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【二章完】追放少女にざまあさせてはいけない!  作者: 訳者ヒロト
二章

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二十六話

 ビビの献身的介護と数々の魔法の重ね掛けにより、僕はなんとか冷静さを取り戻した。


 淹れてくれた茶に口をつける。体の芯から温まり、匂いが緊張をほぐしてくれた。このまろやかで深い味わい。


「これは――ダージリンかな?」


「......抹茶です」


「......そう。抹茶か。緑色だもんね」


 大外れだ。これは恥をかいてしまった。裕福な暮らしを始めてまだ数年で、僕は舌が肥えていないのだ。


「神になるなんて馬鹿げたことを言ってすまないね。よく宥めてくれた」


 落ち着いて考えれば無理なことなどすぐ分かる。僕はとんでもなく混乱していたのだ。


「冷静になってくれたようで良かったです。それで......クリスはどうしましょうか?」


 うーん。首をひねる。


 実質的に候補は五つというわけだ。剣士、復讐者、放火魔、サイコキラー、悪魔崇拝者。この中から選ばなくてはいけない。


「まあ新しい三つを試してみるしかないかなあ。意外と良い性能をしていてメンタルに悪影響も少ない、なんてことがあるかも」


 言ってて思う。絶対ないだろうな。


 復讐者でやった謎の教義を学ぶ過程をもう三回繰り返すと思うと気が遠くなる。しかしやらなければいけない。


 クリスのため。世界のためだ。


「良いところを見よう。放火魔は火を扱うだけあって攻撃力が高い。神殿が灰になってたんだ、きっと信者の仕業だろう。建造物の破壊は珍しい性能だよ」


「......建造物の破壊ですか」


 ビビは無表情だが、僕には分かる。これはそんなのいつ使うんだよと思っている顔だ。


「サイコキラーは、人型魔物専門の冒険者になれるかもしれない。悪魔崇拝者は――よく分かんないや。こう並べてみると意外と悪くない気がしてきたぞ」


「そうですか? ......いやすいません、そうですよね」


 最有力候補はサイコキラーだ。ゴブリンやらオークやら人型魔物はそこそこいる。ただ問題はそれらは総じて弱く、中堅であるランク3でも余裕で相手できること。ランク3以降は確実に伸び悩むだろう。


 あれ、やっぱりだめな気がしてきた......


 いやいや、気を強く持つんだ。クリスが諦めないのに僕が放り出すことは許されない。


「ビビ。何かこう、全て解決するような素晴らしいアイデアを僕にくれないか」


「ええ......」


 いつも完璧なビビも、さすがにこの僕の無茶振りには即応できなかった。それでも少し悩んだ後に語りだす。


「......クラスの適性は後天的に得る場合もあります。例えば、原初の海賊カインは死刑として海の底に沈められ、七日後引き揚げられたらまだ生きており、すぐ後海賊というクラスを授かったとか」


「......クリスも沈めてみようか? 何か変わるかもしれない」


「......すいません。今のは忘れてください。人外じみた偉業をなさないとありえないのでしょう」


「まあそうだね。僕ならともかくクリスに七日間の水中生活は無理だ。せめてランク5は欲しいな」


「......ランク5でも無理です」


 そうなの? それじゃあ水中の旧神の遺跡(ダンジョン)に行けないじゃないか。


 僕らはそろって首をひねった。どうするべきか。


 ガラリ。扉が開いた。オフィーリアだ。


「リア? そんな堂々と出てこな――」


「お腹減ったのじゃ」


 幼さを残す顔立ちの中で存在感を放つ金色の瞳、その圧倒的神気によって押し潰されそうになる。これはオフィーリアじゃない。


 これは――復讐と破滅の神ジヴァーナムだ。いったい何しに出てきたんだ。


「お腹減ったのじゃ。心臓が食べたい。血が滴ってまだ熱を残しているような新鮮な心臓が……」


 ジヴァーナムを敷居をまたいで部屋に入ろうとして――引っかかってこけた。


「いたい! この......どんな家の作りをしておる! お前のせいじゃ!」


 ジヴァーナムは僕に指を突き付けた。


復讐の呪い(リベンジ・マジック)!」


 唐突に鼻がむず痒くなる。僕はくしゃみをした。はっくしょん!


 鼻をこする。......相変わらず力の弱い邪神様だ。復讐の理由がこじつけなところはオフィーリアそっくりである。


「復讐完了じゃ。――それで心臓はあるか?」


「心臓…… まだ残っていたでしょうか、ちょっと見てきます」


 ビビは早足でキッチンに向かった。


 ジヴァーナムはソファにふんぞり返って座り足を組む。ていうかさっき夕食を食べさせたばかりなのに、もうお腹が減ったのか。いや、ジヴァーナムはオフィーリアとは別のエネルギーで動いているのかも。


 僕はその姿を見て思った。



 この邪神、どうにか浄化してまともな神様にできないかな、と。


 これは僕史上最高に冴えたアイデアだ。




▼△▼




「いやじゃいやじゃ! 浄化など受け入れんぞ!」


 ジヴァーナムは目を吊り上げて怒っている。


 邪神の復天。これは歴史上で何度も起こった事象である。何かが起こって邪神の性質が善いものに変わってしまうのだ。


 もちろん逆もある。大体の邪神はもともと普通の神だったのだ。それがいろいろあって邪悪に堕天してしまうというわけである。


 先例はある。しかし詳細は不明だ。


 つまり――手段が分からない。さっぱり検討もつかない。


「ジヴァーナム様、申し訳ないですが諦めてください。......これを機に心を入れ替えましょう。やってみれば意外と悪い気持ちにはならないですって」


 ジヴァーナムが善神になれば復讐者というクラスも変質する。そうすればクリスはそのクラスでやっていけば良い。


 そういうわけで僕はヨワヨワ邪神をなだめすかして説得しようとしている。


 しかし......


「絶対嫌じゃ! そもそも我は邪神ではない!」


 ジヴァーナムは頑として首を縦に振らないのだった。


 かくなる上は。


「お覚悟を。えいっ」


 こんなもので浄化できるとは思えないが、物は試しだ。


 僕は聖水(ポーション)をその体にぶっかけた。瓶の口からきれいな放物線を描いてジヴァーナムに向かう無色透明の液体。


 ぱしゃり。黒装束が濡れる。


「なんじゃこれは! 不敬な! なんかいやなにおい…… まずい…… クラクラしてきた……」


 ジヴァーナムは頭を押さえて背もたれに体を預けた。


 効いたのか…… 弱すぎるだろ。市販の聖水だぞ。


 僕はもう一瓶の蓋を外してそれも思いきり振りかける。女の子に水を掛けるというのは若干良心が痛みそうになるが、こいつの体は邪教徒で心は邪神である。容赦は必要ない。


 さらに濡れて脱力し寝言のように呟き続けるジヴァーナム。


「あうう…… 嫌じゃ、心が洗われていく…… 復讐、死、代償、刃、炎、破滅…… 我を構成する概念が崩れていく……」


「その調子です! がんばれジヴァーナム様!」


「信頼、愛、正義、再生、砂糖菓子、お花、ハッピーハッピー……」


 なんだか頭の悪そうな単語を並べている。これは明らかに浄化に近づいているのだろう。きっと――もう少しだ!


「ハッピーハッピー! ラブアンドピース! ほらビビも!」


「ラ、ラブアンドピース……」


 ジヴァーナムはいよいよ口を開けたまま目を閉じて完全に意識を失った。


「どうなったんでしょう……?」


「さあ……」


 これで浄化しててくれたら嬉しいなあ。


 僕はその丸いほっぺたをつねった。


「ジヴァーナム様、起きてください」


 肩を揺らしてみても起きる気配はない。


「……死んでないですよね?」


「うん」


 少なくとも体は生きている。心臓も動いているし呼吸もしている。


 適当に聖水かけてみたけど、これ大丈夫かなあ。


 まあいいか。


 僕はまだ残っていた抹茶を口に含んだ。温くなっているがまだまだ美味しい。気分を落ち着けてくれる。


「エディ。これは冒険者ギルドで話そうとしていたことなのですが、もともとジヴァーナム様はある小さな村のみで信仰される応報と再生の女神だったそうです」


 応報と再生。めちゃくちゃ真っ当な神様じゃないか。これはクラスの性能にも期待が持てる。


 復讐者はその性能を呪いに偏らせているが、そこから攻撃力を削って再生能力が加われば優秀な前衛になり得る。ますます浄化したくなってきた。


「堕天の原因は教会です。理由は不明ですが、教会は突然ジヴァーナム様を邪神と罵ったとか。邪悪だから邪神認定されたというよりも、邪神認定された怒りで邪悪に堕ちたというべきでしょうか」


「......教会ってろくなことしないね」


「ええ」


 僕は絶対、この邪神をまともな神様に戻してみせる!

復天


堕天の対義語を探していたら見つかった言葉で、辞書などには載ってなさそうな誰かの造語なのでしょうが意味は分かりやすいと思うので使わせていただきます。

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