19 ䷺ ☯ 逡巡 ✡
実はあの男の子が遙奈くんに告白した日には、私が偶然遙奈くんを尾行していたの。
別にストーカーになるつもりなんかないわよ。ただ遙奈くんのこと心配だから様子を見に行きたいだけよ。恋人のことを気にするのは当然のことだよね?
だからあの告白の場面を私は自分の目で見てしまった。自分の耳で聞いてしまった。
そして遙奈くんが彼の告白を断らなかったことも……。
確かにあの告白は遙奈くんが承諾しなかったけど、なんですぐ断らなかったの? 先延ばしする必要があるの? つまり躊躇っているよね? こんなの狡いわよ。私という恋人がいるのに、どうして? なぜなの?
不愉快だわ! 私は今すぐあの子をこの世から消したいと考えるくらい気分が悪い。
その後遙奈くんはあの子と別れて自分の家に帰っていった。そして私は遙奈くんに電話をかけてみた。
「遙奈くん、冬休みの宿題は全部終わったか?」
『はい』
「今日家でやってたの?」
『……はい、そうです』
遙奈くんはしばらく迷ってから自信ないような声で答えた。
この嘘つき! 今日あの子に会いに行ってきたくせに。やっぱり私に言うわけがないよね。どうやら黙っておくつもりね。
「ね、明日は暇かしら?」
『特に予定はありません。宿題も終わったし』
「じゃ、デートしようか」
私は遙奈くんにデートの誘いをしてみた。最初は遙奈くんがちょっと驚いたような声を出して迷っていたようだけど、結局断らなかった。よかった。少し安心できた。
こうやって私たち二人は翌日デートに行くことになった。
あの日のデートは今までみたいに普通に楽しんでいた。
だけど商店街を歩いている途中で、ミステリアスな雰囲気を醸し出す屋台を目撃した。
「占い師ね。面白いわ。遙奈くん、私たちの恋の占いとかしてみない?」
「はい」
私たちはただ興味本位であの占い師の屋台に行って占ってもらってみた。
あそこでおかしな格好をしている女がいる。声はまだ若いようだけど、髪の毛の色は白っぽい。彼女は黒眼鏡をかけて、フードを被っている。
外国人かしら? 日本語は通じるけど、彼女の喋り方はなんか訛っているし。
随分怪しい人だとは思ったけど、占い師ってこんなもんだろうね。ならこんな格好してもおかしくないと思って気にしないようにした。
そして占いの結果で、彼女は変なこと言った。
「お二人様の関係はある人物の介入によって障害が起こりかねないネ」
「はい?」
ある人物ってこれってもしかしてあの子のこと? ただ占いだけでそこまで知っているのか?
「具体的にどんな人かしら?」
一応もっと具体的に聞いてみた。
「年下の男の幼馴染」
「「……は!?」」
そんな返事を聞いたら私たちは驚いた。でも私よりも遙奈くんの方がびっくりして動揺した。
「そ、そんな人はいませんよね」
と、遙奈くんは誤魔化そうとしたが、もちろん私はよく知っている。これに該当するのは遙奈くんの幼馴染のあの男の子。それに遙奈くんも気づいているのに何も言わないようにしている。バレバレなのにね。
「そうよね。占いなんてどうせ出鱈目ばかりなのよ。私も本気にしないわ」
「はい、そうですね」
遙奈くんは言いたくないようだから、私も敢えて突っ込まないようにした。
そのまま私たちがデートの続きをしていたが、私の頭の中にはどうしても不安がまだ残っていた。
「じゃ、また明日学校でね」
「はい、また明日です」
そのままデートが終わって、私たちはそれぞれ家に帰ることになった……が。
「やっぱり気になるわ」
あの占い師の言ったことはまだ頭に残っていて、結局遙奈くんが帰った後、私は一人であの占い師のところへ戻ってきてみた。
「貴方様はさっきのお客様だネ」
「あなたがあの時言ったことは気になって……」
私は占いとか信じているわけではないけど、この占い師からはなんか不思議なオーラを感じるような気がした。
「お二人様は『あの人物』のことで不安になっているヨネ」
「ええ、単刀直入に訊くわ。あなたは何か知っているのね?」
「もし貴方様が望むのなら我は力を貸してあげよう。お二人様の関係問題に関する悩みを解決してあげられるヨ」
「は? どうやって?」
どう見ても怪しい。なんか詐欺っぽいわ。でもせっかく来たんだから訊けるだけのことを教えてもらっておいてみよう。
「お二人様が悩んでいる原因は、二人が女同士であることと、あの人物の介入だヨネ」
「それは……まあ」
なんでそこまで知っているのよ? やっぱりこの人は何か普通じゃない力が? 占い師ってこんなことができるの?
「なら解決方法は簡単だヨ。『女同士であること』と『あの人物の存在』を消せばいいヨネ」
「は?」
何馬鹿なこと言っているのよ?
「存在を消すって、具体的に何をする?」
「ただ最初からあの人物が存在していなかったことにする」
「何それ?」
「貴方様がそう望むのなら今夜実行して、明日の朝はすぐ効果が出るヨ」
そんなことはどうやって? 簡単にできるわけないだろう。
「何をする気なの?」
「貴方様の恋の悩み事を解決するヨ」
「余計なお世話だと思うけど」
もちろん本当に何とかしてくれたら感謝するわ。でも、いったい何ができると言うのよ? くだらない。やっぱり詐欺だわ。
「もし我が本当にできるなら?」
「例え何かできたとしてもあなたにとってどんな利益があるの? お金なんてあげないのよ」
「何も要らない。占いの代金ももらったからね。これは特別サービス」
確かにお金は払ったが、ただあれだけの代金でそこまでする?
「はいはい。そんなことできるのならやって見せてよ」
「では実行していいっていうことだネ?」
「こんなに話が速い? 具体的に何をするかまだ聞いてないわ」
「明日すぐわかるヨ」
詳しい内容を教える気はないようだな。更に怪しいわよね。
「言っておくけど、暴力や人に危害を加える危険なことや犯罪行為なら却下よ」
そんなことして大事になったら私の責任になってしまう。それは困る。
「いいえ、そんなことはないヨ」
本当かな? まだ半信半疑で不安だけど、なんか面白い気もした。
「まあいいわ。できるものなら何とかやってみれば」
ただの冗談かどうかその時わかるわ。明日が何か起きたらこの人の仕業だと思ってもいいよね?
「では、あなたの恋が実るように……」
こうやって私は何も深く考えていていないまま軽々しくこの占い師の話に乗ってしまった。
あの時の私は全然思いもしなかった。翌日本当にとんでもないことが起こってしまうっていうことは……。