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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
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[トウエンの町-5] ギルドへ行こう!

次話[トウエンの町-7] バッカスの真実も、同時にupしました。



 執務室を後にし、俺は廊下を歩きながら考えを巡らせていた。


 ――アマオチ。黒髪の者。


 自分がその「天墜」と呼ばれる存在なのかは分からないが、少なくともこの世界では珍しい特徴を持っているのは確かなようだ。そして、俺と一緒にいたこの鳥の正体も、俺が無意識に行った手を合わせる仕草の意味も、誰も知らないという。


 自分は何者なのか?どこから来たのか?


 その手がかりを探るためにも、これからの生活手段としても、ギルドに登録し身分証明書を得る必要がある。そう決めたものの、商人ギルドか冒険者ギルドか、どちらを選ぶべきかはまだ迷っていた。


 そんなことを考えながら歩いていると、ふと、廊下の側面にある花壇が目に入った。


 鮮やかな花々が植えられたそこでは、一人の少女がしゃがみ込んで、丁寧に花の手入れをしていた。


「……アルネ?」


 思わず声をかけると、アルネは手を止め、こちらを振り返った。


「あ、ルーシェ!」


 彼女は嬉しそうに立ち上がり、土のついた手を軽く払う。


「お父さんと話してきたんでしょ? どうだった?」


 聞かれると思っていた質問だった。俺は少し考えながら、ミャクリとの会話の内容を順に伝えることにした。


「アマオチのことを教えてもらったよ。黒髪の人間はもともとこの世界にはいないこと。時々アマオチが現れ、子孫を残して増えて今に至ると。俺がアマオチかどうかは分からないけど、黒髪である以上、アマオチの血を引いている可能性は高いらしい。」


 そう言いながら、軽く自分の左手を見下ろした。俺には指輪がない。


「そうね、おそらくアマオチの血筋でしょうね。」


 アルネは難しそうな顔をしながら呟いた。


「それと、この鳥についても聞いてみたんだけど、君のお父さんも見たことがないってさ。」


 俺の肩にちょこんと乗っている赤い羽毛の鳥は、変わらず俺に寄り添うようにしている。


「んー、やっぱり珍しい鳥なのね。」


 アルネは興味深そうに鳥を見つめるが、それ以上は何も言わなかった。


「あと、もう一つ。俺が昨日、無意識にやったこと……食後に手を合わせる仕草のことだけど、そんな習慣のある国はないって言われた。」

「え、それも?」


 驚いたようにアルネが目を丸くする。


「商会主であるミャクリさんが知らないってことは、本当にこの世界では一般的じゃない習慣なのかもな。」


 俺自身、あの仕草が自然に出た理由は分からない。でも、もし俺がいた国ではそれが当たり前だったのだとしたら……。


「うーん……ルーシェがもともといた場所の文化なのかな。記憶が戻れば、なんでそんな仕草をしたのかも分かるかもしれないけど。」


 アーシャは腕を組んで考え込む。


「まあ、今は分からないことばかりだな。」

「そうね……。」


 俺たちはしばらく沈黙したが、アルネはすぐに明るい声で言った。


「それで? お父さんは今後どうするようにって?」

「ああ、とりあえず身分証明書を取得するために、冒険者ギルドか商人ギルドに登録するのを勧められたよ。」


 俺がそう答えると、アルネは目を輝かせた。


「ギルド!? それなら私も行くわ!」

「え?」

「私も冒険者ギルドに登録してるの! だから案内してあげる。」


 なんだか急に勢いよく決められた。


「……いや、まだどっちのギルドに登録するか決めてないし。」

「ルーシェは剣を持ってるし、冒険者ギルドでいいんじゃない?」

「そう簡単に決めていいのか……?」


 俺が苦笑すると、アルネは自信満々に頷いた。


「大丈夫、大丈夫! とにかく善は急げよ! 今から行きましょ!」

「今から?」

「そう、今!」


 アルネは満面の笑みを浮かべながら、すでに歩き出していた。


「ちょ、待て。準備とか……。」

「準備なんていらないわよ。身分証明書を作るために登録するだけだし、そんなに時間もかからないはず!」


 すごい勢いだ。まるで俺の意見を聞く前から、全て決まっていたかのような進み具合だ。


「それに、どうせ登録するなら早い方がいいでしょ?」


 まあ、それは確かにそうかもしれない。


「……分かったよ。」


 俺は軽く息を吐いて肩をすくめた。


「じゃあ、 いろいろ用意するから、門で待ってて!」

「……用意?」


(俺には準備なんていらないと言ったのに?)


「うん! とりあえず先に門に行って待っててね!」


 そう言うが早いか、アルネは勢いよく駆け出していった。


 俺はその後ろ姿を見送りながら、呆気にとられる。


「……仕方ない、門まで行くか。」


 まだ考えたいことは色々あるが、まずはギルドへ向かうことになりそうだ。


 俺は肩の上の鳥を軽く撫で、廊下の先へと足を進めた。



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