「懲役782年を言い渡す。」
僕は人を殺した。
何人も何人も殺した。
後悔はしていないよ。
だって君を守れたから。
「懲役782年を言い渡す。」
それが僕への判決。
否、僕と君への判決。
「執行猶予は無いんでしょう?」
僕は訊いた。
裁判長は少し驚いたようにして、
「ああ、無い。」と言った。
そして少し間を置いて、
なにか思い残すことは無いか、と訊いた。
「なんでもいいですか?」
「そうだ。なんでも叶えてやる。」
僕は口元を歪めて言った。
「じゃあ、彼女に会わせて下さい。」
裁判所がざわつくのがわかった。
「え、駄目ですか?」
「・・・許可する。」
連れて行け、と言われて僕は居住まいを正した。
そして笑って言う。
「生きていてすみません!」
傍聴席の方から、非難の声が聞こえる。
大音量の罵声のシャワー。
僕は恨まれる。彼女のために、僕のために。
この国には死刑というものが存在しない。
憲法上のものなのか、宗教上のものなのかはわからないけれど、とりあえず死刑は無い。
だから、僕みたいに懲役782年とかいうあり得ない数字が下されるわけである。
ちなみに、終身刑は存在する。
ならばなぜ懲役782年みたいなことになるのか。
この国では、期間を終えるまで独房を出ることは決して許されない。
それは、つまり。
死んで、死体になっても782年が経つまで埋葬ができない。
これほど惨いものはないのだろう。
別に僕は気にしないけど。
どうせ出れないし、改心するつもりもない。
一種の嫌がらせなのかな、これは。
そうこうしていると彼女の下へ着いた。
「やあ、久しぶり」
「ひさし、ぶり。」
少し痩せただろうか。隈も出来ている。
「ちゃんと寝てる?」
「ううん、あんまり。」
弱々しい笑みを浮かべる彼女。
「駄目だろ、ちゃんと寝ないと。
すみませんが、少しの間二人にしてくれませんか?」
警察の人は無言で部屋を出て行った。
「君が気に病む必要はないんだよ?全部僕がやったことだ。」
「違うわ!」
「違わない。僕が君を守らんと使命錯誤して暴走した結果がこれ。」
そうだろう?と同意を求める。
「で、でも・・・」
「いいんだ、君が幸せでいてくれるなら」
「ありがとう・・・」
彼女は泣きながら僕にしがみ付いてくる。
僕は彼女をあやす様に抱きしめる。
彼女を庇って僕は捕まった。
彼女は僕の前で母親を殺した。
それは何故なのか。
そして、何故僕だけが犯人となっているのか。
彼女はいじめを受けていた。
壮絶ないじめだった。
机は破壊され、椅子も校庭に投げ出され、彼女の席とは名ばかりの床だった。
学校へ来ようものならスプレー缶で体中に落書きされる。
教師は叱りもしなかった。見て見ぬふりをしていた。
彼女の家は母子家庭だった。
ある日僕が彼女の家へ向かうと、彼女は母親から虐待を受けていた。
両頬は腫れあがり、腕からは血を流していた。
そして彼女は、すぐそばにあった包丁で、その女を突き刺した―
それを隠滅するために僕は人を殺した。
彼女をいじめていたクラスメイト達を、彼女が受けていた仕打ちを無視していた教師達を。
ついでに僕を捕まえに来た政府の犬も殺した。
まぁ782年は妥当なのかもしれない。
僕が殺したのはざっと50人くらいだから。
そして僕はそれを受け入れ、謝罪はしない。
改心もしない。
悪いのは僕じゃない。
僕は正しくないけれど、僕は間違っていない。
正しくなくて間違っているのは、世界だ。
「今までありがとう。」
泣きやまない彼女に言った。
「うん・・・」
「これでさよならだけど・・・僕のことを、忘れないでね」
「あたりまえじゃない・・・」
僕らは笑って別れた。
今生の別れ。
さぁ、これからどうしようか。
笑いながら獄中生活を送るのも悪くないけれど、それだと政府に従っているように思える。
国会の前で自殺するのも悪くないなぁ。
まぁとりあえずはこの邪魔な奴らをぶち殺そう。
そして僕は足を振り上げた。
fin...?