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ぐにゃりぐにゃぐにゃ

作者: 雉白書屋

 朝、いつものように起きたのだが、気分が酷く悪い。

 いや、悪いなんてもんじゃない。視界に入るものその全てが、ぐにゃりと歪んで見えるのだ。

 テレビ、冷蔵庫、時計、トイレの便器までも溶けた飴細工のように歪んでおり、えらく座りづらかった。

 ぐにゃぐにゃしたマグカップでコーヒーを啜り、ぐにゃりパンを胃に流し込み、ぐにゃぐにゃしたスーツを着て、まだベッドで眠る妻にそっと声をかけ、家を出る。

 当然、病院に行くべきだと思ったのだが、休めるような立場にはないのだ。

 またクビを切られるのも叩かれるのも俺は御免だ。

 しかし、歩けば歩くほど気分が悪くなる。それもそのはずだ。目に悪い。車、電柱、家、塀、そして人。どいつもこいつも顔がぐにゃぐにゃで笑っているのか怒っているのかわかったものではない。

 唯一、地面だけはそのままで、いや、もしかしたら歪んでいるのかもわからないが、とにかく平らではあったので俺は地に貼りついて、キスと嘔吐したい衝動に駆られたが必死に堪え、駅に向かった。

 やはり、改札も階段も手すりも全てが歪んでいる。特に階段なんて恐ろしい。さっさと行けよと後ろの歪んだ人間たちに舌打ちされながら、俺はどうにか駅のホームに降りた。

 

 が、限界だった。

 俺は歪んだ電車を前に、ついに逃げ帰ったのだ。

 あんなものに乗れるか。今に脱線するぞ……と、俺はとうとう頭がおかしくなってしまったようだ。これが現実、実際に起きている現象などと思い始めている。だがわからない。何が本当で何が歪んでいないのか。歪んだこの世界人間こそが正しいのか。

 だから俺は泣きべそかきながらベッドで眠る妻の体を揺すり、訊ねた。

 

 歪んでいるのは俺か? それとも世界か?


 むくりと体を起こした妻は答えた。


「……はぁ!? いいからとっとと会社行きな! 私は眠いんだよ! またぶん殴られたいのか!」


 俺は心底ほっとした。よかった。妻だけはいつもと変わりなかった。

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