23 ䷅ ☯ 限界 ✡
翌日、昼休みの時、また遙奈くんとお話をしていた。やっぱり遙奈くんは『昨日あの男の子の家に行ってきた』ことを私に教えてくれなかった。
しかも今でもまだパラレルワールドのことを信じて、真剣に考え込んでいる。もちろん、記憶が改竄された状態のままで。
いつまで続くの? この状況は……。
「今のままでも普通に生活できて困っていません。なんならそのまま……」
「君はそれでいいのか!?」
今『問題を解決すること』を諦めてもいいような言い方をした遙奈くんに対して、私はつい大声を出して反論した。
だって、絶対こんな状態は放っておいてはいけないのだと私は決めたのだから。
「このままでは駄目だ。嫌だよ。元の君に戻さないと……」
私のせいで君はこんな状態になった。絶対に何とかしないと。
「元のボク? やっぱり、先輩が好きなのは今のボクではなく、元からこの世界線にいたボクだったんですね」
「それは……、違うよ。そういう意味じゃ……」
なんか私がそういう言い方をしたせいで、遙奈くんがこのように解釈しちゃったようだ。私は今になってもまだ話を合わせ続けるのはもうすぐ限界になるだろう。
「ならどうしてですか?」
「私がどう説明したらいいか……」
今真実を伝えてみたらいいか? いや、まだ駄目だ。きっと混乱させる。それに私は遙奈くんに嫌われることが怖い。
「やっぱり、必ず君の記憶を元に戻さないと……」
「は? 記憶」
あ、つい口に出た。遙奈くんは自分が違う世界線から来たと信じ込んでいるんだから。
「いや、言い方違ったね。それはつまりこっちの世界線の君に戻るってこと」
こうやって私はまた話を合わせようとした。嘘がどんどん重なってきたね。
「やっぱり、結局こういう意味じゃないですか。先輩にとって今のボクは別人だから、何を言っても意味ないってことですね」
これ全然駄目だ。更に悪化していく。
「別人だなんてそんなこと言わないで。遙奈くんは遙奈くんだよ。誰でもないわ」
「でもさっきの台詞ではまるで先輩は今のボクの存在を認めていないように聞こえました」
なんか今私が何を言っても遙奈くんに不安させるしかない。
「違う! 今の君の存在を否定しているわけじゃないのよ」
「じゃ、どうしてですか?」
「それは……」
もうどう言えばいいかわからない。私だってわからないよ。
「とにかく、諦めないでよ。君がやろうとしていることは間違いなんかないはずよ」
そんな言い方をして無理矢理話を終わらせるしかない。話し続けていてももっとボロを出すことになるだけ。
「そうですか」
「がんばってね。私も自分ができるだけのことをするから」
「じゃ、放課後……」
遙奈くんは今日の放課後でもまだ何かやろうとしているでしょう。大事にならなければいいけど、やっぱり心配だ。
昨日だって私の忠告を無視して勝手にあの子のところに行ってきたし。今日はどうするつもりなの?
本当に不安しかないけど、私も今日やらなければならないことがある。放課後あの占い師を探し続けないとね。
「ごめん、今日も駄目なんだ」
こうやって今日も私が遙奈くんの誘いを断った。
それでいい。今の状況なら別行動をするしかないよ。
そして放課後、私はまた一人で商店街にやってきた。
やっぱりまだ見つからない。あの占い師はいったいどこにいるのかしら? もうこの辺りにはいないとか?
当てもなく歩き続けていたら、つい人気のないところに来てしまった。こんなところで女一人は危ないってことは言わなくてもわかっているはずだ。
そんな不祥なことを考えたそばから、不良っぽい男が突然やってきた。一応私はあの占い師のことを訊いてみたけど、やっぱり彼は全然答える気なんてなかったね。
でもそれはどうでもいい。質問をしたのはただの時間稼ぎだ。スタンガンの準備のためにね。
私だってよくストーカー被害に巻き込まれやすい体質だから、もちろん自分を守るための準備は常にしておいたわ。
あの不良の男が襲いかかってきたら私はすぐスタンガンで反撃した。そうしたらあいつはばたりと倒れた。
だけど意外なことに、その時遙奈くんがこの場に現れた。どうやらドラマの主人公みたいにヒロイン(私)を助けようとしていたみたいだけど、残念ながら私はつい自分で解決してしまった。
でもそんなことはどうでもいい。問題は、今私がここに来たことはつい遙奈くんにバレてしまった。
「遙奈くん、なんでここに?」
「先輩こそ、なんでこんなところにいるんですか? それに人探しって」
「……」
言い訳なんて全然思いつかなかった。もう考えるのも億劫だし。
「先輩?」
「ごめん」
「は?」
「こうなるともう隠すことはできないようだね」
もう真実を話すしかない。信じてくれるかどうかわからないけど。
「何のことですか?」
「実は言いたくないの。知られてしまったら君は私を嫌いになってしまう」
本当に言いたくない。話したら私が遙奈くんに嫌われるかもしれないから。
「先輩を嫌うなんて絶対に絶対あり得ません」
「そうかしらね?」
もし本当にそうならいいけど。まあ、例えどうであれ今の状況では本当のことを話すしかない。
「もし私が今君に起こったこの状況の元凶だと言ったら?」
「は? 先輩が……」
私の自白を聞いてやっぱり遙奈くんはすごく驚いて動揺した。
私は犯人だという事実は君が思いもしなかったでしょうね。でも事実だ。やっぱり、今の遙奈くんは私を信頼しすぎるのよ。
ごめんね。信頼を裏切るようなことをしてしまって。
「今更もう隠す必要がないのよね。君だって今薄々察しているはずよ。だから私は全部話すわ」
「いいんですか?」
「うん、これ以上隠し続けるのは辛いよ」
本当に辛くてどうしようもない。これ以上はもう耐えられない。もう限界だ。
「……わかりました」
「とにかく場所を変えよう」
ここではまた襲われちゃうかもしれないから危険だ。早くこんなところから出た方がいい。
「はい」
そして私たちはあの商店街にある喫茶店に入って、話し合いは始まった。
「よく聞いてね。君の言うパラレルワールドやら世界線やら、実は最初から存在しないわ」
こうやって私は自分の知っている限りの真実を遙奈くんに伝え始めた。
ずっと今まで黙っていて本当にごめんね。