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12 ䷽  ⇋ 漠然 ⇌

 中学校で実頼(みらい)くんと会った後、一緒に彼の家に向かっている。その途中ボクが今起きているパラレルワールドという現象に関することを彼に教えた。


 「何それ? SF映画か?」


 やっぱりあまり信じてくれないみたい。


 「でも実際に今のボクは君のことを知らない」

 「そんなの嘘だよ」

 「本当だよ」


 パラレルワールドという仮説は本当かどうかはわからないけど、少なくともボクが彼に関する記憶がないというのは事実。これは嘘なんかではない。


 「何か証拠があるの?」

 「え? それは……ないけど」

 「じゃ、本当に遙奈(はるな)姉が俺のことを覚えていないと証明できる?」

 「証明? そんなのどうする?」

 「いや、今訊くのは俺の方だけど」


 そう言われてもね。『知る』ということより『知らない』ということは証明しにくいよね。


 「俺の告白を断りたいのなら正直言ってもいいのに。こんなに気を遣わなくても」

 「やっぱりそう思うのか」


 ただの言い訳だと思われているようだ。どうやらこの子に信じさせることは失敗だな。でもボクの本当の目標は彼を説得することではなく、あくまで今起こっている異変に関する真相を突き止めるため。


 この子はあっちの世界線では存在していない唯一の人物。彼と一緒に過ごしていたボクも今のボクじゃない。だからこの状況に関してはこの子は何かの形で関わっているはず。ただし彼は自分の意思で関わるわけじゃないという可能性もある。


 「やっぱり遙奈姉はあの先輩のことが好きだよね」

 「それは……」


 もちろんボク自身ならそう思っている。でもこっちのボクは? 百合聖(ゆりせ)先輩のことが好きだという気持ちは同じであるはずだよね。だけど正直彼に言うべきかどうか迷っている。


 「まだ自分の心に自信がないの? どうやらまだ決心をつけていないみたいだね」

 「なんでそう思うの?」

 「遙奈姉はいつもあの先輩のことが好きだと言っているのに、俺に告白されたらあんなに戸惑っていた。本当にあの人に心を()めているのなら、すぐ俺の告白を断ればいいのに」

 「あ……」


 確かに、その通りかも。もしかしたら、こっちでのボクは百合聖先輩と付き合い続けることを躊躇(ためら)っているかもしれない。


 だけど男のボクはそのような逡巡(しゅんじゅん)がなかった。だって百合聖先輩みたいに優しくて綺麗で完璧な彼女と付き合うことは迷うはずがないよね。


 それに対し、こっちのボクの方は多分事情が違って、色んな問題が存在している。同性であるという葛藤(かっとう)のこともある。それに何より実頼くんの存在のことも……。


 「さっきも言ってた通り、ボクは君の知っている『遙奈姉』じゃないから、何の答えもできないよ」

 「まだこんな設定を続けるつもりのようだね」

 「設定じゃないし。ボクはこんなに信用できないのかな?」


 ボクの知っている限りこっちの世界のボクの性格は今のボクと違うところはほとんどない。つまりこっちのボクもこんな悪ふざけを考えるような人じゃない。


 そしてこの子がボクの幼馴染だったらボクの性格をよく知っているはずだ。だからこんなに信頼されないのは心外だな。


 「いや、ごめん。確かに遙奈姉はそんな嘘をつくような人じゃないよね。俺もわかっているけど、なんか最近の遙奈姉は以前とは随分変わったから」

 「以前っていつのこと?」

 「あの先輩と知り合う前」


 あ、確かにボクは百合聖先輩と知り合ってから色々変わったね。これについてはこの世界線でも同じようだね。


 「確かにボクは変わったけど、それは別に悪い方向ではないはずだよ。むしろ百合聖先輩から色々教えてもらったからボクの心は以前よりもよくなった気がする」

 「でも、俺からの距離を取り始めたのはあの時から」

 「それは……もう恋人ができたから、夢中になるのは普通だろう」


 実際にボクはいつも百合聖先輩と一緒に時間を過ごしていたから、友達と過ごす時間は大分減ったよね。


 これも本当にどっちの世界線でも同じのようだ。この子とだけではなく、他の知り合いとの距離も増える。でもこれは仕方ないことじゃないか。ボクは大切な人ができたから。


 「それはそうかも。でもこの間遙奈姉が構ってくれなくて俺はすごく寂しかったよ」

 「大袈裟(おおげさ)だな。君にはたくさん友達がいるはずじゃないか」

 「友達は友達。好きな人とは別」

 「あ……」


 そうか。この子はボクのことが好きだから。


 これが本当ならこの子はなんか可哀想。でも……。


 「今のボクは君に何かできることがあるのかな?」

 「じゃ、せっかく久々に俺の家に来るのだから、色々と一緒に遊んでもいい? 昔みたいに」

 「それはいいけど、言っておくけど。ボクには君と遊んでいた記憶はない」

 「ね、もし遙奈姉のさっきの話は本当だとしたら、俺と過ごした時間は全部あっちの世界では何かに書き直されるってことだよね?」


 なぜか彼はいきなり話題を変えた。


 「書き直されるなんて……」


 まるで記憶が改竄(かいざん)されるような言い方だね。


 「ならちょっと質問、もしこれが本当だったら、あっちの世界線の遙奈姉は『4日前何をしてた』ということになっている?」

 「4日前って?」

 「ボクが遙奈姉に告白した日」

 「あ、百合聖先輩とデートに行く前の日か」


 そういえばあの日ボクは何をしたのかな? 確かに……。


 ……$%#*^%+_*&#^&_+%@%*%_$……。


 あれ? 思い出せない。なんで? あの日のことどう考えても思い出せない。まるで記憶にないみたい。


 「遙奈姉、どうしたの?」


 ボクが途中で足を止まったので、実頼くんは心配で声をかけてきた。


 「わからないんだ」

 「は?」

 「あの日のこと思い出せない。もしかしてあっちの世界線のことはどんどん忘れていくかも」

 「そう?」

 「多分……」

 「これはただ設定を思いつかないだけじゃないか」

 「だーかーらー、『設定』なんかではない」


 やっぱりいつまでも話は()れ違っている。


 「とにかくもうすぐ家に着くよ。続きは一緒に遊んでいながらでいいか?」

 「うん」


 何だよ。シリアスな話をしているはずなのに、遊ぶ気満々か?


 まあいいか。ボクもこっちの世界線の自分が何をやっていたのか知っておきたいから。


 こんな流れでボクは実頼くんと一緒に遊ぶということになった。


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