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起死回生の道

「伊勢丸卿、前方に町が見えてきました!あそこまで逃げることができれば、何かしら竜を追い払うことができる方法があるかもしれません!」


神薙が言う通り、やっとのことこの広大な草原の果てに人工物が見えてきた。


町と言っていい規模だが、案の定コンクリートジャングルのようなマンション群はなく、カラフルな石造建築が犇めき合っていた。山なりの町の頂上には明らかに日本には存在しないような城の姿が見えた。


「こいつらはあの町に俺たちを導こうとしてくれたのか」


「良い狼だったみたいですね」


運がよかった。

それだけには収まらない不思議な意思すら感じるが、今はこれでよかったはずだ。

しかし、安堵のため息を吐くことはできない。

後ろに振り返らなくともひしひしと感じるプレッシャ―。

口を開けた竜が後ろで虎視眈々と俺たちを喰おうと付け狙ってるのだ。


俺たちがいる所からこの犬たちの足を使ったとしても20、いや30分はかかっちまうかもしれねぇな。


「でも……そんなこととは別にあの竜に追いつかれちまう。町なんかにつく前にな。このままじゃ、全員ブレスで丸焦げだい!誰か囮役を買ってくれる奴はいるか!?」


「いやっすよ」


「僕も焼かれるのは無理です!」


ここで、はいやりますと言われても、予定の組み直しがめんどくさい。


お前らが早々汚れ役を買わないことなど知っていたわ。それを見越して俺の思い通りに行くようにするだけさ。



天才で勇敢な俺ーーだからこそそれを名乗るにはやらねばならまいよな。

一人でも多く生き残れるのに越したことはない。



俺は己を奮い立たせて、疾走中の犬の背の上に立つ。


「だよな!じゃ、達者でな!」


「な、何してんすか伊勢丸卿!」


立ち上がり今にも身を投げそうな俺を見て正気を疑っているようだ。


まずは己の異世界適性力を疑え、と言いたいものだ。

なんで一瞬でスキルについて把握できんだ、そんなあっさり法則性とか分かっちゃあかんだろうに。


そういうすぐに何でも勘づくところが俺は嫌いでしたよ。


「勘違いするなよ?俺は熱耐性がある。ここから転げて死体のふりをしてれば、全身打撲で生還できる可能性がある!お前らを追って竜がいなくなってくれれば共倒れしなくて済むからな!せいぜい腕力と静電気でも使って必死に生きやがれ!馬鹿どもめ!」


俺は捨て台詞を吐いて華麗に犬の背から飛び降り、体を回転させて極力ダメージを減らすように心がける。


だが、これは走っている車から飛び降りたようなものなので、全身に鈍痛が走る。


【停滞】の効果には物理耐性なるものがあるゆえ、それによってダメージが軽減されてるが、痛みは消えたりしない。


遠くに消えてく犬の足音ともに怒声が一つ耳に入る。


「馬鹿は!馬鹿はお前の方だッ!」



ーー最初から俺の方だよ。



生まれてこの方馬鹿なこと以外したことない。

賢い生き方なぞクソくらえだ。


草原から顔面を起こして息を吐く。


「ふぅ、転がって落ちる受け身……アドベンチャー映画ではカッコよく決まるが、普通に全身が痛いな。だが【停滞】の効果でダメージの方は抑えられているみたいだ、精神的な面でも。痛覚鈍化もくれていいのよ?」


立ち上がると骨が折れてないかだけは先に確認し、次に服についた砂を払うために腕や脚を叩いた。

想定外の異常は体に見受けられなかった。

想定内の歩けないという異常はあったけれど、立ち上がることができるだけましだろう。


このあとどうせ()()()()()だ。使えない脚一本食わせてでも命だけは繋ぎたいものだな。


「ワンッ!」


唐突に後ろから吠えられたので驚いてまた尻餅をついてしまった。

まったく犬のくせに俺に恥をかかせやがって。


「びっくりしたぞお前!……さっさと逃げな。ここで俺が食われれば数十分くらいは持つはずだ。それとも、お前はあの竜に勝てるのか?まったく俺はそう思わんがな」


最早俺の言葉を聞くのは眼前の大犬しかいない。


彼方に消えてしまったあの二人とは言葉も交わすことはないだろう。

しかし、最後に言ったあの言葉が本当の最期の言葉になったとしても俺は後悔しない。


仮に大衆映画の悲壮的なワンシーンのような言葉を吐いても奴らには全く響きはしない。


鼻で笑われる。


そんな奴らだ、だからあれで十分。

寧ろ勝ち逃げまである。


感傷に浸ってる暇もくれないようで竜はもうそこまで来ていた。


後1分もしないうちに奴の攻撃範囲に入るのではなかろうかというところ。

素早くて巨大という生物学的チート性能に真っ当に生理的恐怖をビビっと受信した。



だが、慣れてしまえば怖くなどない。



某ゴジラザウルスのほうがこいつより10倍以上でかいんだ。

それを経験してしまえば、さほどというやつだ。


「改めて見ると大きいな。しかし、時代は多機能!小型化!お前のように時代を逆行してジュラシックパークしてしまった生物など文明人の俺からしてみれば、愚の骨頂!今からでも隕石に頭ぶつけて絶滅したらどうだ!?」


竜相手にお粗末な挑発をする、その位の余裕は取り繕えるし、その位しかできることがない。

挑発に次ぐ挑発だが竜がその言葉を理解することはまずありえないだろう。



距離的にも頭脳的にも。


そのはずだった。



この時ウィンドウが出現しなかったために伊勢丸は気づいてなかったが、この時新スキルを取得し、無意識下で使用していた。


その新スキルの効果のおかげで竜は何を言われているかは理解できなくとも、感じることはできたのだった。


「GURRRRRUUU……!」


竜が低く唸るのを見て理解能力を強化するスキルがない伊勢丸でもいら立っているのをひしひしと感じた。


だが、距離はまだ10メートルくらい開いていたところで空中に留まり続けている。


それは竜が意図的に開けた距離であり、竜の初速で完全に埋め切れる距離でもあった。


要はその距離は慢心を現し、

そのラインを超えた瞬間に本当の死闘、一方的な蹂躙が始まることを意味した。


「負けたくは、ないな。犬、俺を背中に乗せてくれ。そしてできるだけあの竜を惑わすように逃げまどうんだ。あの二人が町についてドラゴンスレイヤー的な戦士に竜の出現を知らせてくれれば、駆け付けてくれるはずだ。大丈夫、ぎりぎり目視の距離で竜が出てるんだ、気づくに決まってる」


「ウゥ、ワン!」


意を解したわけではないだろうが、犬は少し不安げな伊勢丸のことを背に乗せ、鼓舞するように吠えた。


「よし!偉い子だ!」


「はぁ、これは戦いなんて言えない。自己満足みたいな、気の迷いからの所業だ。どこまで行っても俺には希望もない、勝利もない。だからこそ、こういう絶体絶命ってところで死ななきゃいけないんだ」


「勝てない戦いならば背水の陣、それならば俺は()()()()()()()()()()()()()


「独り言増えてしまったな、きっと死ぬ間際で錯乱しているのだろう。あんまりこういうのはキャラじゃないから誰も居ないと言いたくなってしまうよ。聞き手が二匹もいるから恥ずかしいには恥ずかしいがな――さ、ここからはいつもの通りだ!俺は俺のために俺のやり方を貫くぞ!」


「お前が俺たちを襲うつもりならば、俺たちはお前を殺さずともその生命としての在り方を否定し、踏みにじってやろう。平成史上最低最悪な言葉を余すことなく使ってお前のプライドをズタズタに引き裂いてやる」


こんな言葉に本来は意味などない。


竜が話の途中で飛び立てば、逆に命の危機すらある無駄かつ危険な行為。


それでもーーこの宣言は己の決意を固めるためのものだった。


これまで、停滞に停滞を重ね、選択肢すら自らの意思で選ばなかった男が初めて行った大きな決意だ。


伊勢丸の宣言に竜は重い一歩で大地を砕き、雷鳴のような咆哮を放った。


「GUOOOOOOOO!!」


「な、なんだァ!?やんのかァ!?嘘です冗談です!おい、犬に逃げろ逃げろ!」


余りの迫力にびびり散らした伊勢丸は犬の尻を叩いて、逃げるように促した。


異世界は彼を少しずつ変えはじめているが、それもまだ『少し』だ。


犬は颯爽と右回りに走りだし、竜の吐く炎をスペインの闘牛士のように華麗に避ける。


神「イライラ。イライラ」

花「神薙くんがあからさまにイライラしてる!ここはどうにか収めなきゃ!」

神「心の声か何か知りませんけど、駄々洩れですよ花崎卿」

花「伊勢丸さんなら、ダイジョブですよ!生きてますよ!きっと!」

神「......」

花「あ、あれ?」

神「私がイライラしてるのは、アレに馬鹿と言われ逃げられたことです。さっさとあの竜に噛み砕かれて死ねばいいと思います」

花「えぇ......あのセリフそういう意味で言ってたんですか......やっぱり一筋縄にはいかないなぁ」

神「花崎卿に言われたくないのですが......」

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