ルール無用の来訪者
とある屋敷の一室で裁縫に励む少女が居る。
彼女はイザナ、居候等では無い……屋敷に住む一人だ。
「やぁやぁイザナ、今日も元気にしているかな?」
その部屋に繋がる扉は捻じ曲げられ、一人の少年が彼女の部屋へと侵入した。
対してイザナは驚かず、慣れた様子で対応している。
「ネア……あなたは一体どうしたら玄関を通ってくれるのかしら」
「えぇ~、普通に来るのって詰まらないし面倒じゃない?」
イザナの部屋に侵入した少年、ネアはありとあらゆる物の法則を変更する能力を持っている。
“閉じられている”状態の玄関を“開いた”状態へと変化させ、その先に繋がる空間“玄関の先”から“イザナの部屋”に直結させたのだ。
これは指定先を変更すれば世界を渡る事も可能であり、たかが十数メートルに使う能力では無い。
「で、今日は何の用?」
「いやぁちょっと面白い世界を見つけてさ? 良かったら一緒に来ないかなーって」
ネアに変えられない法則は無い。
世界を超える事など容易い事であり、幾度となく行ってきた事だ。
「またそんな事を……あたしも破壊神だーとか言われるの嫌なんだけど」
「えぇ~? あれはちょっと法則変えただけで壊れる世界と君の属性を操る能力が相性悪かっただけで、僕は何も悪くないじゃん」
「だから世界の法則を変えなかったら良いのよ!!」
「折角人に縛られるエネルギーを開放してあげたのにな~……」
イザナの言う世界、そこには科学文明の代わりに魔法文明が栄えていた。
世界は神秘的な属性エネルギーに満ち溢れ、人々はそれを利用する術を持ち自然と共生していたのである。
だがネアはその共生関係に介入し、人々から属性エネルギーを利用する術を奪った。
すると人々に消費され、生産量の辻褄を合わせていた属性エネルギーが全てイザナに集中。
彼女が力を入れて一歩踏み込めば、大陸一つが軽く消し飛びかねない事態に陥ったのだ。
「まぁ……アレはアレで面白い光景が見れたし、中々楽しかったんだけどさ」
「良くない! 忘れなさい!! あと反省しなさい!!!」
今は天使のような姿のイザナだが、彼女はもう一つの姿を持っている。
それは何にも好奇心を示す明るい今とは違う、何にも無関心で無気力な悪魔の姿だ。
だが彼女は明るい場所が苦手であり、昼間は滅多に出てこない。
「じゃ、行こうか」
この後の展開はある程度予想出来る。
本気になればある程度の逃走は可能だが、イザナにはこのインチキのように無茶苦茶な力を自在に操る少年からは逃れられない。
イザナは諦め、腹を括る事にした。
「はぁ……分かったわよ」
「お、一緒に来てくれるの? やったー!」
「どうせ連れて行かれるなら自分から行った方が幾分かマシよ。……書き置きを作るから、ちょっと待ってて」
「オッケー! じゃあ僕は扉の先を捻じ曲げて……っと――」
イザナは屋敷に一人で暮らしている訳では無く、妃菜という少女と暮らしている。
ネアが扉の前で戯れている間に、イザナはその少女への書き置きを手慣れた様子で綴った。
「――ちょっと遅くなるけど、気にしないで……っと。ネア、そっちは終わった?」
「終わったよ。……じゃ、行こうか」
ネアが指を慣らすと、廊下へ繋がっていた扉から光が溢れ出す。
彼はその扉を何の躊躇も無く解き放ち、イザナと共に光に包まれ姿を消した。
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