24 ䷭ ⇌ 納得 ⇋
「そんな……結局全部はただのボクの思い込みだなんて」
ボクは喫茶店で百合聖先輩の話を聞き終わった。まだあまり信じたくないけど、やっぱりなんか納得できそう。要するに、パラレルワールドなんて最初から存在していない。先輩の言ったのは事実のようだ。
「本当にごめん、君がこんな誤解をしていたのは私のせいだ」
「ということは、ボクは最初から女の子ですか?」
「そうだよ」
パラレルワールドのことがただの勘違いだとすると、ボクが男であるという世界線なんてボクの想像の中しか存在しない。それはつまり、そもそもボクが最初から女の子だった。ただ『ボクが男だった』と思わせられただけ。
「そ、そんな……」
「がっかりさせたかしら?」
「まあ、でも仕方ないことですね。これは確かにボクの考えたパラレルワールドの仮説よりも合理的です」
考えてみればその『元の世界線』の記憶の中には本当に違和感がいっぱいある。思い出せない部分も多い。やっぱり全部は偽物の記憶だからだ。
パラレルワールドとか、世界線とか、なんでボクがそこまで考え込んでしまったのだろう。やっぱり小説を読みすぎたね。そう考えると自分の考えたことがなんか恥ずかしくなってきた。
「これからボクはどうすればいいかわからなくなってきました」
自分の考えていた仮説が間違っているとわかってしまって、今は漠然としている。
「決まってるじゃないか。今はあの占い師を探すしかないと思うわ」
「そうですね」
記憶を取り戻すためにどうしたらいいかまだ全然わからないけど、あの占い師ならきっと知っているはずだ。そもそもどうやって記憶を改竄したのか? これすらまだわかっていない。色々まだ謎のままだ。
「でも私はずっと探していたのに、全然見つけなかった。これからもどうやって探すかよくわからないわ」
そうだよね。ボクがここに来る前から先輩はずっとさっきまでここでがんばっていた。
あれ? 待って。あの占い師はボクがさっき……。
「あ、言い忘れましたが、実はさっきボクはあの人と会いました」
「へぇ!? 本当?」
「先輩と会う前に偶然ぶつかり合いましたけど、すぐ姿を消したんです」
その後ずっと探していたのにまだ見つからなくてそろそろ諦めるところだった。
「何それ? まるで探したい時には会えないが、逆に探していない時は会えるってこと?」
「そうですね」
ならもう探したくない。でもさっき会ったってことはあの人はきっとこの辺りにいるはずだよね。だからまた偶然どこかで会えるかもしれないよ。
「いらっしゃいませ……」
その時新しいお客さんがこの喫茶店に入ってきた。
「あの占い師だ!」
入ってきたのは間違いなくあの占い師だ。やっぱり探さないと思ったらすぐに偶然会える。いや、これは本当に偶然?
「あなたを探していたわ」
百合聖先輩は即座にあの占い師に接近して話しかけた。
「お二人様、あの時の百合カップルだネ」
「ええ、よく覚えてるのね」
どうやら本人で間違いないようだね。
「ボクもあなたを探していました」
「あれ? 貴方様はもう我のこと覚えたのか?」
「いいえ、まだですが、百合聖先輩から事情を聞きました」
会った時の記憶は綺麗さっぱり消されたから、もし先輩が教えなければボクも全然何も知らない。
「貴方様の恋が叶ったのか?」
「そんなことより、あなたのせいでメチャクチャだったわ。早く遙奈くんの記憶を元に戻しなさい!」
前置きなんて全部無視して、百合聖先輩はすぐ要求を言い出したが、これはどうもても人に頼み事がある時の態度ではないよね。
「落ち着いて。百合聖先輩」
「今回は絶対に逃さないわよ」
「ここはお店の中だからいきなり逃げたりしませんよ。それに周りの人に見られていますよ」
「わかったわ。とにかくこっちの席に座って。いいかしら?」
そして占い師さんを一緒の食卓に誘って、話し合いをした。
「そうか。大変なことになったネ」
「あなたのせいだわ。早く元に戻しなさい!」
「先輩、そんな急かさなくても」
相変わらず百合聖先輩は今でもすごく焦っているようだ。
「いいヨ。元に戻すのは簡単だから」
「本当? じゃ早速」
何これ? あっさりと受け取ったとは意外だ。そんなに簡単なことなのかよ?
「でも今すぐはまだ駄目だヨ」
「どうしてだよ?」
やっぱりそう簡単には行かないか。
「まさかお金が欲しいとか? 最初はあなたがお金なんて必要ないと言ったくせに」
「違うヨ」
「じゃあなたは何が欲しいのヨ? 私たちの魂や生命力とか?」
なんか恐ろしいこと考えているみたいだね。そこまでではないはずだ。
「そんなものも要らないヨ」
それはよかった。『貴方様の魂をもらおう』とか言われても簡単にあげるわけにはいかないよね。
「じゃ、何を?」
「待つ時間だ。明日まで待ってネ」
「は? 明日?」
今すぐでは駄目だけど、明日ならできるってこと?
「朝起きたら記憶が戻る」
「そんな簡単なのかしら?」
「その時すぐわかるヨ」
こういう展開、どこから突っ込んだらいいかボクもわからなくなってきた。
「またかよ。やっぱり怪しいわ。どうやって信じるの?」
「先輩、きっと大丈夫ですよ。あんな簡単に記憶を改竄できたのだから、きっと元に戻すことも簡単ですよ」
「遙奈くんは甘すぎるの! 自分が被害者なのに。散々やられたのに。冷静すぎるわ!」
「あはは、そうですね」
まあ、確かにボク自身より、先輩の方が困っているように見えるよね。自分のせいだと思って責任感を抱いているだろう。
「ボクからももう一つ質問してもいいですか? あなたはいったい何者ですか?」
「我はただの占い師だヨ」
それはさすがに説得力ないよ……と、ボクがこう突っ込みたいけど、百合聖先輩の方がボクより速い。
「そんなわけないでしょう! 誤魔化すな! あなたは魔法使いか? もしかして宇宙人か? 異世界人? それとも猫型ロボット?」
最後のはさすがにちょっと可笑しくない? 先輩……。
「先輩、とにかく落ち着いてください」
こうやって、結局まだ何もわからないままだけど、占い師さんは明日元に戻すと約束してくれた。
次はもう最終回となります。




