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第二話 七種十三郎トイウ男(その6)

別の使い道?

俺とスズメさんは二人揃って考えた。

脳の中に保存してある過去の記憶を遡りサエグサさんが言っていた使い道とやらを探してみた。俺はサエグサさんとは今回で三度目の再会を果たしたがそのずっと前を思い出してみた。そう。あれは、あの十字路で初めてサエグサさんと会った時、彼は大型トラックに轢かれて─

「あっ」

俺の頭の中にある過去の記憶の中に一つだけ心当たりがある光景を思い出した。

確かあの時、血塗れで大怪我をして倒れていた彼を助けようと救急車を呼ぼうとした時のことだ。

「怪我!轢かれた時の怪我!」

そう答えたら「当たり!」とサエグサさんは立てた人差し指を俺に向けた。

スズメさんも後を追うかのように思い出したみたいで俺の答えを聞いてピンときた。

「この霊丹は僕の成績を表すだけでなくこれを口にすれば負傷した怪我を治すことだってできる。ただ、この妙薬を飲むには決まりがあってな。霊丹を七粒飲めば怪我、十粒飲めば病気を治せる。そして十五粒飲めば若さを取り戻せる。ただ、使うと霊丹の数が減れば量も減ってしまう。この通り、角灯に残っている霊丹はほんのちょい少しだ」

見てみれば確かに角灯に入っている現在の霊丹の数はそんなに多くない。

「あのトラック事故で轢かれた時も七粒も消費した。霊丹は金みたいに節約しなくちゃいけない。君たちも経験したことがあるだろう?もうすぐ小遣いが無くなりそうだから節約しなくちゃいけないのについ欲しい物を買って気づいたら所持金がスズメの涙ほどしかなくなったという悲しい現実を」

言われてみれば確かに。

俺も何度かあった。もうすぐお金が無くなりかけていた時に次の小遣いを貰える日まで何とか持ち堪えようと心掛けていたがいつの間にかお金が減って結局使い果たしてしまう苦い経験。

「それと同じで出来れば極力霊丹を使いたくないわけ。だが、僕が借りているこの体はなぜだか不幸に見舞われるわけ。持ち主には申し訳ないがいわば貧乏くじを引いたみたいなもんだ。だから霊丹の消費が半端ない。そう毎日ずっと不幸に見舞われるっていうわけではないが・・・。とにかく。この霊丹は僕が罪を償っている証でもあるんだ。どんどん集めなくちゃならない。成績をもっと増やすには危険な霊を捕まえなくちゃいけない。もちろん。この体は普通に年を取っていく。年月経てば僕だってジジイになる。転生するのに霊丹を使うのが勿体ないなんて言ったらジジイになってそのまま寿命が尽きて僕は再び地獄へ堕ちる。もちろん。この前みたいに大きな事故に遭って大怪我して霊丹を使わなかったら命が尽きてバックトゥザ地獄になってしまう。僕は地獄には戻りたくない。だから危険な仕事と知っていながらやっている。霊丹をもっと集めたい。でも、給料は出ないし生活費もない。就職したくても履歴書や成績証明書、住民票も戸籍とかもない。生活費を稼ぐには自分で考え自らコツコツと地道にやっていくしかない。貯金をしてお金を貯めたとしてもやりすぎてしまえば不健康になる。貯金は幸福をしてくれると思われがちだがそうでもない。将来に備えるために金を貯めることはいいが必ずしも幸せになれるとは限らない。病院に行けば医療費が払えない。保険証を買うにも金が必要になる。だからといって、病気や怪我をした時に霊丹を使えば問題解決するが、それは金を節約できる分霊丹の貯蓄が減ってしまう。

もちろん健康的な生活を送ってから転生したい」

「そういえば。光熱費も水道代も払えないって言っていましたね」

「ああ。それも全部含めてだ。だから、霊丹は節約したいし金も稼ぎたい。稼いだ金で美味しい物食いたいし欲しい物も買いたい。就職したいとしてもそれなりの資格が必要で金もかかる。まぁ、平たく言えばこの世もほぼ地獄ってことだな」

「そういえば。さっき住民票も戸籍もないって」

「ああ。住民票を作るのって運転免許証とかほら。最近できたマイなんとかがなきゃ作れないだろ?僕、免許証とか身分証明なんて持っていないから。戸籍はまあ・・・ちょっと作る気がなくってね」

「?」

戸籍を作らない?何か理由でもあるのだろうか?

「まぁ、とにかく。僕は就職できなくても地道に金を稼ぎながら悪霊捕まえて霊丹をいっぱい集めたい。だから今もこうして牢暮らしをしているんだ」

「牢?」

「交番って都合のいい言い方をしているがここは刑務所といってもいいぐらいだ。僕みたいな煉網警官になった者が完全に罪滅ぼしができるまで一生を過ごす収容所みたいなもんだ。」

刑務所。冷たさを感じるその名前を聞いた時、俺は気づいてしまった。

そういえば。この休憩室もそうだが交番の窓はなぜか鉄格子になっていた。

外見は古い交番だが改めて見返してみると確かに牢屋っぽい感じがする。

ここが刑務所だとすれば妙に温もりがあって見た目は変わっても中はそんな重苦しい空気は一切感じないのは逆に不気味さと同時にゾッとした。

本人の口から事実を聞かなかったら俺はこの交番が牢屋だっていう事は全く気づかなかった。

「交番の看板を見ただろ?『現世交番所 第参獄』って。現世うつしよってのは人間界のことな。第参獄っていうのは三つ目の牢獄って意味だ。交番所は日本各地にあるが一体いくつあるのかは知らない。ここは罪を犯した者が警察官として働けるよう特別に作られた施設だそうだ」

陽気に明るく話す彼に俺とスズメさんはしばらく口を開けたまま何も言わなかった。

サエグサさんは一風変わった怪しい人なのは確かだけどそこはかとなく人としての倫理を持っていて少しは警戒するがそんな危険人物のようには全く見えなかった。

ただ彼の発する言葉は俺たちとは少し違う世にも奇妙な話ばかりだ。

霊が見えるようになったのもサエグサさんと関わっている事が原因なのか?

「あの。さっきから気になったのですが、煉網警官って?」

軽く手を挙げるスズメさん。

「煉網警官ってのは、まだ罪が許されていない人間が悪さする霊を捕まえ取り締まったりする存在だ。煉獄の網。要するに、網に囚われた罪人を煉獄の火で炙りながら徐々に犯した罪を浄化するという意味を込めて付けたんだろう。例えると熱い温泉に入れたタマゴを茹でるみたいなもんだ。それにしても、ほんと神様はよく考えたよな。罪を犯した人間を借り物の体を与えて罪人を警官にしてこの世の秩序を守らせるようとしているんだから」

よくできた話だと気の抜けた顔をしてコーヒーを啜った。

俺からすれば何だか重そうな役割を持って大変そうだなと思うと同時にサエグサさんからはあまり苦労しているようにも見えなかった

そして、今使っている体が借り物なら本体はどんな風だったのか気になったりもした。

「とまあ、こんな感じで僕は悪霊を捕まえながらコツコツと霊丹を貯めて生活をしているってわけ。ここまでで何か質問は?」

質問タイムが始まった。

まだ気になる事も聞きたい事が山ほどあるがありすぎて混乱している自分もいた。

これはまるでオカルトの話に等しいといってもいいぐらいあまりにも不可解すぎて何の質問をすればいいのかと考えていると隣に座っているスズメさんが話しかけた。

「あの。私、全く霊感なんて持っていないのに急に霊が見えるようになることってあるんでしょうか?ついさっき悪霊に取り憑かれていたからかはっきりと霊が見えたような・・・。それともただの幻覚だったのでしょうか?」

合理的主義なところがあるスズメさんも本当に霊が見えていたのかどうだったのか自分の目を疑っているようだ。

「まあ、自分を疑ってしまう気持ちは分からなくもない。でも、突然霊感に目覚めてしまう例はいくつかある。さっきみたいに霊に取り憑かれた影響で目覚めてしまうこともあるがこれはごく稀にあることだ。または君自身が元々、高い感受性を持っていたかまたは霊感が強い家族または親戚がいて遺伝的に引き継がれたかのどちらかだ。まあ、君の場合はあのおっさん霊に憑かれた影響で目覚めたのかもな」

そう聞くと何だか嫌な気がした。

一応、自分もそのおっさん悪霊に人質されたからその影響で霊感を持ったのかも。

「でも、大まかに言うと一番は僕と出会った事が原因で君たちの中に眠っていた第六感が目覚めたかもしれないな。念の為に言うが一応、僕は死者だ。君たちは既にこの世にはいないはずの死者とこうして茶をしながら会話をしたりしている。あの時、十字路で出会ったことで君たちに霊感が目覚めたのかもしれない」

そう言われても自分に霊感らしき違和感は全く無かった。でも、サエグサさんと初めて出会った二日後から影が見えたけどあれは霊だった事を知った。

「でも、まさか。本当に幽霊が見えるなんて。幽霊ってオカルトとか心霊系の話だけでただの作り話かと。常日頃に科学が進展している21世紀に本物の幽霊がいたなんて・・・」

まだ信じられないかのように頭を抱えているスズメさん。

俺だってあの影とおっさん霊を見るまでは幽霊が本当にいたなんて知らなかった。

「そりゃあ。君たち現代人は見えているものだけしか見ていないからだ。今の世の中じゃ祭城くんたちみたいな人間がこの世界は自分たちの物で支配しているんだと思い込んでいる。だが、どこかしこにもいるんだ。目に見えていなくても君たちの周りにちゃんと彼らは存在している。要は気づいていないだけだ。存在しているものを存在していないと信じているだけ。幽霊はもちろん妖怪だってそうだ。見えないけどそこにはいる。家の鍵を失くした時、あちこち探し回った結果、意外にも自分の近くにあったのと同じだ。それぐらい人間の目は節穴だってことだ。長年一緒にいる妻が床屋へ行って髪を切った事を夫は全く気づいていないのと一緒でそれぐらい人間は鈍感なんだ。見えているはずのものを見落としがちなんだよ。だが、目には見えていないものを意識すれば自然に見えてくる。この町もそうだ」

「町?」

「そうだ。今、僕たちがいる交番は君たちには見えてはいないはずだった『町』の中にある。ここは、その町の入り口ってことだ」

そう説明を聞いていた時だ。

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