第二話 七種十三郎トイウ男(その5)
あまりにも唐突すぎて俺たちはこの人頭おかしいんじゃないのと思っている顔をしていたから「やめろ。訝しげに『へんなおじさん』の七文字を思い浮かべるんじゃない」と心を読まれたかのように指摘された。
いや。だって。急に地獄から来たって言われたても『ああ。なるほど』なんて言える訳ないでしょうが。
やっぱり、この人。この前の轢き逃げ事件のショックで後遺症としてショックが起きたんじゃないのか?
「そんな顔をするなって。無理に信じなくてもいいけど話ぐらい聞けって。僕はその地獄から派遣されてこの交番のお巡りさんとして悪霊たちを捕獲しているんだ」
「悪霊?」
「さっき、僕が手錠をかけてあの世へ強制送還した男がいたろ?あいつも悪霊の一人だ。悪霊ってのは簡単に説明すると人間に害を加えるタチの悪い奴だ。そこのお姉ちゃんに取り憑いていたのも悪霊の一人といってもいい。幸い、あいつはほぼ悪霊になりかけていたけど完全体になったら今回のようには済まされない。最悪の場合、取り殺されていたかもな」
それを聞いた時、スズメさんはゾッとした。
「悪霊の特徴は『黒』だ。黒の濃さによって危険度が変わる。今回のスケベ親父は少し黒ずんでいたからな。因みに『白』はあんまり人間に害を加えない。だが、恨みが強ければ白い霊はやがて黒に染まることだったあるし、現世の滞在期間が過ぎれば自然に悪霊化することだってある。俺はそのいった危険な悪霊を命懸けであの世へ送っているんだ。あの世さえ送れば悪霊化した魂も正常に戻れるからな。だが、死して尚、悪霊になって犯した罪は生前の行いとプラスされて裁判がより厳しくなる」
「じゃあ。俺たちが見た幽霊は悪霊?」
「そうだ。さっき言ったように霊が現世に留まれるのは一時的な一定期間だ。未練を残したあの世へ行けない霊は山ほどいる。だが、未練というものを利用して別の目的を狙う輩もいるからな。例えば、銭湯へ行って女湯を覗きムッチリピチピチなカワイ子ちゃんの全裸姿を興奮しながら見る奴とか」
「もう少し別の言い方はありませんか?」
「奥さんに知られたくないキャバレーのキラキラ名刺がたくさん隠してあったとか」
「おじさんなら必ず後悔しそうなイメージ」
「男同士ラブホでキャッキャウフフしているところを見てテンションあがるとか」
「腐れ女子なら有り得そうな話ですね」
サエグサさんの変な例え話に二人してツッコミを入れてしまった。
「まぁ、こういう未練とかやり残したことがないのに自分の欲望だけの為に滞在期間を利用する奴がいるからけっこう多いのよ。まぁ、期日を守ってくれれば問題ないけど」
「確かにそうかもしれないですけど、それはそれで嫌だな」
スズメさんは自分の目には見えない存在がずっと側にいたらと想像すると気味が悪いと思っていた。
「いや。そんなに怯えることはないよ。中には心配して成仏できない心の優しい霊だってたくさんいる。中には守護霊となって友人や親族の身を守ってくれる人だっているよ。守護霊になるには手続きが必要だけどな。あの世にはちゃんと『職業・守護霊』というのもあるらしいから」
「えっ?守護霊って職業なんですか?!」
まさかの言葉に俺は驚いた。
「中には滞在期間を守らない霊もいる。あの世へ行くのが怖いんだろうな。あの世へ行ったら奪衣婆に服を剝ぎ取られて三途の川に渡ったらすぐ地獄の裁判だからな。いや~。あれは本当にマジで怖いよ。裁判にかけられたらもうおしまいだ。逃げられないし仮に逃げたとしても結局、獄卒たちに捕まる。そのうえ、生前に自分が行った出来事さえも100%バレるから嘘もつけない。知ってる?僕ら人間の人生は全部、地獄で記録されているんだぞ?記録は裁判に欠かせない究極な証拠物だ。現世とは違ってあの世の尋問は泣きたくなるほどめっちゃ怖いからな。僕も裁判を受けた事があるから分かる。慈悲なんて絶対にできないからな」
俺から見てサエグサさんは大袈裟に話しているようにも思えるがどうも嘘をついているようには全く見えない。
この話は本当みたいだし作り話にしては妙にリアルな感じがする。
頭がいいスズメさんからして彼をどう思っているのかは分からないがまだ信じ切れていないかもしれない。
「ちょっと話が逸れたが特に俺がやっている仕事は滞在期間が過ぎて不法滞在している霊を取り締まったり恨みや嫉妬など強い感情を持って暴走し人間に危害を加える悪霊を逮捕してあの世へ強制送還すること。だけど、この仕事は本当に命取りなんだ。下手すればやられてしまう恐れがあるからな。やられたらそれは『死』を意味するからそのまま地獄へ送り返される。いわば、ゲームオーバーだ。今、君たちから見て僕はどんな姿をしている?」
急に変な事を訊いてくるので俺はスズメさんと目を合わせた後、答えた。
「どんな姿って・・。どこにでもいる普通の30代の男性・・・ですけど?」
当然のように答えるとサエグサさんは頷いた。
「そうだな。でも、実は僕はもう少し若い年ごろなんだよ」
俺たちは再び訝しげな顔をして『この人、大丈夫なのか?』と思った。
「いや。マジほんと。外見は30後半だが実年齢はもう少し若い。まあ、ざっくりと言えば見た目が30代後半のおっさんで中身は20代半のお兄さんということだな。これにはちゃんとした訳がある」
見た目がおっさんで中身がお兄さんなんて、そんな頭脳は大人で見た目は子供である高校生探偵みたいな事って実際にあるのか?!
「この体は借り物なんだよ。つまりレンタルってやつだ」
「借り物?」
どういうこっちゃと俺とスズメさんは更に疑問が深まった。
「そう。さっきも話した通り、僕は地獄から来た。地獄だと肉体を持たないただの幽体。つまり魂だけの存在になる。そして俺の肉体はもうかなり昔に滅んでしまった。滅んでしまった以上、元の肉体に戻ることは不可能だ。そこで、神様から別の肉体を貰い受けた。別の肉体だから自分とは違う他人の体を使う事になるんだ。いわば、使えなくなった古い入れ物から新しい入れ物に変えたってことだ。スマホでいう機種変みたいなやつ。今、僕が使っているこの身体は当時、30代で亡くなった男の体だ。僕はその人の体を借りてこうしてお巡りさんをやっているんだ」
あまりにも信じられない話にスズメさんは額に手をつけて再確認した。
「えっと。つまり。あなたは元々地獄にいたんだけど神様によって魂だけだったあなたが肉体を持つようになった。しかし、その肉体は別の人の物だったので中身はサエグサさんだけど体は本来の姿じゃない。元々の体はすでになくなったので亡くなった男性が使っていた新しい体に入ってお巡りさんをしている。で、いいんですよね?」
本人から聞いた話を簡単に整理してまとめあげたスズメさんにサエグサさんはグーサインを出した。
「なんか、あまりにも突拍子しすぎるような。大体、その体は亡くなった男性のものですよね?本人の許可を得るとか何かしたんですか?」
「許可もなにも。その男はもうあの世へ行っちゃっているからな。その男は僕が地獄で拷問を受けていた途中に亡くなったからな。この体になったのはあまり憶えていないが確か、元号が昭和に変わってまだ間もない頃だったな」
「元号が昭和になって間もない・・・。えっ!?」
スズメさんはびっくりした顔をして目を大きく見開いた。
「100年前!!?えっ!?つまりサエグサさんは100年前ぐらいにその体を使っているの!?」
彼女の驚いた声につられて俺もびっくりした。
100年前に現在の体を手に入れた。つまり、サエグサさんは100歳ぐらい年を取っているということなのか?!
「えっ!?でも、ちょっと待ってください。本当に100年前からいるとしたら相当な年寄りですよ?100年経っているのにそんなに若くないはずじゃ?!」
「それはこれがあるからだ」
すると、サエグサさんは腰に装備していた錨とランプが繋がった鎖を見せてくれた。
「これは霊鎖。霊を捕えるための鎖だ。錨の方は逃げ出す霊を引っ掛けて捕えたり固定したりできる。そして、錨と一緒に鎖で繋がれているこれは角灯だ。別名ランタンやカンテラとも呼ぶ。この角灯の中に入っている紫色の小さな飴みたいなものがあるだろ?これは『霊丹』といっていわば〝成績表〟みたいなものだ。煉網警察官としての働きによって霊丹が少しずつ増える仕組みになっているんだ。そして、この角灯の中身が霊丹でいっぱいになれば僕は罪を許され転生ができる。霊丹は成績を表すものだけじゃなく別の使い道ができる。その使い方については既に君たちは見たはずだ」




