ある日の出会い
夢の内容を下書きにした短編
それは夏のある日のこと。うだるような暑さに耐えかねた私は家に帰る途中で近くのスーパーに寄り道していた。身体にこもった熱を冷房で冷ましながら晩御飯前のおやつでも探そうかと店内を物色していたところ、お菓子の置かれたコーナーでメモを片手に右往左往している人を見つけた。私は気にせずおやつを探していたが、悩んだ末チョコクッキーに決め終わってもなおその人はメモを見ながら何かを探していた。何を探しているのか少しだけ気になったのもあり、私はその人に声をかけた。話を聞いてみるとどうやら子供が好きなお菓子をリクエストしたのだが、そのお菓子が見つからなくて困っているという。メモを見せてもらうと、少し前に流行ったおまけ付きのチョコレート菓子のことが書かれていたが、覚え違いをしたかなにかで少しだけ名前を間違っていた。幸い私も以前このチョコ菓子が好きだったことがありこのスーパーで購入したことがあったためすぐに私はそのチョコ菓子を見つけ出しその人に教えてあげた。するとその人は感謝の言葉を言い、礼をしたいからと家へ招待してきた。
もちろん私は招かれたとはいえ見知らぬ人の家にホイホイついていくようなことはしたくなかったものの、何度か断っても引き下がってきたので面倒になりつい誘いを受けてしまった。スーパーから歩いて数分だというのだから何かあったら逃げてしまえばいいとは思いつつ、特に用事もなかったことや、とても丁寧で優しいその人の態度に少しだけ甘えたくなったという思いがありその人とスーパーを出た。ゆっくり歩きながらの道中でお子さんについての話を振ってみると、嘘もつかない素直な子供だと嬉しそうに話してくれたりはしたが、最近親と居ることを嫌がっているらしい。先ほど購入したチョコ菓子もご機嫌取りのつもりで買ったと話すその少し悲しそうな顔を見て、私は急遽話題を変え最近見たテレビの話や好きな雑誌の話などのどうでもいい話を続けた。
その後も話しながら歩き続けていたが、話に夢中になってしまったのか知らぬ間にその人の家についてしまった。見たことのない通りにある小さなアパートであり、言われるがままその一室へと入った。特に物のない玄関を過ぎ部屋に入ると、中はあまりものが飾られていないにも関わらずお子さんの物と思しきオモチャや勉強道具などが散乱していた。少し苦労しながら物をどかし腰を落ち着けたところで、先に台所の方に向かっていたその人がお茶と茶菓子を持って戻ってきた。私はスーパーで買ったチョコクッキーを開けつつ、しばらくは最近のニュースで見た話をしたりとどうでもいいことを話していたが、しばらくして耐え切れずお子さんの事について詳しく聞き始めた。
普段の態度や友人との様子、幼いころあった思い出話などなんとなく気になった話を続々と振ってみたところすらすらと全てに答えてくれたため、私はだんだんと節度を忘れより詳しくその子のことを聞き出していった。細かい癖や昔好きだったもののことなど詳しすぎることまでもを根掘り葉掘り聞く私に対しても、その人は変な顔を少しも見せずに全てに答えてくれた。夢中になりながら質問ばかりする私の声とそれにいつまでも答えてくれる声とのやり取りは永遠に続くかのように思われたが、その営みは私の腹が奏でた音によって突如中断された。
私たちの手元には途中から手を付けられなくなり冷めきったお茶と半分以上残った茶菓子が鎮座しており。時計を見るとすでに晩御飯の時間は過ぎていた。これ以上話を続ければ帰るころには日付を過ぎてしまうのではないか、私がそんなことを考え出すとその人は立ち上がり夕飯の誘いをしてきた。それは話を続けられるという魅力的に思える提案であり、実際反射的に誘いを受ける返事を言おうとしたが、しかし身体のどこかで何かを感じた気がしたため言葉に詰まっていた。そんな私の様子を肯定と受け取ったのか、その人は台所の方へと向かい夕飯の支度を始めた。苦手な物が無いかと聞いてくる声に生返事しながら、私は違和感の元であるいままでの経験について思い返し始めた。
心が落ち着き少しずつ考えが及ぶにつれ、私は自分行動の異常さに気が付いた。どうして私はその子供の癖だなんてあまりにもどうでもいい話をあんなにも聞きたがったのか、どうして私はその子供が周囲に対してどのようなふるまいをしていただなんてことを聞こうとしたのか、どうして私はその子供がどのような人生を送ってきたということを気にしていたのか。自分の奇行を完全に自覚すると、途端に今までとても居心地がよかったその部屋が急にうすら寒く恐ろしい場所に思えてきた。どうにかして部屋を抜け出し家に帰りたくなったものの、どうしてか部屋を出ようと立ち上がることがとても恐ろしいことであるかのように思え、金縛りにあったかのように体は全く動いてくれなかった。
上の空だった返事が完全に無くなったことを不審に思ったのか、その人が台所の方から顔を覗かせてながら声をかけてきた。けれども私はその顔を見ることができず、俯きながら何とか声だけを絞り出した。帰りたいと、そのかすかな声をしかしその人はしっかりと聞き届け、私にどうしてかと問いかけてきた。用事があるなんて適当なことを言おうとしたのだけれどもその言葉は私の口を意味ある形で通ってくれず、途方に暮れて私は何も考えずただ思いついただけの言葉をぼそりと呟いた。
その人はその言葉にうなずき、私に対して長い時間話につき合わせたことへの謝罪の言葉と感謝の言葉を告げた。その言葉と同時に身体が急に動くようになったため、挨拶もそこそこに逃げるように私は部屋から出てアパート前の通りを駆け出した。無我夢中で曲がったり直進したりを繰り返していると、見覚えのあるコンビニへとたどり着くことができた。安心し腰が抜けた私を心配してくれる店員さんに礼を言いつつ、私はあの部屋で起きたことを思い出さないようにしながら一人暮らしをしている自宅のマンションへゆっくりと帰った。帰り着いたその日は空腹を適当に満たし久しぶりに親へと電話をかけ長電話をしながら眠りについた。
後になってもう一度あのアパートへと行こうとしたところ、あの日辿った道順がよくわからなかっただけでなく、記憶に残った通ったはずの道が工事で長期間封鎖されていたり行き止まりであったりと通れない状態であること、そもそもどの通りを見てもあの日見た通りとは異なるというなにか悪い夢でも見たかのような結果となった。あまりにも気味が悪かったので友人や地域の人々い色々と話を聞いたところ、どうやらこの地域の都市伝説の一つとして、ある日はじめて会った人に家へ招待されその人の話を聞いてるうちにその家になじんで帰ってこれなくなるという話があることを知った。
証拠がある話ではないけれども私はあの日都市伝説と同じ目に遭いかけたのではないだろうかと思う。そして、親が心配するからというとても単純な言葉を受けて私を帰してくれたあの人はきっとそんなに悪い人ではないんじゃないかとも思う。何があったのか、あんな風になる前の事情や今どう思っているのかということは私にはわからないけれども、また会えるかもとの期待を持って今日も私はあのスーパーに行く。そしてもし叶うならば、今度はあの人自身のことをもっと聞きたい。
夢自体はアクション性のあるホラーだったのですが、要素要素を拾いつつ文字にしてたらジャンルが変わってきました。
夢からアクション性とかを若干引きつつ余計なものを足していった感じです
執筆は2時間程度なので誤字脱字は許してください