17 ䷃ ⇋ 元凶 ⇌
しばらく百合聖先輩の後をつけていたら、いつの間にかつい狭くて人気のない巷に入ってしまった。
こんなところで女の子一人だけで彷徨いていたら……なんか嫌な予感しかないよね。
と、思ったとたん……。
「おい、君……」
いきなり不良っぽい二十代男性が現れて百合聖先輩に話しかけてきた。これなんか予想通りの流れだ。というか、こういうのは約束展開なのか?
「こんなところで一人何をしてんの?」
「私、人を探していますけど」
と、百合聖先輩があの男の質問に答えた。人を探している? 先輩が? 誰を?
「人探しか? 誰だよ?」
と、白けた声で質問をした不良っぽい男に対して……。
「えーと、確かに……黒いフードと黒眼鏡をつけて、髪が白い女の人……」
と、百合聖先輩が答えた。あれ? このような人はボクもどこかで見た覚えがあるような……。それってまさか……。
「は? 何それ? こんなどう見ても不審者のような人、俺は全然知らねぇな」
いやいや、不審者っぽいってのはこの男もそうだよ。違う意味でだけどね。そう突っ込んでみたいけどボクは身を隠しているので、そうするわけにはいかないよね。
「知らないならいいわ。失礼します」
「おい、待って」
「キャッ!」
百合聖先輩はこの場から去ろうとしたら、男は彼女の腕を掴んだ。これもなんか約束展開っぽいよね!
本来ならこんな場面では主人公はヒロインを助けに行くよね? 主人公ってボクのこと? いや、でも今ボクは女の子だけど。どうする?
「何をするつもり? 離して!」
「ちょっと付き合ってくれないか」
先輩は抵抗しようとしたが、やっぱり男の方が力強い。
「嫌だ。そんな暇はないの。人を探していると言ってるでしょう」
「そんなこと、俺には関係ねぇ」
このままではまずい……。ボクは助けに行かないと……。
でも今のボクなんて何ができるのか? こんなか弱い女の子の体で。いや、例え男のボクでもそもそもか細くて弱い体だから、悔しいけど力で喧嘩とかできるとは思えないよね。今は女の子だから尚更だ。
しかし、それでも今考える暇なんてないよ。ボクが早く何かしないと先輩は危ない。
「やめろ! 彼女に手を出すな!」
そう叫びながらボクはすぐ飛び出して、先輩を助けようとする。
確かにこんな台詞は主人公っぽくかっこいいよね。でもそれは本当に救い出せたらの話だ。実際にボクはどう戦うかは全然わからないし。武器があるわけでもない。これままじゃ無駄? ボクの馬鹿!
だけどその瞬間……。
「あっ!」
男はいきなり大声出して倒れてしまった。今何が起こったの?
「あれは……スタンガン……?」
百合聖先輩の手の中にはスタンガンがある。つまりこの男はこれの攻撃によって倒れたようだね。
助かったね。先輩無事でよかった。
あれ……、これならボクが出る必要がないのでは? ならボクは何のために……。意味のないことをやってしまって、今のボクはなんかかっこ悪すぎない?
「遙奈くん、なんでここに?」
バレている! 当然だよね。助けるつもりで出てきたのに、全然役に立たない上に先輩に見つけられてしまった。最悪だ。
「先輩こそ、なんでこんなところでうろうろしてるんですか? それに人探しって」
質問に質問で返すのは行儀悪いとはわかっているのに、ボクはそうやってしまった。
さっきの話からわかってきた。先輩もあの怪しい白髪女を探しているようだ。やっぱりあの人は何か……。
「……」
「先輩?」
百合聖先輩は質問に答えずに黙っている。
「……やっぱり聞いたか。ごめんね」
「は?」
なぜかいきなり百合聖先輩はボクに謝った? 何のこと?
「こうなると、もう隠すことはできないようだね」
「何のことですか?」
「実は言いたくないの。知られてしまったら君は私を嫌いになってしまう」
なんか言いにくそうなことみたいだ本当に百合聖先輩は何かしたのか? やっぱり先輩は……。いや、そんなはずがない。何か理由があるはず。
「先輩を嫌うなんて絶対に絶対あり得ません」
とりあえず、百合聖先輩なら何のことでも許すつもりだ。ボクは本気でそう思っている。
「そうかしらね?」
先輩は一瞬黙って何か迷いながら次の言葉を口に出した。
「もし私が今君に起きているこの状況の元凶だと言ったら?」
「は? 先輩が……」
先輩は……。そんなこと……。
「何が起こったか私は全て……じゃないけど、だいたいは知っている。最初からね」
「は? でも先輩は何も知らないのでは?」
「ごめん、実は全部嘘。私は知っていて黙って何も知らないフリをしていたの」
「そんな……」
まさか実頼くんの言った通り? あまり信じたくないけど、今百合聖先輩本人は自白しているから信じるしかないか。
「今更もう隠す必要がないのよね。君だって今薄々察しているはずよ。だから私は全部話すわ」
百合聖先輩は何か決心ができたような顔をした。
「いいんですか?」
何のことかまだわからないけど、先輩は言い出したくないようだから無理しなくてもいいのに。
「うん、これ以上隠し続けるのは辛いよ」
先輩は本当に泣きそうな顔をしている。どうやら全部話すと決意したようだ。ならボクもちゃんと覚悟して聞かせてもらうしかないよね。
「……わかりました」
「とにかく場所を変えよう」
「はい」
その後ボクたちはこの近くの喫茶店に入って、そして先輩はとんでもない真実を語り始めた……。