第三話 オ日様ニ嫉憎ト背後霊ノ報復(その1)
霊を信じるか信じないかは人それぞれだ。
目に見えないものを見ること事態がさすがに無理といえよう。
あの人は、「目に見えるものだけしか見ていない」と言っていたが自分達は目に見えているものばかり頼っているとは思ったことがない。
だからあの時、急に霊感が目覚め幽霊を見るようになった。
幽霊って漫画とか小説、ドラマや映画、そして心霊系番組だけしか見た事がないから実際に霊が見えるなんてそうそうない。
あれから俺は外を出歩く度に霊がちらほら見かける。前みたいに人間らしい姿が見えるとは限らないが黒い人影っぽい存在がぼやけて見える。
この前はちゃんと人間の姿が見えたのに。
今でも俺は信じられなかった。まさか、自分が心霊体験をする羽目になるとは。
小町通り商店街から少し離れた先にある所に俺が住んでいる家がある。
俺の家は団子屋で名物は草団子である。元々は東京の葛飾区柴又に店舗を構えていたが80年前に空襲で店が全焼し無くなってしまったらしい。
それから一ヵ月の月日が流れた時、鎌倉に住んでいた祖父の親戚が店を辞めるとのことでお店を譲ってくれたのだ。幸い、親戚のお店は空襲被害を避けることができて損壊はなかった。その親戚はお婆さんで夫は病気で亡くし一人息子は戦死したとのことで一人店をやるのは難しく自分も年を取っていたので曾祖母家族に譲ってくれたと伯父さんから聞いた事がある。そこから団子屋「まつりや」が柴又から鎌倉へ移転したのだ。
店の近くには小さな印刷所があってそこで働く社員さんにとっては「まつり屋」は彼らの休息場みたいなものだ。
「金望社長には度々参るよな。明後日までに小生館に依頼された書籍の印刷物を用意しなきゃいけないっていうのに急に次の依頼を引き受けて来週までやらなくちゃいけないなんて」
印刷所で働いている男性作業員が愚痴を零していた。
「今時、手作業でインクを転がしたり活字を並べて印刷するとか時代が古すぎますよね」
まつり屋で昼食休憩を取っているお兄さんおじさん方が口を揃えて会社の仕事内容についていろいろと話し合っていたのを小耳に挟んだ。
「でも、あの人はそんなに悪人っていうほどじゃないからな。でも、時代の感覚がズレてるというか」
「一応、良い人だけどな。でも、他の印刷所みたいにデジタルとかコンピューターとかで少しは楽にやっているらしいからほんと、羨ましいよ」
全て手作業でやっている自分の職場とデジタルやコンピューターで制作・加工をしている他の印刷所と比べてみて明らかに対比の差がある。
俺も初めて彼らが働く印刷所が全部手作業でやっていると聞いた時は度肝を抜いた記憶がある。
彼らの他にも数人お客さんがいて俺は使ったテーブル席を綺麗に拭いたり後片付けや時々、厨房で団子作りなどをして手伝っている。このお店で働いている従業員は三人。そして、伯父さん伯母さんがお店の仕事をしたりして切り盛りしている。
俺は仕事というよりお手伝い感覚でやっていてしっかりとバイト代は貰っている。
まつり屋は杢目のある建物で和の趣と落ち着いた空間がある昭和情緒を感じさせる伝統的な店だ。店内の奥には座敷があって二階には俺と弟の部屋がある。
「やっぱ、社長に直談判してもう少し作業をやりやすくしてもらえるよう頼みましょうよ」
「言っても無駄だろう。金望社長は昭和の親父だから」
「永富さんも昭和の親父じゃないですか」
「うるへぇ!自分がどんなに年食った親父でも俺は社長みたいな頑固者じゃねぇよ」
「でも、酒を飲むと更に昭和親父臭くなりますよね」
「親父臭いっていうな!まるで、加齢臭みたいに聞こえるだろ」
すると、彼らから笑い声が聞こえた。
ついさっきまで社長の事を愚痴っていたのに今は楽しそうに笑っている。
印刷所の作業員のみんなは常連さんなのでいつも会社の事やプライベートの話がたくさん耳に入るので聞いていてもこれはこれでなかなか面白い。まるで、大人だけしか知らない秘密を知ったみたいで。




