05 ䷢ ⇋ 相愛 ⇌
ボクは学校に着いたが、もうすぐ授業が始まる時間だから、とりあえず百合聖先輩と会うのは昼休みになってからにする。
今ボクはいつものようにいつもと同じ教室に入っていつもの自分の席に座った。
「おはよう、涼原くん」
「うん、おはよう。月見里さん」
やっぱり生徒や先生たちはボクを見ても誰も変だと思わない。普通に挨拶を交わした。
変になったのはボクだけなのか? 世界は変わったのではなく、ボクの認識がおかしくなったのか? そんなはずがないよ。今までの自分が幻想だとでも言うのか? そんなことは認めるわけないよ。
そして授業が始まったが、全然頭に入ってこない。何度もぼーっとして、先生にも叱られた。
やっと昼休みになった。ボクは屋上で百合聖先輩と待ち合わせて一緒に昼ご飯を食べることになった。
「やっぱり、百合聖先輩がボクを見ても変だと思わないのですね?」
「いや、変だよ。君の様子が。本当にどうしたの?」
つまり外見はいつも通り、おかしいのはボクの今の行動だった。
「先輩、これからの話は信じられないかもしれないけど、聞いてください」
とにかく、百合聖先輩に最初から事情を説明しよう。そうしないと何も話が進まない。
「不思議だね。遙奈くんは男だなんて」
百合聖先輩までそう言われるとはなんか落ち込むよね。
「やっぱり信じられないのですね」
「うん、なんか信じがたい話だよね」
「ですよね」
「でも君はこんな嘘をする人じゃないとはわかっているから、私は信じたいよ」
やっぱり百合聖先輩はいつもの通り優しくてボクに気を遣ってくれる。
「本当ですか?」
「だって、他でもない恋人の言うことだから当然よ」
「恋人か……やっぱり」
今の状態でもまだ恋人か。
「私たち本当に恋人同士よ。君もそう言ったじゃないか? 昨日のデートもまだ覚えているよね?」
「そうですけど、女同士なのにどう見ても変ですよ」
「今までもそうだよ。変な目で見る人もいるけど、それは仕方ないよ。構う必要がない。私たちが相思相愛よ。そんな事実だけで十分」
「そうですか」
なんかラブラブな言葉みたいで嬉しいけど、やっぱりこれは変だよね……。
「つまりボクと先輩は百合ですか?」
「そうよ。私と君は百合百合カップルよ」
「……」
ボクがそう訊いてみたら、先輩はあっさりとそう答えた。そして今ボクはどう突っ込めばいいかわからなくなってきた。
「まさか、今いきなり後悔してるの?」
「いや、違います。ただやっぱりボクの記憶の中では自分が男だったから」
「そうか。不思議ね。でも遙奈くんが女であろうと男であろうと、私は受け入れると思うよ。だって君が君だから私は好きよ。性別なんて関係ない」
これはすごくかっこいい台詞だよね。大好きな先輩がそう言ってくれるのはめっちゃ嬉しいけど、なんかね……。
「やっぱり変です」
「遙奈くん……」
百合聖先輩は悲しそうな顔になった。
「何が何なのか……」
「まさか、君が女だったら私のことがもう好きじゃなくなるの?」
「いや、そんなことないです。好きです」
今でも好きだと思っている。ただ今まで自分が男だからそれは当たり前のことで、何もおかしいことなんてないと思っていた。
「ならそれでいいんじゃないか」
「そうかもしれませんが、やっぱり今のこの違和感を何とかしないと……」
「そうね。君がこんな状態になってしまったら私も心配だわ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいの。君のためなら私は何でもできるよ」
やっぱりいつもの優しい先輩だ。こんなにボクのことを心配してくれるのは。そしてボクも先輩に対する気持ちはそのまま変わっていないと思う。
でも今のままではやっぱり……。
「今どうしたらいいかボクもよくわかりません」
「そうね。とにかくもっと君の知っていることを教えて。今まで一緒に過ごしていたこととか」
「信じてくれますか?」
「私は言っただろう。君を信じたい。だけどやっぱりもっと確認したい。だからもっと詳しく聞かないとね」
「わかりました」
例え恋人でもいきなり言うこと全部信じさせることは無理みたいだけど、もっと話し合ったらきっとわかってくれるよね。
「それに、君が男であるという『IF』の世界って本当にあったら面白いかもね」
「ボクにとって、これは現実のことですけど」
「そうね。これは認識の違いかしら? なんでこんなことになるんだろうね?」
先輩もなんか今の状況よく把握できていないようだけど、本気で考えてくれているようだ。やっぱり先輩に相談して正解だった。
「先輩、もしかしてこれって『パラレルワールド』……つまり、『平行世界』ってやつ?」
「は? なんかSF〔サイエンス・フィクション〕で聞いたことがあるようなあれか?」
「そうです。確かにこれはSFぽいですね」
ボクもいつも漫画とか小説とか読んでいる。特にファンタジーやSFの小説は好み。だから今の状況はそれっぽいと感じる。
「そんな発想は悪くないかもね。でもなんでそう思うの? 根拠とかあるのか?」
「これはただボクの妄想だけかもしれないけど、やっぱり未だにもっと説明できる答えは思いつきません」
「そうか。とにかく今考えていることを言ってみて」
「はい」
そしてボクたちは『パラレルワールド』のお話をした。