25 ䷑ ⇌ 杞憂 ⇋
翌日朝起きたら、本当にボクの記憶が元に戻った。あの占い師さんは何かやってくれたみたいだね。どうやって? そんなの考えても全然答えが出ないし、あの人に詳しく教えてもらっていない。結局本当に解決したようだから、どうでもいいかも。
この4日間散々振り回されていたような気がした。なんかすごく疲れた。だから今解決できた後お祝いとかしたい。
ちなみにボクが男だったという記憶も消えたわけではなく、まだ残っている。なんかオマケみたいなものかな?
まあ、これは偽物の記憶で何の役に立たないかもしれないけど、考えてみたら面白い記憶だよね。本当の記憶と比べてみたらなんか楽しく感じる。なにせ、異性の自分が存在しているなんて不思議な感じだ。
でもあれは本当に緻密に作られた記憶だな。なんかすごくリアルって感じ。迫真すぎるよ?
もしかしたら、ただの作り物ではなく、あのパラレルワールドが本当に存在しているかもしれないじゃないか? なんちゃってね。
なんかあっさりと解決してしまって、百合聖先輩はなんか今でもまだ納得していないようだけど、とにかくこの件についてはこれで終わり。めでたしめでたし。
「まだ記憶の混乱が残っているのか?」
あの占い師から記憶を取り戻して問題が解決した後、次の月曜日ボクはまた学校で百合聖先輩とお話をしている。
「はい、記憶が全部元に戻ったけど、自分が男だったという記憶はまだそのまま残っているので、時々混乱を引き起こします」
「しばらくこのままかしらね?」
「でもこっちの記憶は全部取り戻したからそれでいいです。ただオマケみたいな記憶が加わっただけ」
覚えていることが増えるだけど、別に損はないよね。これを題材にして小説にでも書こうか?
「今の結末はなんかあの占い師の思惑通りのようだね。君が結局思いっきりあの子の告白を断ると決心したのも」
「そうかもしれませんね」
昨日ボクはちゃんと実頼くんの告白を断った。そもそもボクが迷ってしまったのはこの件の原因だからね。だからもう迷ったりしないと決心した。
実頼くんもどうやらボクの気持ちをわかってくれて納得できたようだからこれでいい。やっぱり彼はいい子だよ。
ボクが彼のことが好きだってのも本当だったよね。でもやっぱりただ幼馴染や弟みたいな関係で、恋人とは別に違う。
「結局私たちはあの占い師の手のひらの上で踊らされていたみたいで、あんまり気に食わない」
百合聖先輩も今でもまだあの占い師のことで腹立っているようだ。
「結果オーライだからそれでいいんじゃないですか」
「そうだけど、本当にこれで解決なのか? 後で何か起きる可能性もあるわよね?」
心配性だな。確かにそういう可能性も考えられるけど、ただの杞憂だけかもしれない。
「その時も、もしまた結果オーライになったらそれでいいかもですね」
「よくないわ! なんで君はこんなに楽観的なのよ? こんなに大変な目になったのに」
確かにあれは大変だったよね。でもボクはあまり悪く思っていない。なんでだろうね? それは多分……。
「ボクは今回の件でいい夢を見させてもらったような感じだからかもです」
「君が男の子だったという夢のこと?」
「はい」
本当に不思議な経験だったね。突拍子もないお話だ。
「君だけずるいわ。私も男である君を見てみたいと思う」
「ならまたあの人に頼んで……」
「それは勘弁してくれ!」
ボクがまたあの占い師に会いに行く誘うをしようとしたら、すぐ百合聖先輩に止められた。やっぱり今回は散々になったからもう関わりたくないみたいだね。まあ、確かにまた関わってしまったら今度何か起こるかあまり想像できないしね。
「そんなことより、今私がもっと心配しているのは、卒業した後のことよ」
「そうですね。先輩は東京に言っちゃうんだから。ボクも寂しいはずです」
今学期が終わったら、先輩は先に卒業して東京に行ってしまう。
「絶対に浮気なんかしないでね」
「しませんよ。先輩こそ、東京の男に口説かれては駄目ですよ」
東京の男はボクよりかっこいいだろうね。
「心配しないで。君のおかげで私は百合に目覚めたよ!」
「じゃ、東京の女に惹かれたり……」
やっぱり女も警戒しないとね。東京の女の子も意外と油断できないかも。
「それもないわよ! 信じてくれないのか」
「心配しているのは先輩だけじゃないんですよ」
ボクも誰かに百合聖先輩を奪われてしまったら困るんだから。例え相手は男でも女でもね。
「そうね。お互い様だね」
「でも後1年必ず付いていきますから。待っていてください」
不安な1年になるかもしれないけど仕方がないよね。これもボクたちの愛の試練の一つだろう。
「うん、私も必ず君を待つわ。その時までしばらく寂しいね」
「でも、その時はやっと2人きりでいられますね」
「そうね。一緒の部屋で、同じベッドで寝るね」
「い……一緒に同じベッドで寝るって……」
「あら、遙奈くん顔真っ赤ね。この話は前からちゃんと話したよね。一緒に東京に住んだら一緒のベッドで寝るって。女同士だから気にすることなんてないよね」
「そうですけど……」
確かにそんな話はしたことあるね。まあ、別に全然問題ないよ。女同士だからね。多分……。
「そういえば、君が男である場合、こんな話はどうなるのかしらね?」
「あっちの世界線のことですね」
「まだ『世界線』とか言うの? そんなの実際に存在するわけじゃないはずなのに」
「そうかもしれないけど、少なくともボクの頭の中にはちゃんと存在していますから」
先輩はあれがただの作られた偽の記憶だと言ったけど、やっぱりボクにとってあれは存在しているって信じていたい。
「まあ、いいわ。で、あっちの世界線の私は……その……男の君を一緒に寝る誘いをしたのか?」
「え? それは……」
あの時は確かに先輩の方から誘われたね。『一緒に寝よう』って。どっちの世界線もあまり変わらないようだ。
「はい。そうですよ」
「やだ! 私ってあんなに大胆なのか?」
ボクの答えを聞いて、なぜか百合聖先輩は意外そうな顔をして驚いた。
「は? なんでこうなるんですか?」
「だって、あの時は君が女同士だから私が誘ったはずよ。私があんなことを男の人に言うなんて思えないわ」
百合聖先輩は今なぜか落ち着かなくて動揺している? その態度は何だろう?
「そう言われても……、これは本当のことですよ」
記憶の中では間違いなくそうだった。
「やっぱり、あれはただ作り物の記憶よ。絶対に現実ではない。出鱈目よ! そんなの忘れなさい!」
「え? やっぱりボクが男だったら先輩に近づけられないんですね……」
そうかもしれないけど、そう言われるとやっぱり傷つくよね。あっちの世界線のボクもボクだから……。百合聖先輩に拒否されると、やっぱりしょんぼりする。
「なんで君は落ち込むのよ?」
「わかってますよ……」
男のボクなんて要らないんだ。捨てられちゃう。いや、実際にそもそも告白の時から振られちゃうかも。
「なんで遙奈くんは私に振られた男と似ているような憂い顔になってるのよ!?」
やっぱり、ボクが女に生まれてきてよかったよね。
色々あったけど、こうやってボクと百合聖先輩の百合百合しい生活はこれから先も続く〜。
✄ 終わり? ⊖
5万文字しかない短い小説ですが、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
この小説は私の最新作ですが、短いので先に終わらせました。
少し更新遅いけどまだ連載が進んでいく『隣のお嬢様が前世での彼氏だった』という小説があります。よろしくです。
>> https://ncode.syosetu.com/n4970gw/
同じTS百合で似ているところも多いですが、あちらは転生もので比較的に長い話です。