04 ䷏ ⇋ 百合 ⇌
朝ご飯も食べずに空腹のままで家から出てきて、今ボクは学校へ歩いていく途中。冬だからやっぱり今日も寒いね。しかも女子制服はスカートだからなんかスースーするよ。
でも何となくこんなのはすでに慣れているような気がする。だからとても大変だとは思わない。
そもそもボクはスカートなんか穿いたことなんてないはずだよね。男だったから。それなのに今なんかスカートを穿いていながらも歩き方は意外と自然で、違和感なさすぎる。
今のこの状況はまださっぱりわからない。現状からすると、まるでボクは最初から女の子だったということになっているようだ。実際にそんなわけないのに。そのはずだよね?
でももし『そういう設定にされている』のならボクは女の子の体に慣れているのもおかしくないかも? 記憶になくても体が勝手に動く……的な?
だけどボクが女の子だったなんてどう考えてもあり得ないことだよ。何と言っても、ボクは百合聖先輩という美人彼女がいるから。さすがに女の子なら彼女がいるのは不自然だよね?
そうだ。今すぐスマホで百合聖先輩と連絡してみよう。きっと何かわかる。
ボクがスマホを弄って、アプリや連絡番号を調べてみたらいつも通り、ほとんど変化はない。百合聖先輩の番号も入っている。通話記録も変異はないみたい。
ということは、昨日先輩とデートに行ってきたという事実はそのまま何も変わっていない。
ならやっぱり百合聖先輩ならボクが男の子だったということを覚えているはずだよね。きっとそうだよね?
とにかく電話をかけて確認してみよう。
『もしもし』
「あの、百合聖先輩」
『あら、遙奈くん。朝からどうしたの?』
いつもと同じ百合聖先輩の爽やかな声が聞こえて少し安堵した。もしいきなり男の声とかになっていたらきっとボクは激しくショックを受けて倒れちゃうよ。
「昨日ボクと一緒にデートしましたよね?」
『なんでいきなり? 覚えてないのか?』
「いや、ちゃんと覚えてますよ」
『ならどうしたの?』
やっぱりね。どうやら百合聖先輩もデートのことはちゃんと覚えているようでよかった。
「なんか変ですよ。いきなりボクが女になっている」
『は? どういうこと?』
そんなことを聞いて百合聖先輩も随分驚いたようだ。予想通りの反応だ。
「いきなりこんなこと言うのは変ですよね。でも本当です。朝起きたら体が女の子になっています。服も女子制服ばかりになって」
『変なこと言うね?』
一応自分に起きたことをそのまま説明してみたが、やっぱりどう考えても変だよね。こんな先輩の反応も予想通りだ。
「ですよね」
『だって君は女の子じゃないか?』
「は?」
これは予想外。まさか先輩もボクが女の子だと……。だから今ボクの声を聞いても普通にボクだと認識しているよね。
『どうしたの?』
「いや、ボクは男……のはずですよ?」
『遙奈くんは男? いつからそんなことに?』
百合聖先輩まで……。昨日一緒にデートしたのに。
「でも、さっきデートだとか言いましたよね」
『それは何か変なの?』
「ボクが女の子だったら、どうやって先輩とデート?」
普通に考えると『デート』というのは男と女でやることだよね?
『いつもそうじゃないか? なんで女同士ならデートできないと思うの?』
「は?」
女同士なのに、デート……? 何それ?
『やっぱり今の君は変だな。おかしなことばかり言って、大丈夫なの?』
多分全然大丈夫じゃないよ。今のボクはね。
「ボクたちは恋人同士ですよね?」
『今更何を言ってる? 君の方から私に告白しに来たのに』
記憶の中では確かにその通り。だけどあの時ボクは男だったはず。女の子が女の子に告白するなんて、『百合』なのか?
「確かにそうですよね。ちょっと混乱しているようです」
結局百合聖先輩もボクが女の子だと思っている。それでも恋人同士だということになっている。関係は変わっているわけではない。
それはよかったけど、むしろこれの方が変じゃないか? 百合聖先輩って百合? 名前だけじゃなく本当に百合? でもそう言うのならボクも百合だということになるのか?
『やっぱり君はなんか様子がおかしいわね』
そうだよね。もしかしたらおかしいのはボク自身かもしれない。
『とりあえず学校で会おう。今は登校中だ』
「はい、ボクも」
『じゃ、学校で』
まだ何もわかっていないまま通話を終えてしまった。今のところはここまでにしておこう。話の続きは学校で直接会った後でいいか。
ところで、『百合』で『ボクっ娘』って? 合わせて『百合ボクっ娘』か?
今のボクはこういうキャラなの!?