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08 ䷎  ⇋ 葛藤 ⇌

 「ただいま」

 「おかえりなさい。今日は遅かったわね」


 家に帰ってきたら、ボクはいつもみたいに母さんと挨拶(あいさつ)を交わした。


 「ボクは百合聖(ゆりせ)先輩と一緒だったから」

 「またか、昨日デートしたばかりだったのに。本当に彼女にべったりね」

 「まあ」


 もちろん、ボクは百合聖先輩のことが好きだからいつも一緒にいたい。今女同士でもその気持ちは変わっていないと思う。


 そういえば母さんもちゃんとこんなことを受けれてくれているのか? あっちの世界線ならともかく、こっちの世界線では女同士だから、母さんの反応は違うのかな?


 「母さん、やっぱりボクが女と付き合うことに反対している?」

 「ふん? またこの質問か。まさか彼女と喧嘩(けんか)でもしたのか?」

 「いや、そうじゃないけど。なんか今色々考えている」

 「朝からあんたの様子なんか変だよね」

 「今よくわからないことがあって、もし後で状況をちゃんと理解できたら、母さんにも必ず説明するよ」


 確かに母さんにもパラレルワールドのことを説明してみたらいいかもしれない。だ けどボクや百合聖先輩とは違って、母さんはあまり小説とか読んでいなくて、科学やファンタジーについてかなり(とぼ)しいから、説明するのに手間がかかりそうだ。


 それにこの仮説はまだ確信できていないから、教えようとしても上手く説明できるわけではない。


 母さんには悪いけど、こんな状況で今ボクにとって百合聖先輩の方が頼りになれると思っている。


 「前にも言ったけど、別に反対はしないわよ。あんたは本当に彼女のことが好きみたいだから。だから応援している」

 「本当?」


 やっぱり、こっちのお母さんはあっさりと『百合』を受け入れている? それはよかったけど、なんかまた複雑な気持ちだ。


 「まったく、あんな優しくてかっこいい幼馴染がいるのに、結局女の先輩を選ぶとはな」

 「かっこいい幼馴染って? 誰のこと?」


 まさか……。


 「何言ってる? 実頼(みらい)くんのことよ」


 『みらい』? 知らない名前。でも心当たりがある。多分さっき帰り道の途中で会った子だ。やっと彼の名前はわかった。


 「ボクはあの子のことをどう思ってるの?」

 「は? 自分のことなのに私に訊いてどうする?」

 「あ、そうだよね」


 やっぱり自分のことなのに母さんに訊くなんて変だよね。でもしょうがないよ。あれはボクだけどボクじゃないからね。まったくややこしいね。


 「母さんは実頼くんとよく会っていたのか?」

 「中学の頃あんたが時々家にあの子を連れてきたじゃないか。最近はあまりないようだけど」

 「そうか」

 「やっぱりあの子ちょっと可哀想よね。あんたが恋人ができたら彼からの距離を取っているから」

 「そんな……」


 やっぱりこういうことか。


 「でもただの幼馴染だったよね?」

 「あの子は本当にあんたのことが好きだと言った時点でもうただ普通の幼馴染じゃないでしょう。まあ、昔から見れば何となく察していたよ」

 「そう……」


 告白の件はやっぱり母さんも知っているのか。なんか状況は少しずつ把握(はあく)できるようになってきた。


 「これって、いわゆり『おねショタ』?」

 「そうね。昔あんたとあの子は『おねショタカップル』とか呼ばれたこともあるわね」

 「うっ……」


 マジかよ!? 誰に? というか、母さんまでこんな単語を知っているの?


 「まあ、あくまでただの冗談で言われたようだけどね」

 「そ、そうだよね。別に本当に付き合っていたわけじゃないし」


 別に『おねショタ』が嫌だというわけじゃないけど、()いて言えばボクは『おね』の方ではなく、『ショタ』の方がいい。つまり年上の女が好み。


 もしボクが百合聖先輩とは小学の時くらいから知り合っていたのならこれは『おねショタ』になっていたかもね。残念ながらボクたちが知り合って付き合い始めたのはボクが高校1年の時だった。あの時からすでに百合聖先輩より背が高かった。


 それに、あれは元の世界線のボクのことだよね。こっちの世界線でなら女同士だから『あねロリ』か? いや、これも違うよ。なんか自分の頭の中で変な妄想いっぱいしてしまった。


 もうやめよう。これ以上考えても無駄、というか(むな)しい気もする。




 その後ボクは晩ご飯を食べて、お風呂に入ってきた。


 「やっぱりお風呂でも体が慣れているよね」


 今ボクは湯船の中に()かっている。もちろん裸で。やっぱり自分の体にあまり違和感がなさすぎる。他のことと同じようにすでに慣れているって感じ。


 結局のところ、今のボクは女の子の裸を見ても興奮とかしないのかな? それともただこれは自分自身だから何も考えない?


 でも男だった時のボクがどのように考えていた? 今思い出そうとしたら、なんか上手く思い出せない。今朝はまだ色々よく覚えて、百合聖先輩にも色々教えたのにね。


 まさか時間が経てばあっちの世界線の記憶はどんどん薄れていく?


 このままでは本当に男のボクの存在は完全に消えて普通の女の子になってしまう。


 それでいいのかな? 先輩の言った通り、生活に関することは体で覚えているから今のままでも普通生活に支障がない。あっちの世界線のボクを忘れて今女の子のボクとして生きていけばいいかも。


 でもやっぱり駄目だ。やっぱりここはボクの元いた世界線ではない。確かに似ているけど、それでも色々違う。


 あの男の子……実頼くんだっけ? 彼のことは今のボクは全然記憶にない。そして彼の好きなのはこのボクじゃない。


 それとも何とかしてこっちの世界線のボクの記憶を探ろうとした方がいい? そうしたらこのまま生きていっても問題なさそう。


 いやいや、駄目だ。例えそうだとしてもボクは今までの自分の存在を否定したくないよ。


 やっぱり元の世界線に戻りたい。あっちでの百合聖先輩もボクを待っているはずだ。


 待っている? そうなのかな? ボクがこっちに来たことであっちの世界線は消えてしまったんじゃ? でも例えまだ存在していてもボクはあっちに戻れなければその存在の確認はできない。


 こっちの世界線で元いたボクと入れ替わっているという可能性もあるよね? ならその代わりのこっちのボクはあっちのボクになってしまったか? そうじゃなければこっちのボクはどこに行ってしまった?


 わからない。何も明確ではない。全部あくまで単なる頭の中の仮説だけで、まだ明白ではないことがいっぱいあるんだ。


 つい一人で考え込みすぎてしまったね。長風呂はよくないから、とにかく今上がろう。


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