21 ䷿ ☯ 矛盾 ✡
今朝遙奈くんと電話した後学校に来ていつも通り朝の授業を受けた。そしてやっと昼休みの時間がやってきて、私は遙奈くんと会って話し合ってみた。
「先輩、これからの話は信じられないかもしれないけど、聞いてください」
「わかったわ。君の言うことなら私は何でも聞くよ」
それで遙奈くんは本当にとんでもないことを言い始めた。
どうやら今の遙奈くんは、『自分が元々男だったのに、いきなり今日の朝起きたら女の子になった』と思っている。
何これ? そのようなネタは小説や漫画では読んだことある。いわゆる『あさおん』ってやつね?
だけどそんなことは現実的ではないわ。どう考えてもあり得ない話だ。遙奈くんは最初から女の子だった。私はこの事実をよく知っている。男の遙奈くんなんて私は全然知らないわよ。
「不思議だね。遙奈くんは男だなんて」
「やっぱり信じられないのですね」
「うん、なんか信じがたい話だよね」
「ですよね」
「でも君はこんな嘘をする人じゃないとはわかっているから、私は信じたいよ」
今どう見ても遙奈くんが嘘をついているようには見えない。少なくとも遙奈くん自身は完全にそう認識している。いや、もしかしたら、そう思わせられたかも?
「それに、君が男であるという『IF』の世界って本当にあったら面白いかもね」
実は私だって想像したことがあるわ。IF遙奈くんが男だったらどのようになるか、って。
「先輩、もしかしてこれって『パラレルワールド』……つまり、『平行世界』ってやつ?」
「は? なんかSF〔サイエンス・フィクション〕で聞いたことがあるようなあれか?」
「そうです。確かにこれはSFぽいですね」
何これ? パラレルワールド? 平行世界? とんでもない発想が出てしまったね。
「そんな発想は悪くないかもね。でもなんでそう思うの? 根拠とかあるのか?」
私もよく小説や漫画を読んでいるから、そんな話も読んだことがあるけど、現実でそんなものが存在するとは思えない。これはあくまで遙奈くんの仮説に過ぎない。何か確かな根拠がないとあまり信じがたい。
「これはただボクの妄想だけかもしれないけど、やっぱり未だにもっと説明できる答えは思いつきません」
「そうか。とにかく今考えていることを言ってみて」
「はい」
そして遙奈くんは自分の仮説を私に説明してくれた。これはSFのような展開だ。本当に想像力高い。さすが私よりたくさん小説や漫画を読んでいる遙奈くんだ。
遙奈くんの考えによると、まずはパラレルワールド(平行世界)が存在している。『遙奈くんが女の子である世界線』と『遙奈くんが男の子である世界線』がある。そして今の遙奈くんは自分が男である世界線から何かの原因でこの世界線にやってきてしまった。
確かにその考え方は一理ある。私もつい納得してその可能性を信じてしまった。
しかし、その後2つの世界線で起きたことについて話して比較してみたら、遙奈くんの言った『もう一つの世界線』の出来事は矛盾だらけだ。なのになぜか本人は全然気づいていないみたい。
だから私は確信した。パラレルワールドなんてそんな物々しいことは存在しないわ。『遙奈くんが男である世界線』なんてただ遙奈くん自身の頭の中しか存在していない架空の世界。しかも未完成で穴いっぱいという形でね。
そしてもしかしなくても、これはあの占い師が関わることに違いない。おそらく何かの方法で『洗脳』や『記憶改竄』とかして、遙奈くんに『自分が男の子だった』と思い込ませた。
方法はよくわからないけど、あの占い師が何かわかっているはずだから、彼女を探して訊けばいいだけだ。
だけど昨日のデートの内容を確認してみれば占い師と会ったことは遙奈くんの記憶にないみたい。その他のほとんどは事実に近いのに。
つまりあの占い師と会ったっていう事実も記憶から消されたということ。
それだけじゃなく、あの男の子の話は全然出てこない。私がカマをかけてあの子のことを遠回しに行っても、遙奈くんはいつものように動揺したりしなかった。まるでこれも本当に遙奈の記憶から消されたような。
その時私は思いついた。あの占い師の言った言葉の意味。『女同士であること』と『あの人物の存在』を消すと言ったのは、本当にこの世から消すという意味ではなく、ただ遙奈くんの記憶から削除するだけってこと?
だから遙奈くんの頭の中は自分が男の子だったという偽物の記憶で入れ替わって、しかもその記憶の中であの男の子は完全に存在していない。
何ということだ? そもそもあの占い師が本当にこんなことをやらかすとは思わなかった。なのに気づいたらこんな大事になってしまった。予想外の展開だ。
これってどこが『消す』のよ? ただ遙奈くんの記憶から消すだけじゃないか!
やっぱり、あの人詐欺だわ! 信じて後悔した。