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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
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[トウエンの町-8] バッカスの真実


 アルネと話していると、1人の男が拍手をしながら現れた。


「新人冒険者とは思えない素晴らしい戦いでした。あなたの実力なら早い段階から、重要な任務をお願いできそうですね。」


 そう言って現れたのは、このギルドのギルドマスターだった。

その横では、受付嬢がバッカスに向かって怒っている。


「もーーー!バッカスさんってばダメだって言ったのに、またこんなことをして! 新人冒険者が心配なのはわかりますけど、いい年なんだから、そろそろ腕試しの悪者役は卒業してください!」


 バッカスは、少し気まずそうに肩をすくめながら答える。


 「わかった、わかった。」


 辟易としたバッカスの様子を見て、ギルマスがさらに口を開いた。


「アリアの言うことはもっともです。あなたは領主なんですから、冒険者気分はそろそろやめていただかないと…。」


 ギルマスが真面目な表情で続ける。


「そう言われても、これは息抜きのための高尚な趣味なんだよ。」


 バッカスはちょっと拗ねたように答えた。

さっきまでのバッカスとは全く別人である。


「えっ! 領主!?」


 俺は驚き、目を見開いて言った。

実はバッカス、トウエンを含めたこの周辺地域の領主だった。

 そして彼が腕試しの悪役を演じる理由は、自分が治める領内の新人冒険者に激を入れるためだったのだ。


「まさか、バッカスさんが領主様だなんて…」


 アルネも目を見開いて驚いている。


 思えばこの町に辿り着いた日。街の活況を眺めて、この辺りを治める領主はさぞ優れてる人物なのだろうと感心したが、まさかその領主がバッカスと同一人物だとは…。こんなにイメージが乖離してると脳がエラーを起こして上書き保存が難しい。


「確かに俺は領主だが、俺がこうして遊ぶことは、町を守るためでもあるんだぞ。新人たちは気が緩みやすい。時にこうして緊張感を持たせねば、命の危機を招くからな。」


 バッカスは真面目に答えた。

でもこの人、遊びって言い切っちゃってたぞ!いいのか?


「俺の仲間はガラの悪い連中に見えるだろ?こいつらは元々、街のチンピラだったんだ。俺が手を差し伸べて更生させ、今では大事な大事な部下として雇っている。だからこうして、D級冒険者パーティーの演技にも付き合わせてるわけだ。」


 人望がありすぎるのも困ったもんだとバッカスは大笑いしていたが、部下たちはゲンナリしているように見える。おそらく…日々、バッカスの奇天烈な行動に振り回されて、『大事』とは程遠い扱いを受けている被害者なのだろう。ご愁傷様である。


 受付嬢アリアがその説明に頷きながら補足する。


「こんな領主様ですけど、とても面倒見がよくて、街のために必死に働いている方なんですよ。」


 アリアの念押しが効いたのか、俺視点でバッカスのイメージがかなり変わった。さっきまでは単なる豪快で単細胞な男だと思っていたが、実はこの街のことを深く考え、努力している人物だった。


「じゃあ、昼間から酒臭いのも、演技のためだったんですね!」


 ルーシェが疑問を投げかけると、バッカスは苦笑いを浮かべて答えた。


「いや、それは演技じゃない。酒好きなのは事実だ。」

「え。」

「確かに昼間から酒を飲んでいると、ちょっと目立つかもな。でも、俺の名前はバッカス、酒の神の名前だろ?神に愛されちゃったんだから仕方ないんだよ。」


 すごい言い訳だ。人ってこんな堂々と開き直れるものなのか。


 「まぁ、あれだ!これも愛する領民を守るための必要悪だ。酒を飲むのはD級冒険者バッカス様を演じるための一環だと思って、温かく見守ってくれ。」


 バッカスはそう言い放つと、これでもかってくらいに大きな声でガハハと笑った。


 俺とアルネはバッカスの真意に触れ、良くも悪くも少し感心した。何もかもが計算された上での行動だったとは…。


 しかしここでギルマスが、納得いかないといった口調で一言⋯。


 「演技の一環だと言い張って、私の執務室の酒を飲み干すのはやめてください。」


 うわぁ〜⋯ ここにも被害者がいたよ。


 やっぱり、ただの行き当たりばったりが真実って気がする。



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