10 ䷦ ⇋ 停滞 ⇌
翌日。
「やっぱり、昨日は夢じゃない」
昨夜寝る前に『朝起きたら今日はただの悪夢だといいな』と、楽観的に考えてみたけど、やっぱり現実だよね。今実際に朝起きてもまだ体は女の子のままだ。部屋も荷物も母さんの態度も昨日そのまま。つまり今日は完全に昨日の続きのようだ。世界線が変わることはない。
学校に行って百合聖先輩に会って昨日のことについて確認してみたら、やっぱり昨日の出来事はボクが覚えているのと完全に一致している。とにかくまたいきなり世界線が変わることなど心配はない。
とはいえ、この現象の原因も過程もまだ全然わからないから『これから何が起きてももうおかしくない』と覚悟しておいた方がいいかもね。
そしてもちろん、どうやって『ボクが男である世界線』に戻れるということもまだわからないから今悩んでいる。
「ね、もし君が元の世界線に戻れたら、こっちの私のことは忘れたりしない?」
今日の昼ご飯は百合聖先輩と一緒に。今は食べながら話の続きをしている。
「え? あっちでも同じ百合聖先輩ですよ。どっちもほとんど同じ」
ボクみたいに性別が変わっているというわけではないから、どちらでもボクにとって百合聖先輩だと認識している。
「でも、あっちの私は百合ではないよね?」
「え?」
あっちでも『百合聖先輩』は『百合聖先輩』だよ。『八百伊聖先輩』とか『能丸聖先輩』とかになっているわけではない。
まあ、名前のことを言っているわけではないとはわかっているけど。そんな駄洒落みたいなツッコミなんて余計なことなので、それはさておき。
「あっちの私は普通に男の君とラブラブしているのね?」
「はい」
「なんかあまり想像できないね」
「そうですか」
ボクの方が逆に、女のボクはどうやって先輩とラブラブするのか最初はあまり想像できなかったけどね。
「男の子の君はどんな姿なのか、私の記憶にはないのよ。私の知っているのは今の……女の子の君だけ」
「確かに」
「そして男の子の君を好きになった私なんて今の私とはどれくらい違うのかな……とか考えてしまう」
百合聖先輩、そこまで考えているのか。
「なんか私の知らない私が存在していると思ったら、やっぱり不思議な感じよね」
「これはボクの台詞です」
「まあ、そうかもしれないね。一番違うのは君自身であるはず」
「はい、そのはずです」
性別まで変わるのだからね。
「で、今日はどうする? 放課後私はちょっと用事があるから一緒に行けなくて、すまないね」
「いいえ、自分一人で考え続けます」
「まだずっと考え続ける気なんだね」
「ごめんなさい。このままではやっぱり落ち着けないから」
このことで頭いっぱいだから、学校に来ても全然勉強に集中できない。やっぱり今の状況は何とかしないといけない。
「わかってる。がんばってね」
それで結局ボクは放課後はどうする? あの男の子に会おうか? でも彼がどこにいるのかわからない。連絡先どころか、彼に関する情報はボクの記憶にないから。
それに恋人に黙って他の人に会うなんてまるで浮気っぽいよね。そんなつもりはこれっぽっちもないけど。
とりあえず、放課後は町で散策しながら調べてみよう。
特に目的があるというわけではないけど、町の中は何かいつもと違うところがあるかどうか調べておいてみたい。それに偶然あの子や他にこの現象に関わりがあると思える人物が見つかるかもいれない。
そして数時間が経って、調べてみた結果としてやっぱりこの町はいつもとはあまり変わらない。ボクにあまり関係のないことなら全部あっちの世界と完全に一致している。
今日あの男の子みたいに怪しい人物も見つからなかった。知り合いなどと偶然会うこともない。
不本意だけど、結局今日は進展無しだね。
何もわからないままもう一日経ってしまった。