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※ノワール視点
「お主は魔王を名乗り、その力を持つ限り人から疎まれよう。各国の勇者からも命を狙われ、戦い続けることになる。
我らであればお主を受け入れることができる。余の全てをお主に捧げ―――愛することもできよう」
断られたがそれでもと敢えて話を続けてみる。人間は愚かだ。例えこやつが人間のために尽くそうとも魔王を名乗る限り、その強大な力を持つ限り疎まれる。それはいずれ人を滅ぼすことにさえ、繋がるであろう。
「いや、間に合ってるから。何を言っても答えはノーだぞ」
余が何を言おうともこの男は首を縦には振らぬ。はっきりとした拒絶の意思。これ以上何かを言えば後ろのメイドが我慢できなくなるだろうことを感じるが、それでも最後にこれだけは聞いておかねばな。
「お主は随分と歪な存在だ。人ではあるが人から遠く、魔族のようでありながら余りにも混ざりすぎている。
そして、人を憎むことなく魔王と名乗る。お主は何者なのだ?」
余の目で見る限りあまりにも歪な存在。恐らく元々は人間なのであろうこの男。しかしその内部には魔族のような魔力の他に魔物、果てには龍などといった神獣の魔力も見て取れる。魔物を喰らった、神獣を喰らった、そんな理由でアレはあり得ない。
そもそも人の身では余りにも大きすぎる力であり、取り込んでも自滅するだけだ。それは余も同じ。間違ってもそんなことはできぬ。ではこれはどういうことか?疑問は尽きぬが今問題なのはそれではない。この男は―――
「こらこら、あんまり覗き見るものじゃないぞ?」
そういわれて我に返る。つい、考えこんでしまった。いや、それ自体は仕方ないことだろう。これほど存在自体が異常な男を目の前にして疑問を抱かないほうが可笑しい。
「とりあえず質問に答えよう。俺は我が儘なだけだ。そして、俺にとって魔王であることが一つの誓いなんだよ。だからこれまでも魔王と名乗り、そしてそれはこれからも変わらない。文句をいうやつは力ずくでぶっ飛ばす。
そして俺にとって魔族とか人間とかそんなもんは関係ない。
俺は俺が正しいと思ったことをする。俺がしたいことをする。
俺は………俺の世界を、俺が大切だと想ったものを守る。
生まれながらの役割とかそんなもんに縛られるつもりはなし、当然赤の他人なんざしったことじゃない。
お前らの言い分とか世界がどうとか、そんなものを気にしてるほど暇じゃあない」
なんと傲慢なことか。なんと大胆なことか。そしてなんと―――必死なことか。
この男は余裕があるわけでない。漸くその片鱗に触れた気がする。その手にあるものを零すまいと必死に抗っている。その姿―――
「いや、無粋だな。承知した。残りを詰めようか」
本来の目的を忘れわき道に逸れすぎた自分。なんと感情的になったことか。魔王としてあるまじき醜態だろう。
―――だが、そうだな。この邂逅は一つの運命の分岐点だろう。余にはなぜかそんな予感があった。




