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第三話 オ日様ニ嫉憎ト背後霊ノ報復(その3)

放課後─

バスケ部の部活が終わった後、スズメさんと一緒に北鎌大商店街に足を運んでいた。

あの時、現世交番所を出て帰る途中に通った商店街だ。

鎌倉から徒歩で行くと51分ぐらいかかるちょっと遠い所だが駅を使えばそんなに時間はかからない。駅から行けばすぐなので徒歩より電車の方が楽チンだ。

商店街に出ているお店はいろいろあるが中には閉店しているお店がほとんどあって飲み屋やレストランなど食事ができる店はまだオープンしていた。

家にいる伯父さんたちには『今日は友達とご飯食べて帰ります』と連絡済みなので心配はない。

夕方でも賑やかな商店街の中、俺とスズメさんの二人だけで喧騒する来訪者たちの中を歩く。この商店街を出て右折し少し歩いたら今度は左折して路地裏に入る。

あの不思議な通りがあった場所がどこなのか俺たちはしっかりと憶えていた。

北鎌大商店街の出口を抜けて右へ曲がる。そして、少し真っすぐ歩いたら左折して人気ひとけの少ない路地裏に入る。

前にも思ったが本当にこの路地裏は人とすれ違うことはなくただ単に静かで街灯の光と左右を挟む建物だけしか景色が見えない。

この時間帯なら誰も通らないのは当然だがあまりにも静かすぎてちょっと淋しさを感じるのは俺だけだろうか?

記憶を辿りスズメさんと確認しながらこの前まで通ってきた道を歩いて先へ進む。

そして、俺たちは足を止めた。

「確か。ここだったよな・・・?」

周りを見渡しながら訊く。

「うん。確かにここで間違いないと思う」

スズメさんの視線の先には何もないただのブロック塀の壁が立ち塞がっていた。

「変だな?この前はこの先に道があって通れたはずだけど?道間違えたのかな?」

何の変哲もない普通のブロック塀の壁を見て考え込む。

「いや。そんな事はないと思う。前にここを通った時もマンホールがあったもの」

スズメさんが指を指した方にはブロック塀に挟まれた短い道の下にマンホールの蓋があった。ヤマザクラが描かれたレトロなマンホールだ。

そういえば、確かにあったなとマンホールの存在を思い出した。

「だとしたら、ここのはず。だけど、あの交番への道なんて」

ブロック塀の壁しかない光景に俺とスズメさんが首を捻っていたその時だ。

「なんだ。誰かと思えば君たちか」

背後から声が聞こえたので振り返ると昔の警察服にボサボサ頭をした男がいた。

「もうここには来るなって言ったはずだが?あそこは君たち生者が行ってもいい所じゃないと話したはずだ」

忠告をしたはずだと言うサエグサさんはまるで俺たちをあの交番、あの町に近づかせたくないような言い方をして帰らせようとしている。

「すみません。ちょっとサエグサさんに相談したいことがあって」

俺は忠告を無視した事を謝った。

「あの。これ。この前、悪霊から助けてくれたお礼がまだだったので」

紙袋を差し出したスズメさん。

サエグサさんは彼女から紙袋を受け取って中身を見ると

「えっ!これ!焼きおにぎり!?しかも、小町通りでしか売っていない羽根つきじゃん!」

とても興奮しながら喋るサエグサさんに差し入れたのは小町通り商店街にある人気の羽根つき焼きおにぎり専門店で購入したチーズリゾット羽根つき焼きおにぎりだ。

スズメさんはここの焼きおにぎりがすごく好きで差し入れにいいかもと買ったのだ。

「えっ?!貰っていいの?やった!僕、焼きおにぎり大好きで特にここの羽根つき焼きおにぎりがめっちゃうまいから好きなんだ!ありがとう!!」

思った以上にすごく喜んでもらえてスズメさんはホッと笑みが緩んだ。

サエグサさんは焼きおにぎりが好き。今度、俺も焼きおにぎり買おう。

「それで相談っていうのが」

スズメさんが言いかけた時、サエグサさんが「話は交番で聞こう」と言い出した。

興奮が収まったサエグサさんは俺たちを横切り先へ進もうとする。

すると、行き止まりだった壁がいつの間にか道を開いていた。

「どうした?行かないのか?」

立ち尽くす俺たちにサエグサさんが催促すると俺は言った。

「さっきまで道がなかったのに」

先程までブロック塀の壁に立ち塞がれて先へ進めなかったのに突然、道が開いて通れるようになっていたからつい唖然としてしまった。

「最初から道はあったぞ?君たちが気づいていなかっただけだ」

当たり前かのように話すサエグサさんがブロック塀の先へ歩いて行くと俺たちも後を追って目には見えなかった不思議な通りに足を踏み入れた。


現世交番所うつしよこうばんしょ

昔ながらの西洋風の作りになっている建物だが日本の和を感じる。

古い建物だから年季が入っていて歴史を感じるし何だかアットホームな気分になるが実はこの交番、牢屋だという事を忘れてはならない。

見た目は歴史ある交番だけど彼が言うには地獄に堕ちた罪人を一人の警察官として自らの役目を果たすまで住まわせる牢獄なのだ。

自分から見てそんなに陰気臭いイメージがなく解放感があって暗さと空気の重さを一切感じ取れないから初めてここが牢屋だという事を知った時は信じられないと驚きそして一瞬だけだが背筋がゾッとした。

牢屋だというなら鍵を閉めて罪人を閉じ込めるはずなのにここは鍵は一切必要ないのか扉がそのまま開けっ放しで放置したり監視カメラらしきものはどこに見当たらないので少し警備が緩すぎやしないかと思うぐらい気が抜けそうな空間だ。

特に囚人が勝手に外へ出入りする事自体が有り得ないのであまりにも自由すぎないか?と思う節もあったりする。

「なるほど。心霊写真か」

スズメさんはアルバイト先の先輩から送られてきた写真をサエグサさんに見せた。

「どうですか?」

本物か偽物かどっちなのか判定を待つスズメさん。

「心霊写真ってのは大半が偽物の確率が高い。レンズの汚れとか光の反射、『パレイドリア』っていう錯覚によって生じる現象とかが原因で脳が勘違いして霊的な証明にはならないことが多いんだ。今の時代じゃあ捏造とか合成写真とか簡単にできるからそういった類もあったりする」

「それじゃあ。その写真は偽造写真・・・」

「いや。これは十中八九本物だ。こんなにもはっきりくっきりと写った霊なんてそうそうない。そもそも心霊写真が世の中に広まったのは1860年代に一人のアメリカ人が撮った写真から始まったといわれている。被写体となった人物の背後に亡くなった家族がその人に寄り添うかのように写っていたらしい。その写真が広まって以来、幽霊の存在が世界中に広まった。当時はデジタルとか合成技術は疎かったから霊に対する信憑性が濃くなっていき─」

詳しそうに解説を続けようとするサエグサさんに「あの。」と小さく手を挙げたスズメさん。彼の解説はこの先も長そうだったので一旦、中断させた。

「もしかして、その霊って危険なものだったりしますか?この前の私が悪霊に取り憑かれた時みたいに」

スズメさんはバイトの後輩が何かよくない霊に取り憑かれていないか心配している様子が見えた。

俺から見たらただの黒い人影でしか写っていないから良い霊なのか悪い霊なのか判断はできない。やはり、幽霊に関する専門知識を持ち合わせたサエグサさんに頼るしか他ならない。

「経験上、僕から見ればこの霊はそんなに危険性はないと思う。前にも話したが幽霊には二つの特徴な色があって白は危害を加えない霊。黒なら危険性がある悪い霊だって話しただろ?それに、悪霊は黒の濃さで危険度が変わる。最悪の場合、凶霊になることだってある。この霊は〝白〟だから人に危害を加えるようなマネはしないとは思うぞ?」

それを聞いてスズメさんは安心したようだ。

「だが、白い霊だからって安心しちゃだめだ。霊にも感情ってものあるからその時の状況によって凶暴化することもある。この女の霊はただ彼を見つめているだけみたいだ」

黒い影の正体は女性の霊のようだ。

「俺たちにはただの黒い影でしか見えませんでしたが」

「それは、君たちが霊に対する意識が薄いからだ。強く意識すれば姿形が具現化して見えてくる。それに、君たちはつい最近まで霊感に目覚めたばかりだからまだあやふやで未熟なんだ。要は卵から孵化したばかりのヒヨコみたいなもんだ」

つまり自分たちは霊感に目覚めたばかりひよっ子という意味か。

「スズメちゃんは実際にこの青年に霊が取り憑かれているのを見たのか?」

まるで事情徴収を受けているかのような気分だ。

「いいえ。私の時は全く霊がいるなんて気づきませんでした。気づいたのはその心霊写真を見てからです」

「ふむ。霊への意識がまだ不安定なようだな。この青年は知り合いか?」

まるで交番で事情聴取を受けているかのようにも見えた。

「はい。今年の2月頃から一緒に中華レストランで働いている人です。後輩ですが私より年上です。名前は大海おおうみ 響矢きょうやさんって言います」

大海さんはフェイスラインが引き締まっていて目が切れ長でベリーショートの髪形をしていて自分よりちょっと背が高そうな爽やか系男子だ。

「大海さんは千葉県の港町っ子なんです。お父さんとお兄さんが漁師さんみたいで船を出してよく漁に出かけたり朝市でお魚を提供したりしているみたいです」

「千葉かー。千葉の漁場って東京湾と太平洋、二つの海域を持っているんだよな?スズキ、イセエビ、アワビ、キンメダイなどが獲れるって聞いた事があるな。そういや、ここんとこ魚食ってねえな。久しぶりに魚食いてー。しかも、苗字が大海とはさすがは港町出身だな」

途中、霊の話とは関係ない私語を挟んでくるサエグサさんだがしばらく魚を食べていないってどれくらい食べていなかったんだろう?

「元々、大海さんも漁師さんだったみたいでお父さんとお兄さんと一緒に漁をやっていたみたいで今は辞めちゃって鎌倉に住んでいます」

「この写真に写っている女の霊もその大海さんと同じ漁師か何かをやっていたのか?」

「分かりません。家族の話ぐらいしか聞いた事がないので」

スズメさんがかぶりを振るとサエグサさんは真面目そうな顔で考え込んだ。

俺はその大海さんっていう人は会った事ないしどんな事情を抱えているかも知らない。ただ、大海さんの背後に女性の霊がいるという事は何か理由があるのかなと俺は思う。

それどころか、俺はまたこの交番に来たことでサエグサさんに注意されるんじゃないかと思った。ここは俺たち生者が来る所じゃないと忠告されたにも関わらずまたこうしてこの交番という名の牢屋にまた踏み入れる時が来るとは。

最初は忠告を聞かなかった俺たちにちょっと厳しい言葉をかけたサエグサさんだが怒りもせず何も言わずに交番へ連れてってくれたしこうして相談にも乗ってくれている。

もしかして、しばらく俺たちに会えなくて淋しかったのかな?

「スズメちゃん。この響矢くんって子に会えたりできないかな?」

貸してくれたスマホをスズメさんに返しながら訊ねる。

「多分会えますよ。明日、バイトがあるので大海さんも来るかも。でも、会うとしたらお客さんとしてなら」

「じゃあ。明日の夜。君の店に行ってみるわ」

どうやら大海さんの様子を見る為にスズメさんがバイトしている中華レストランへ行くみたいだ。

「祭城くんもどうだ?来るのか?」

急に話を振ってきて俺は気づいた。

「俺もですか?」

すると、スズメさんが俺に言った。

「よかったらジョーくんもおいでよ。友達のよしみとして特別価格にしてあげるから」

スズメさんにもそう言われるとちょっと迷う。

今日、友達と夜ご飯済ませてくると伯父さん達に連絡しちゃったから明日も連続で外食してもいいのか迷っていた。

「せっかくだから一緒に行こうぜ。って、ジョーくんって?」

「祭城くんのニックネームです。うちの学校ではそう呼んでいます」

「へぇ。じゃあ、僕もジョーって呼んでいいかな?いいかな?」

まるで中学生の男子みたいなテンションで俺をニックネームで呼んでもいいか訊ねてくるこの人に「いいですよ」と俺は答えた。

最初は警戒していたスズメさんだが今は少し緩んだのかサエグサさんとお店の事で話し合っている。この明るい空気、何だか俺も一緒に来るみたいな流れになっているみたいで少し断りづらくなっていた。

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