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【二章完】追放少女にざまあさせてはいけない!  作者: 訳者ヒロト
一章

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十話

 翌日。


「いやあ、いい感じなんじゃない?」


 僕とビビは再び木の陰に身を隠し、クリスの修行を見守っていた。別に隠れる必要はないのだが、クリスは僕が近くにいると動きが固くなるのでこうしている。


 ビビはクリスの見違えるような戦いぶりをみて目を丸くした。


「……かなり使いこなしていますね」


「彼女、寝ずに訓練してたんだよ。いやあ、真面目だね」


 昨日僕が"加護循環"を教えたあと、クリスは一切休憩することなくその習得に励んでいた。恐るべき体力と精神力だ。徹夜明けで集中力は落ちるどころか増している。


 目を血走らせながら夕方から朝方まで素振りをする姿にははっきりいって狂気を感じたが、それだけ熱意があるということだ。なおさら失敗したときがおそろしいが......。


「ご飯を食べるときも、着替えをするときも欠かさず。おかげでなかなか見れるものになってきた」


「それはすごいですね。......着替えまで見てるんですか?」


 ビビの冷たい視線が突き刺さる。彼女がこうなったとき僕はなるべく早く降参することを決めている。


「……見てない。薄目だよ、薄目。目を離すわけにはいかないだろ?」


「薄目もだめですよ。……これからは私が監視につこうかな」


「大丈夫だって。僕は弟子にそんな気をおこすつもりはないよ」


 ビビは唇を尖らせて僕の横腹を小突いてくる。なぜ? 彼女の怒りの逆鱗はいまだによく分かっていない......。


 クリスはまた一角猪と向かい合っている。この個体にかなりの時間をかけているだろう。執拗に追い回して細かい傷を重ね消耗させ、十分に弱ってきていた。


 この数日で彼女の狩りはかなり効率化された。ただむやみに努力するだけでなく、頭を使うこともできるようだ。


 彼女の戦法は、まず魔物の少ない方に追い込むようにして介入を避け、一対一の状況を作り出すこと。そして一角猪の突進をいなしながら浅く切りつけていき、弱らせる。

 この段階でも"加護循環"をつかいこなすことで、一角猪を追い詰める速度は各段に増している。避けるときは軽く足に集中させ、攻撃するときは軽く腕に集中させる。鍛錬の結果、クリスは実戦に技術を落とし込むところまで至っていた。


 ただ、いままでも一角猪をあと一歩まで追い詰めたことはあったのだが、とどめの一撃がどうしても届かなかった。


 しかし、今のクリスなら......。


 動きの鈍くなった一角猪にクリスが迫っていく。一角猪は逃げる体力はないのか、迎え撃つつもりのようだ。鋭い角がクリスを向く。


「はああぁぁッ!」


 威勢良い声を発して、クリスが飛びかかっていく。


 クリスの剣先には、一角猪の毛皮を貫くに足る十分な加護(エーテル)がこもっていた。


 この四日間彼女を監視してきて、僕はすっかりクリスに愛着を感じている。


 そう、まるで――つかまり立ちからひとり立ちに移行しようとしている赤子に向けるような感情を。


 うおおおおお!


 いけえええええええ!


 クリスが桃色のショートヘアを振り乱しながら、長く白い角をかいくぐる。剣の間合いに入った。


 体を入れ替えるようにステップを踏み、一角猪の比較的柔らかな横の腹へ。


 大地を強く蹴り出し、剣を水平に構えて、全身の力を使って突き出す。


 鋼の剣は――厚い毛皮を貫いた。茶色くてもじゃもじゃした皮に深々と突き刺さり、確実に臓器まで達しているだろう。一角猪は最後の力を振り絞って低い断末魔をあげる。


 クリスはそのまま勢い余って一角猪に体ごとぶつかり、一人と一匹はもつれるようにしながら地面に転がった。


 しかしクリスは剣の柄から手を離してはいない。顔を泥だらけにしながら一角猪にのしかかっている。


 腕をひねる。一角猪の断末魔が細くなり、その体から力が抜けた。ぐたりと頭部を地面に横たえ目から輝きが消える。


 クリスの勝利だ。


「やったあああああっ!」


 勝者は歓喜の雄叫びを上げた。林中に響き渡ろうかという声量だ。顔から思い詰めたような鬱屈さは消えて、年相応の可愛げと笑顔が戻ってくる。久方ぶりに得た成功体験は彼女の心に自信を取り戻しただろう。


「すばらしいですね」


 僕とビビは目を合わせて笑みを交わした。負の感情が魔王覚醒のきっかけになるのだとすれば、正の感情はそれを遠ざけるかもしれない。日頃からこういった体験を積み重ねていけば、何かが起こったときも前向きな精神を保っていられるだろう。


「しょうもない搦手や小細工なんて無くても彼女は大丈夫じゃないですか」


「努力の結果だね」


「ちなみにタイムは? 一匹倒すのにどのくらい掛かったのでしょうか?」


「......それ聞いちゃう?」


「......」


「三時間四十分だ」


 試験は一時間。一時間なのだ。


 ビビは顔から一切の表情を消した。筋の通った鼻と滑らかな肌、紺色の瞳、無表情になると作り込まれた人形のようだ。


 僕はビビのせいで目を背けていた現実を直視させられた。明日は試験当日だと言うのに......。


 昔の僕よ、なぜこんな難易度の高い試験にしてしまったのか......。いや違う。難易度は高くない。クリスが弱すぎるだけで。


 だが僕にも考えがある。ぼけっとクリスの鍛錬を見守ってきたわけではない。彼女が雑魚一匹の討伐にこんなに時間がかかってしまうのは、狙っている個体以外にも魔物がいるからだ。


 無視できない肉食性の魔物が近くにいれば、そいつを追い払うか一角猪を誘き出すかしないと戦闘をはじめることは出来ない。一角猪が群れの中に逃げ込んでしまえばそれでもう手は出せない。


 つまり――。


「魔物を間引き、群れは離散させ、程よい間隔ではぐれの一角猪が点在するような狩り場を僕たちで作るんだ。クリスが頑張っているんだ、僕たちもかっこいいところを見せないと」


「......分かりました。なんだかずれているような気もしますが」


「毒も仕込んでおこう。気付かない程度に弱らせておけばもっとスムーズだ」


 クリス、君を絶対、合格させてみせる!


「どうせ時間を測るのは僕なんだ。一時間で一匹も倒せなくても、嘘ついて何時間でも付き合ってやる」


「......それは無理があるのでは?」


 知るか! クリスは素直だからゴリ押しで納得させてやる!

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