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※ジーク視点
―――女子達はレインディアの部屋に集まって女子会をしているらしい。
なら俺は何をするか?やることは1つ。次の一手を打つこと。ベッドの上で寛ぎながら。
魔族については一先ず片付けられるだろう。地図を見る限りやはりあの砦は魔族の侵攻を止める防壁としての役割を持つが、実はそこまで奴等は問題視していない。
そもそも砦を越えてアルフィア王国へ徒歩で来れているなら彼処を攻撃した意味はないことはないが、薄い。俺が来たからと精鋭を率いたというのも、やはりそれの裏付けになる。
「魔族連中の中には転移が行える者がいるのは確実。魔物の使役についてはどう思う?」
俺が問いかけたのは隣で寄り添うように横になるガーベラ。今はメイドとしての仕事はお休みなので普段着に着替えている。
「恐らく強力な使い手によって使役され、下位の使い手に権利譲渡して、というところかと」
「そうだな、俺も同じ推測をしていた」
頭を撫でると飼い猫が主に甘えるようにすり寄り密着する。ガーベラの要望に応えたボディは人間のそれと変わらない。故にこうも密着されると当然柔らかい感触が伝わってくる。
「王国については予想外の流れだったな。イーリスを盾に大迷宮攻略にこぎ着けて、終わったらさっさと出る予定だったが、まさか王女と友達になるなんてな」
「まさか貴方に勝負を挑む人がいるとは思いませんでした。面白い王女でしたね」
今思い返してみてもあの時の興奮が蘇ってくる。
勝ったら友達になってくれ。そうしたらセラフィとも友達だ。………王女の言うことか。全く意味不明じゃないか。だが―――
「セラフィもいい友達持ってるじゃないか。本当に、羨ましいよ」
ベッドの隣の小さなテーブルに置いてある酒を手に取り呷る。まぁまぁ、悪くない味だ。
「………あの頃の貴方は女癖悪かったようですからね」
ガーベラにジト目を向けられ、俺はため息をつく。
「それは言わないでくれ。アイツにも言われたが寂しさを埋めるためみたいなもんだ。………その結果ただのクズ男だったのは否定しない。若かったな、俺も」
学生時代なんて黒歴史だ。思い出したくない。
「しかし、セラフィ、カガリ、ミラベル、イーリス、ミレイナ、レインディア。感情に差はあれど信頼されてますね」
「ありがたいことにな」
俺が魔王化しても態度が変わるどころか戻った瞬間詰め寄られてなぜか知らんが蹴りまで入れられた時は呆れたものだ。アイツらにとっては優しいお兄さんにしか見えてないのだろうか。いや、違うな。ちゃんと伝わってるんだ。
セラフィも、カガリも、俺にとっては身内だ。あの二人の内にある魂の輝きを見て悪くないと思って、気に入ったからとついていってる内に守ってやろうと思えて、ならコイツらの大事なものも序でに守ってやろうと思った。
そうしたらミラベルに懐かれて、あの真っ直ぐな瞳は堪えた。周りに頼れない環境だったのだろうが、あれほど真っ直ぐな瞳で信頼されたら他人だと切り捨てることができなくて、結局イーリスのこともフォローしてしまった。
案の定、王国の人間にも俺のことが色々伝わり利用する為に交渉を、と思いきや友達になってくれだ。
「貴方は優しい。貴方にとって大切な人にとっては、だけど。でもそれが貴方らしいと言える。人間らしいと言える」
ガーベラは切なくなったらしくぎゅうっと強く俺に抱きつく。愛おしさがこみ上げてきて、彼女を優しく抱きしめる。
「俺は俺でいるさ。アイツとの約束だ。俺は自分のやりたいようにやるし、大事なものを強欲なまでに守る。そして―――」
蘇る、一人の少女との記憶。胸が締め付けられる。苦痛が蘇ってくる。もう………戻らないものが、幻視される。
「俺は魔王だ。これまでも、これからも」
だから安らかに眠っていてくれ。もう届かない祈りを、俺はその少女に捧げた。




