20 ䷧ ☯ 混沌 ✡
今回からは遙奈視点と同じ会話の内容がたくさん含まれますが、一部省略されて、その代わりに百合聖先輩の感情の描写が入れられます。
謎の占い師と出会った後、冬休みが終わって、翌日は新学期。
これは私の高校生活の最後の学期になる。もうすぐ私は高校卒業して東京の大学に通うことになる。
ずっと憧れていた東京での生活を始めるのはもちろんすごく楽しみにしているけど、実は不安なこともある。
それは……遙奈くんと離れ離れになるということだ。
遙奈くんも東京の大学を選んで私に付いていくと言った。それは嬉しいけど、遙奈くんはまだ5年生だから、大学に入るのは一年後のことだ。
それはつまり私は遙奈くんと1年間くらい会えなくなるということ。
その1年間もし遙奈くんが誰かに奪われたら……、という心配がある。そしてもちろん、一番危険だと思っている人物はあの幼馴染の男の子だ。
あの子は遙奈くんのことが好きだと言った。ずっと遙奈くんを堕とそうとしている。
だからあの子の存在は私にとって苛立ちと不安の元だ。この世から消えてしまえばいいくらい思っている。
だから昨日あの占い師が『あの子の存在を消してあげる』と言ったら、私はつい軽い気持ちで受け取ってしまった。何の方法なのかは全然教えてもらっていなかったのにね。
あんな話……、なんで本気になったのよ。私の馬鹿。
今でも私はイライラしていてなかなか落ち着けない。だって、もし本当に何が起きたらどうしようかと心配しているからだ。
もし何も起きなければそれはそれでいいと思っている。
今日も普通とはあまり変わらないような朝……のはずだと思っていたけど、どうやらそうはならないみたいだ。
「もしもし」
『あの、百合聖先輩』
登校中、突然遙奈くんが私に電話かけてきた。様子はいつもとは違ってなにかおかしいようだ。
「あら、遙奈くん。朝からどうしたの?」
『昨日ボクと一緒にデートしましたよね?』
「なんでいきなり? 覚えてないのか?」
もしかして何かあった? 遙奈くんいきなり記憶喪失とか? そんなこと……ないよね?
『いや、ちゃんと覚えてますよ』
よかった。やっぱり忘れたわけではない。まあ、いきなり忘れるなんてあり得ないのよね。
「ならどうしたの?」
まさかあの占い師が本当に何かやらかしたかしら? でもどんなこと? どうやって?
『なんか変ですよ。いきなりボクが女になっている』
「は? どういうこと?」
遙奈くん、変なこと言っているね。わけわからないわ。
『いきなりこんなこと言うのは変ですよね。でも本当です。朝起きたら体が女の子になっています。服も女子制服ばかりになって』
「変なこと言うね?」
『ですよね』
「だって君は女の子じゃないか?」
そもそも遙奈くんは女の子だから、いきなり『女の子になった』とか言ってどういう意味あるの? 駄目だ。私はまだ全然話が見えない。
『は?』
「どうしたの?」
私は何かおかしいこと言ったのか? 遙奈くんはなんかすごく驚いたような声を出した。
『いや、ボクは男……のはずですよ?』
「遙奈くんは男? いつからそんなことに?」
まさか遙奈くんは自分が男だったと思っているの? なんでいきなりこうなる?
『でも、さっきデートだとか言いましたよね』
「それは何か変なの?」
『ボクが女の子だったら、どうやって先輩とデート?』
何それ? そんなこと言うなんてやっぱり全然遙奈くんらしくない。自分が百合だと主張したのに。
「いつもそうじゃないか? なんで女同士ならデートできないと思うの?」
『は?』
遙奈くん、いきなりどうなっちゃったの? 本当に変だわ。絶対おかしい。
「やっぱり今の君は変だな。変なことばかり言って、大丈夫なの?」
『ボクたちは恋人同士ですよね?』
は? なんでそんな質問を? まさか本当に何か忘れたの? 傷ついたわ!
「今更何を言ってる? 君の方から私に告白しに来たのに」
今でもあの日のことはちゃんと覚えている。私にとってとても大切な思い出だから。
『確かにそうですよね。ちょっと混乱しているようです』
「やっぱり君はなんか様子がおかしいわね」
駄目だ。なんか話は擦れ違っている。このまま話し続けても混乱していくだけだ。
「とりあえず学校で会おう。今は登校中だ」
話は後でいい。頭の整理に時間が必要だ。
『はい、ボクも』
「じゃ、学校で」
まだ何もわからないまま電話を切ってしまったね。
まさか……本当にあの占い師は何かやらかしたの!?
とにかく学校で会って話したら何かわかるはずだよね? きっと何とかなるよね?
不安だわ。悪い予感しかない。今はまるで混沌の始まりのようだ。