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負のファンファーレ




 目の前に出された二つの選択肢。



 全ての選択は決定するまでは苦痛にあふれている。予測不可能な未来、意図しなかった未来。

 その可能性に俺たちは誰しも苦悩する。


 しかし、選ばなければそれ以上の発展はなく、停滞するのみだ。


 選択とは一方を選ぶことではない。他方を選ばないということなのだ。


 切り捨てられた他方の可能性を思うと恐ろしさは計り知れない。


 果してそれが最善なのか、果たしてそれが最高なのか。



 真実は選択したその先にしかない。



 あぁ、人生とはなんと儚く悲しく、そして苦難の連続ばかりなのか。


 ……いや、儚くはねぇな。


 むしろ汚い部分の方が多かった。

 今日までの行いを振り返って改めて儚いという言葉は自分とは無縁だなと思う。


「伊勢丸さん、何難しい顔をしてるんですか?」


 とある選択肢を前に苦悩していた俺に横やりを入れるようにして声を掛けていたのは同じクラスの花崎 罔象(はなさき みずは)だった。


 俺と同じく身長160㎝台という男子として悲しい気持ちになる身長なのだが、天然チックなところもあるように思われているらしく、たいていの人間に好感を持たれるタイプの奴だ。


 本人がどう思うかはまた違うが。


「いやな……今なら課金して好きなキャラを一体貰えるのだが、美女キャラか、性能トップの騎士か。その天秤で揺れていたのだよ。神はどうして二物を与えてはくださらなかったのか!ジーザス!と、世を儚んでいた」


「またそんなことで……」


「そもそもゲームなんだから天は二物を与えない系のリアリティを踏襲しなくていいだろ!クールビューティー敏腕ステータスマシマシ秘書を寄越せ!んぎにゃ!」


 ヒートアップして立ち上がろうとした俺の脳天に鈍い痛みが走る。


 即座に上に向くと、そこにはえげつない部厚さの本がちょうど俺の脳天直上にダモクレスの剣よろしく置かれていた。


 この本の持ち主を俺は知っている。


 ゲェッ、神薙 葵貝(かんなぎ あおいがい)


 俺よりも高身長なこともあっていろんな意味で俺を見下してくる天敵、いや好敵手。


 密かに八尺様の類の妖怪なんじゃないかと俺は思っている。


 そんな俺の腹づもりはつゆ知らず。

 神薙は俺に本の背表紙をぶち当てながらもまるで、何も起こらなかったかのようにそ知らぬ顔で花崎に挨拶を仕掛ける。


「おはようございます、花崎一等兵」


「あ、おはようございます、神薙大佐!」


「おい貴様!俺からのエンカウントでもないのにいきなり先制攻撃を仕掛けてきた挙句、さらりと花崎に自身を大佐と呼ばせているとは俺に許可なく何してやがる!鯖折にしてやろうか!」


 まったく純粋無垢な花崎に変な入れ知恵はするな、もし俺だけの花崎(サポーター)じゃなくなったらどうしてくれる。


 そんな目で睨んだら、即座に俺より鋭い目で睨み返された。


 び、ビビりはしないが……やっぱりこいつ妖怪なんじゃないかと思う。


「あなたの貧相な筋力では鯖折は不可能ですよ。それと私は朝から女性キャラクターの性能について愚痴を吐いている悲しい日陰者のストッパーになってあげただけです、伊勢丸二等兵」


「俺が花崎より下なのか!?」


 衝撃の事実に本日始まって早々二度目のダメージ。


「貢献度で言ったらあなたはクラス最下位だということにお気づきでないのですか?」


「馬鹿め、何故俺がクラスに貢献せねばならないのか全く分からん。クラスの人間は一部中立の他敵勢力だ!」


「今日も拗らせてますねぇ……重症だ。病院は心療内科か、脳外科か」


「俺はわざわざ敵に媚びへつらってまで生に甘んじるような信念のない男ではない!例え拷問にかけられて寝返るように差し迫られても、俺はきっぱりノーという自信がある!」


 そもそもお前も貢献さほどしてないだろう?


 とか言ったらヘッドロックからエビ固めまでのスムーズな事運びが目に見えるでのあえて黙っておくことにする。


 天才は時に言わないことでことを有利に運ぶのだよ。


 完璧なるまでの俺の演説を聞き、いつも通り花崎が目を輝かせて俺を褒めたたえる。


「やっぱり、伊勢丸さんは勇気のある人ですね!」


「違います。ただ集団に馴染めないということを誇張と物は言いようでコーティングしてるだけです。しかも、めんどくさいこと、苦しいこと、辛いことがあるとすぐにノーと言いますよこの人。そういうところが嫌われる、もとい弄られる由縁になっているというに」


「一つの固定観念に囚われず常に最善を目指して行動しているだけだ。正しいことをなす為には必ず必要な犠牲というものが出てくる、その時に一つしか選択肢の見えない人間であればより良い選択はできない。後嫌われ上等だ!」


 このクラスの人間に嫌われたところでなんだというのだ。


 元より、花崎以外に役に立つものはいない。


 掃除もろくにできない生活力が皆無なあまちゃんどもだ。親元を離れてから一年は枕を濡らすことになるような奴らなんぞこっちから願い下げだ!

 え?俺はどうなのかって?


 勿論そりゃ……レンチン料理くらいならできるぞ。


「口八丁の二枚舌。ほんと口だけ達者ですね。あ、伊勢丸卿、そのゲームの白騎士は近々下方修正が入るという噂ですよ」


 目聡い。さすが神薙、目聡い。


 覗いただけで何のゲームか分かり、しかも的確な事前情報、是は真っ当なオタクだわ。


 神薙はいろんなジャンルのサブカルチャーに広く浅くかかわっているらしく、その手の情報は小耳にはさむのが常らしい。


 その点俺は電子機器ーー主にパソコンのキーボードとか、ワンクリック詐欺とかが怖くて掲示板とか非公式とかアングラなものは倦厭しがちなほうだ。


 この手のスマホゲーだってリリースから三年くらいたたないと安全かどうかわからなくて怖い。


「何!?そ、そうなのか……であればこっちの『裏切りの秘書ビューティダーク』にしよう!」


 俺はゲーム内の交換所エリアにて有償券の使用に関するウィンドウを開いた。


 そこにはありきたりに『本当に使ってよろしいですか?』と『yes/no』の選択肢が書かれている。


「秘書に裏切られるとか、お笑い草の社長ですね」


 そういうキャラもたまにはありではないのか?


 神薙的には、というか世間的には多くがそう思うのかもしれないが、どこかこういうキャラ設定にはシンパシーを感じてしまう。


「では、決めたぞ!はーいポチっとな!」


 yesのマークを軽快に俺は押した。







花「女性に対して一定の不信感を持ってるはずの伊勢丸さんに女性の好みがあるのか謎です」

神「所詮ゲームですから、女性ではなくゲームの一キャラクターと捉えれば何も疑うことはないんでしょう」

伊「れ!冷静に俺について分析するなぁ!」

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