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※ミラベル視点
魔王ノワールとジークの話は続く。私達はそれを黙って聞いているのみで、八星魔将も同様。魔王のみが言葉を発することができる空間がここにある。
「で、今後非攻撃対象が増えることがある場合はそれに応じて協力すると」
「どんなお願いも無条件ってわけじゃないがな。できる範囲なら協力しようじゃないか」
「ふむ、それなら悪くないな」
………これ、本当に何も言わなくていいのかしら。隣でセラがジト目でジークを見てるしカガリちゃんも心なしか殺気だってるような。
「とりあえずこんなもんか。他に何かあるか?あ、そっちのもの言いたげにしてるやつ等でもいいぞ」
そういって八星魔将に目をむける。パイモンと呼ばれた八星魔将は魔王ノワールに目をむけ、彼女が頷いたのを確認すると一歩前にでる。
「では失礼ながら問いがございます。貴方は魔王であるが人にも魔にも組しません。その果てにどのような混迷の未来があるか、考えたことはございますか?」
それはジークという異常な存在はそれだけで世界に混乱を齎すということ。少なくとも、どちらかの勢力につかない限りどちらにとっても不安な存在である。………正直言えば、ジークには人間側について欲しい。彼は人並みの優しさがあり、思いやりがある。魔族に組することはないだろうけど、このままでは確かに大変なことになる。
「混迷、ねぇ。つまりお前は気づいてないってわけだ」
「………気づいていない?」
「この状態に慣れすぎたせいで本質的に可笑しな部分が見えてないのさ。お前達の立場で言うなら何故魔族は滅ぼさなくてはならないか、何故人間は敵なのかってところからだな。異常なことが普通になってしまったせいで異常であることに気づかないってところだ。
これを言われても何も可笑しくないと思う時点でお前は傀儡なんだよ」
それを言われてパイモンは口に手を当てて何か思案する。他の八星魔性と私達もジークの言葉の意味について考えるが―――魔王ノワールとリーベの二人はそんな素振りを見せなかった。
(やっぱりな。これでこの会談の本命は達成できた。後はどうするかだが………魔神とやらの復活前に仕込みが必要だな)
異常なことが普通。それを言われてむずむずする。人間にとって魔族は打倒すべき相手であり、その旗印として勇者がある。だが、それを異常だとするなら本来の形とは一体なんなのか。………本当は、分からないわけじゃないのだろうけど、それを認めることが私にはできない気がする。
「ま、これ以上は話すこともない。ノワールちゃんにはこれあげるから、用事があったら呼んでくれ。俺も何かあったら呼ぶから」
そういって懐から出したのは蒼い宝石のついたペンダント。私やイーリス様の受け取ったものとはまた少し違う気がする。
「では受け取ろう。魔王ジーク、お主とは気が合いそうで良かったぞ」
「俺もだよ」
そういって二人は意味深な笑みを浮かべ、本日の会談は終了となった。




