中二病は打ち明ける!
まさか二日連続で出すことになるとは……
「引子ちゃーん!! お弁当一緒に食べよ!」
昨日の約束通りに、美波は引子のお弁当も作ってきたらしくてにはふたつのお弁当があった。
「……え? べ、別にいいけど……なんで二つ……?」
しかしこの女、昨日お弁当を作ってこいと言ったことなどすっかり忘れていた。
「えっ……引子ちゃんが言ったんだよ……? お弁当作ってこいって……」
すっかり涙目になりながらも、美波は引子にお弁当を押し付ける。
「あ……わ、忘れてたわけじゃ……ないよ? ほんとだよ?」
この言葉の説得力はゼロである。まず間違いなく忘れていた。忘れていなければあんな言葉はそもそも出ないのだ。
「もう大丈夫だから気にしなくていいよ? それより早く食べようよ! 私お腹すいちゃった……」
「そ、そうだね! どこで食べる?」
「屋上で涼香が待ってるからそこで食べよ!」
「え……」
◆
(気まずい……!)
隣の席で少し喋るようになった美波はともかく、ろくに喋ったことのない涼香とご飯を共にするのは、ぼっちの引子には荷が重かったらしい。先程からただの一言も発さずに、ただ黙々と食事をしている。
「そういえば葉山さー」
「ひゃ、ひゃい!?」
あまり話しかけられたことのない人に突然話しかけられて、体が硬直する。
「なんか昨日からまともじゃね? なんかあった?」
「な……! 普段の私はまともじゃないと思ってるん!? ……ですか?」
「思ってるよ? 当たり前じゃん」
さも当然かのように言われた言葉に私は一瞬硬直する。……やっぱりやめて正解だったかも……
「確かになんかいつもとだいぶ雰囲気違うよね? それになんか悩んでる感じ……なんかあったの?」
彼女らも察している通り、私は最近いつもの言動を控えている。今にも殻を破って飛び出そうとしている本来の自分を必死に抑えているのだ。
「な、なんでもない……」
「いやなんでもなくないでしょ、明らかなんか悩んでる人間の顔だよそれ。美波が昨日から心配してっから吐いちゃいな」
しかしそう言われても言うわけにはいかない。知られるのは恥ずかしい……
「い、いやだ! 高槻さんには言いたくない! ……です……た、高槻さん? どうしたの!?」
引子の言葉を聞いた瞬間に、美波の目からは涙が流れていた。
「あ……れ? な、なんでだろ……な、なんでもないから心配しないで!」
そう取り繕っているものの、やはり目からは涙が溢れて止まらない。
「高槻さんには言いたくないってのがよほどショックだったんじゃないの? ほら、何悩んでるのか言えばいいじゃん」
「……あの……ね? わ、わたしも自分の言動が変だって言うことには気がついてるの……一人ならいいけど高槻さんと友達になっても素を出しちゃうとさ、高槻さんの友達までいなくなっちゃうよ……そんなのいやだ……! でも、わたしも高槻さんともっとおしゃべりしたいし……遊びたいし……それだったら言動を普通に治せばいいって思ったんだけど難しくて……」
引子の告白に涼香と美波は思わず黙る。
「い、引子ちゃん! そんなふうに考えてくれてたんだね! ありがとう! 大好き!! でもさ……そんなこと気にしなくていいんだよ? 私がどんな人と付き合ってても私の友達は気にしないしさ、それに私今の引子ちゃんも好きだけど前の引子ちゃんも好きなの! だから無理しなくていいよ? あと美波って呼んで!」
今度は美波の言葉に引子が黙らされる番だった。
「ほんとに……いつものわたしでいいの?」
必死に抑えていたものが、この小さな体を突き破って外に飛び出そうとする感覚を覚える。
「もちろん! むしろ無理して欲しくない!」
その瞬間、枷は完全に解かれた。
「ふ、ふはははは!! 流石は我が友! ふっ……汝らに神の祝福があらんことを」
そう普段の口調で告げた引子の表情は、憑き物が取れたみたいに晴れやかな笑顔で、美波だけでなく涼香すらも思わず赤面した。