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【二章完】追放少女にざまあさせてはいけない!  作者: 訳者ヒロト
二章

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十七話

 僕が本物のビビを見つけ、ビビが本物の僕を見つけるのにしばらくの時間を要した。


 少々の言い争いを経て、全ての幻が消え、ようやく部屋の中には三人だけに。イザベルの発作も治って、やっとまともに話ができる状態になったわけだ。


 イザベルは無駄に広い机の上に艶めかしい足を乗せている。


「それでクリスちゃんはどんな様子?」


「今は安定しているよ。魔王に覚醒する可能性は少ない。僕の下にいれば大丈夫だ」


「すっかり情が湧いちゃってるじゃない」


 ……情がないと言えば嘘になる。僕はクリスが一人前の冒険者になるまで育てたいと思っているのだ。


「あれから何か問題は発生した?」


「まあいくつかあったけど…… 悪魔がクリスを覚醒させようとしていた。もう解決済みだけどね」


「悪魔ね……」


「小物だったよ」


 ミンスクは小物だった。あの程度の悪魔なら束になってもどうとでもなる。


「まあ悪魔は……エディちゃんならよほどの大物が出てこない限り大丈夫でしょう」


「うん。それから……邪神と少し縁ができた」


「へえ、邪神……」


「それと……さっき白竜に追いかけられたよ」


「へえ、白竜……」


「え? あれエディだったんですね……」


 僕のせいみたいに言うんじゃない。クリスのせいだから。


 ここ数日の事件を並べてみると、僕は突然泣きたくなった。なんだかんだ順調だと思っていたが、珍事難事が目白押しじゃないか。


 今後もこのペースで続くのだろうか。それはいやだ……


「イベントがたくさんで楽しそう」


「……代わってくれたっていいよ」


「ヴィーちゃんを私のものにしていいなら、代わってあげるけど」


 僕はビビを見た。不思議な感情だ。彼女をこの色情魔に差し出すのは気が引けるが、死ぬわけではないのだ。それぐらいなら構わない気もする。


「エディ、そんな目で見ても……嫌ですよ」


「……分かってるよ。でも……まずはお試しっていうのはどうかな」


「エディ!?」


 だめだだめだ。僕は首を振ってその考えを打ち消した。ビビの自由意志を尊重するのだ。そもそも彼女は僕が自由に渡せるようなものではない。


「教会の使い魔である白竜に追いかけられたってのは興味深いわね。今回二人を呼んだ件とも関連がある」


「……話してよ」


 さっさと本題に入ってくれ。ここまでが長すぎる。


「魔王についての情報を集めてたけど、どこの誰を探っても魔王の卵という単語は出てこなかった。ただ唯一、教会を除いて。ボウズどもは何かを知ってるわ」


 教会か。まあ彼らなら知っていてもおかしくはない。


 世界最古の組織にして最大の勢力だ。教会の人間は至る所にいる。時には堂々と教会員の名を名乗り、時には一般人に紛れて。


 僕は神託を受け、クリスが魔王の卵であると知った。それと同じような経験をした人間が、歴史を遡っても一人もいなかったというのは考えにくい。何かの情報が教会に伝わっているかもしれない。


 ただ問題はーー教会と協力関係を築くことができるだろうか。


「教会はおそらく、魔王の卵を見つける方法を握っている。エディちゃんの推測通り、今まで秘密裏に魔王の卵を処理して世界を危機から救ってきたのかもしれない」


「なるほどね……」


 魔王はだいたい教会の影響力が少ない地域で発生する。それは信仰心が薄いからなんて教会の人間はうそぶくが、実際は手が回らず気づくことができなかったからなのかもしれない。


 しかし。


「僕はあの狂信者どもに……クリスを処理(・・)させるつもりはないよ」


 クリスは僕の弟子だ。僕からしたら教会も邪教もそんなに変わらない。違うのは規模だけだ。


「そう…… まあ好きにしたらいいわ」


 教会。次に連想される単語は勇者だ。


 魔王を倒す運命を授けられ、そのために力を振るう教会の決戦兵器。


 僕はあの真っ赤な少女のことを思い出した。パーティーの中で最も苛烈だった勇者。僕と同い年だった彼女はしばらく経ってどんな女性になっているだろうか。


 ……思い出すだけで胃が痛む。


 彼女の手綱を握るために僕がどれだけ苦労したことか。


 クリスのことを教会に知られれば、必ず彼女がやってくる。


 あー。教会はダメだ! 彼らと協力なんてできる気がしない。


 せっかくクリスの状態は安定しているのだ。刺激するのは下策だろう。


「やっぱり教会とは関わらないでおこう。……バレてないよね?」


 イザベルは口元を綻ばせた。


「私がそんなヘマするわけないでしょ」


「なら良かった」


「エディちゃん、今勇者ちゃんのこと考えてたでしょう。顔が引き攣ってた。そうだ、いいこと考えた! ……久しぶりにみんなで集まる?」


 いやだよ。絶対いやだ。


「僕はいかない。……代わりにビビに行ってもらおう」


「……エディ? なぜ私を?」


「……修行だよ」


 すまないビビ。でもみんなはビビのことを気に入っているから、ビビを生贄に差し出せば僕は免れるはずだ。


「……私はクリスではありません。そんな言葉を信じはしませんよ」


 ……そうだよね。


「……じゃあクリスに代わりに行ってもらおうかな」


「……それは……殺されちゃうのでは?」


 確かに。何だか話がこんがらがってきた。勇者とクリスを会わせるなんて絶対ダメだ。どうやら僕は混乱している。


「勇者パーティーで集まるなんてしなくていいよ。みんな忙しいだろうし」


「そう……残念」


 机の上に乗せられた長い足が組み替えられて、僕の視線はそこに吸い寄せられる。すぐさまビビが脇腹を小突いてきた。なぜすぐ気付くのだ……。


 本題に戻ろう。


「それで……教会はどんな手段で魔王の卵を見つけ出すの? まさか白竜じゃないよね?」


 そうだとすれば、ゲームオーバーだ。教会は既にクリスを捕捉したことになる。教会を相手取って戦うのは僕でも無理だ。


「おそらく違うわ。あれはただの魔物だもの。もっと神の力に頼ったような手法のほうが可能性は高い」


 なら良いんだけど。


 結局推測しかできないのだ。教会深くに内情を探りに行けば逆に怪しまれることになる。


「それに、最高級の見通しの水晶は教会が大金を出して買い取ることも多い。最高級であれば隠しクラスを教えてくれるという情報も出回っていないし…… 教会が何か知っていて、それを隠しているのは間違いない。そういうこと」


「……教会にはクリスのことを知られたくない。そういうふうに手を回してくれない?」


「分かった。エディちゃんに頼まれたら仕方ないなあ」


 イザベルは手を叩いた。


「それじゃあ話は終わり」


「ありがとう。参考になったよ」


「今度クリスちゃんを連れてきて。仲良くなりたいの。絶対変なことしないから」


「……いやです」


 クリスまで毒牙にかかるのは許容できない。セクハラが嫌すぎて覚醒してしまう可能性もある。


 ていうか、僕が魔王の卵ならとっくにストレスで覚醒しているだろう。良かったね、世界は。僕が魔王の卵じゃなくて。


「じゃあね、イザベル。また何かあったら教えて」


「……失礼します」


 僕たちはさっさと退散することにした。緩く手を振るイザベルに見送られ、部屋を出た。




▼△▼




 ビビと並んでギルドの綺麗な廊下を歩く。


「エディ、私は復讐と破滅の神ジヴァーナムについて調べていたのですが……」


「うん」


 それは僕が頼んだ仕事だ。


 ビビはちらりと目を動かして人がいないことを確認し、小さな声で囁いてくる。


「教会に特定危険邪神として指定されていました。その教団は小規模ですが危険性が非常に高いとのことです」


 やっぱり邪神と邪教じゃないか。


 それも教会に認定されているとなると、扱いは指名手配犯と同格である。賞金稼ぎや教会の追手がオフィーリアを狙っていることだろう。


「やっぱりクリスとは関わらせるべきじゃないかな……」


「ただし、オフィーリアは生捕りのみで賞金がかかっています。依代体質は珍しいので、それ関係かもしれません」


 なるほど。


 なるほど?


 どうしようかな……


 思考がまとまらない。


「ジヴァーナム様が邪神に堕ちた理由も分かりました。おそらく教会のせいですね」


 頭を掻きながら話を聞いていると、前触れなく懐のシェルフォンが音を発し始めた。


「……う! ……きが!」


 声がくぐもって聞こえない。


 僕が持ち歩いているシェルフォンはビビのものとクリスのものだけだ。


 つまりこれはクリスからの連絡。


 家に着いたのだろうか。少し早い気もするけど。僕は急いで白い貝殻を耳に当てた。なんだか嫌な予感がする……


「師匠! 神官様が!」


 切迫したクリスの声。後ろの騒々しい物音が重なってよく聞こえない。オフィーリアがどうしたのか。


「どうしたの? どこにいる?」


「助けてください! キャアッ――」


 鋭い悲鳴と破砕音が聞こえて、そこからは一切の無音になった。


 まじかよ。


「ちょっと行ってくる」


「エディ!?」


 僕は荷物全てを落として全力で床を蹴った。


 ロースくんと僕には繋がりがある。ロースくんはまだオフィーリアと一緒にいるし、居場所も把握できている。


 今度は―― 今度はいったいなんだってんだ!

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