霊を裁いたりする執行人みたいに幽霊とバトルしたりする霊術師か何かをやっているんですか?」

どうやら大海さんはサエグサさんの事をホラーでブラックなファンタジー系漫画作品に出てくる主人公か何かと勘違いしているようだ。

「ん~。まぁ、似たようなもんかな?おっさんこう見えて心霊系を得意とする探偵なんだよ」

「それって現実版の八雲みたいなものですか?」

「それそれ」

大海さんの質問に安易的に受け答えるサエグサさん。

実は大海さんと接触する前日の昨夜、本人から言われたことが一つだけある。

自分が煉網警官であること。そして、地獄から来た元犯罪者で死人だということは絶対に喋るな。それだけ。

喋っても誰も信じちゃくれないとは思うけど本人がそう言うなら受け入れてやろう。

「突然、こんなこと訊いて悪いんだけどさ。最近、君の周りで亡くなった人とかいる?例えば、友達とか」

次は彼の周りに最近他界した人はいないかさりげなく訊ねるサエグサさん。

それを聞いた瞬間、大海さんは心当たりがあるのか浮かない表情を見せた。

「あっ。思い出したくなかったら無理に思い出さなくてもいいし覚えがなかったらないでいいんだ。ただ、単純にその背後霊は君と何か繋がりがあるのかな?と思って」

さっきの質問を付け加えたかのように話すサエグサさんだったが意を決したのか大海さんは真面目な顔で言い出した。

「彼女を亡くしました。いや、婚約者と言ってもいいか」

何かに思いを馳せる懐かしそうな表情を浮かべた大海さんは自身の過去の出来事を語りだしたのだ。

「俺には結婚を約束した人がいました。陽菜ひなという女の子で名前の通りまるでお日様みたいに笑う明るい子でした。彼女とは俺が高校2年生の時にSNSで知り合ったんです。それからは彼女と話すのが楽しくなって時々、連絡を取り合う仲になりました。それから高校卒業して二年ぐらい経った時、陽菜がうちの地元に来てくれてその時が初対面だったんです」

大海さんはその陽菜さんという彼女と過ごした日々を懐かしそうに語り続ける。

「それからは毎年夏と冬には定期的に会っていました。もちろん。結婚の約束もしたんです。付き合い初めて三年ぐらいで俺は東京に住んでいる陽菜の両親に会って彼女と結婚することを報告したんですが、陽菜の母親がそれを認めてもらえなくて。陽菜のお母さん。きっと、どっかの田舎から来たどこぞの馬の骨とも知らない俺に大事な一人娘を渡したくなかったかもしれません。陽菜が言っていました。いつも自分の将来を心配しすぎるところがあって時々、母親が考えた事を私にさせようとするって」

「その陽菜さん?のお母さん。典型的な過保護型人間だな。過剰な育て方をすればその子供に多大なる影響が出て結果、人生最低な泥沼絶望コースを送ることになる」

「そうですか?子を心配する親って思いやりがあっていいのでは?」

「それは分かるが限度ってものがあんだよ。過保護型は危ない親トップ4の内の一つだ。普通の子供は自分の目で見てきた景色や自分の身で体験したことを経験として活かし興味を惹かれるようなものがあったら一度は冒険をしてみたりして知識や感情を得ながら成長するんだ。その成長の中で子供は『自立心』や『自主性』を多く学ぶ。だが、それを妨げ子供の成長を邪魔し悪影響を呼んでしまう親がいる。それが『毒親』っていうやつだ。陽菜さんお母さんは自分が過保護だってことはあまり自覚していないと思う。子を心配するって自分の子供をそれほど愛している証拠だ。だが、その愛が強すぎて関係に亀裂が生じてしまう事だってある」

妙に人の心理を詳しそうに話すサエグサさんを見て俺は思った。

100年も生き続けていることだけはあるな。と

じゃなきゃこんなにも詳しくは話せない。きっと、サエグサさんはこの100年間、いろんな人たちの様々な心情を見てきたんだろうな。

「陽菜さんは母親の強すぎる愛情と過保護で縛られていたかもしれんな。狭い籠に閉じ込められた小鳥のように。あくまで僕の予想だが、陽菜さんは君と結婚することで〝実家〟という鳥かごから抜け出したかったかもしれない。それで、なぜ彼女が死んだんだ?」

そうだ。なぜ、陽菜さんは命を落としたのかその理由を知りたかった。

その質問をした途端、大海さんの表情が歪んだ。

ここから先は本人にとって辛い記憶になるという事が分かる。

「海に落ちたんです。一年前の12月の冬。クリスマスが始まる一週間前に会いに来てくれたんです。俺はその日、漁の仕事があったので昼休憩の時に会う約束をしたんです。俺たちはいつも波止場でよく海を眺めたりしながら話したりしていました。あの時は、生憎の曇り空で波風が強かったんです。俺は波止場じゃなくて事務所で待つようにと伝えたのですが陽菜はいつもの波止場で待っていると言って一人で波止場の方へ行きました。昼休憩になって待ち合わせをしていた波止場へ行ったのですが彼女の姿がなくてしばらく捜しました」

大海さんの記憶の中にはいつも来ていた波止場で待っていた陽菜さんを探し回る自分の姿が映った。

厚い雲に覆われた寒空の下、一人だけ波止場で待っていたはずの彼女を探す大海さんは家族や港の人達に彼女の行方を聞き回っていた。

何度も応答もしない連絡をかけ続けながら仕事をほっぽり出して町中捜してみたがどこにも見つからなかった。

「彼女が行きそうな所、前に連れてってあげたお店とかいろいろ回りました。でも見つからず水上警察に連絡して捜してもらいました。もちろん。俺も兄と父と一緒に捜しました。くまなく彼女を捜して海の上を駆け回っていた時、警察から連絡が着たんです。陽菜の死体を見つけたと」

大海さんは今でも鮮明に憶えている。

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