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※ジーク視点
「魔物の軍勢、か」
ミレイナから聞いた話によると魔族の支配する地域から魔物の大軍がこの街に向かってきている。それに対して山沿いの砦に戦力を集中させ、そこで食い止める方針だ。
現在王国と近隣の冒険者組合に応援を要請しているらしいが軍勢が砦に到着するのは恐らく3日後。それまにでには間に合わない可能性が高いとのことだ。
「魔物だけでもおよそ3万。魔族も目撃されていることから魔族が彼らを使役し、侵攻してきたと考えてまず間違いないわ」
「3万って………」
この話にセラフィとカガリも息を呑む。この街を占拠して足掛かりとするのが目的である可能性は高く、もし突破されれば………大虐殺が行われるのは火を見るより明らかだ。
「で、でも………やらないと!」
まだ身体に力が入らないだろうに気力で奮い立つセラフィ。カガリも同じ考えらしく力強く頷いた。
「因みに集めた兵力は?」
「ランクD~Bの冒険者を50名、王国の兵士を500名、私の直属の配下を100名よ。恐らくこれ以上の戦力は確保できないわ」
総勢650名。それで3万を食い止めるのは無理があるな。砦を最大限に生かしたとしても数の暴力を前に力尽きるのは目に見えている。
それでもどうにかするしかないのが現状ではあるのだが、これはチャンスだろう。
「二人とも疲労しているようですし、今日は休んで明日には出発しましょう。
………ごめんなさいね。こんな危険なことに巻き込んでしまって」
「ま、大丈夫だろ。俺がいるしさ」
申し訳ないと俯くミレイナに合わせるように重くなる空気。そして空気を読まない俺。
「………策はあるのですか?」
「幾つか考えてはいるよ。砦についたら教えるさ。
あとはそうだな………俺が気に入ったから、かな」
「気に入った………?」
「ま、安心しろ。ちゃんと守ってやるさ」
皆まで言わせるな、というやつだ。
ミレイナは困惑しつつも頬を朱に染めていた。セラフィ曰くミレイナは魔導士として高い実力を持つらしく冒険者としてはAランク以上に相当するとか。そんな彼女にとって守ってやるなんて言葉をかけられたのは初めてであることを俺は知る由もない。
「貴様!いい加減にしろ!ミレイナ様を侮辱―――」
「カーク、止めなさい。この方は大切な協力者なのですよ」
優しく、しかし強く主に止められ、だがと食い下がる護衛の一人であり先ほど剣を抜いた男。
「彼の言葉が虚言であるか否かはすぐに分かります。貴方たちにも出向いてもらうことになりますから、納得できないのであればそこで決着をつけなさい」
こう言われてはカークという男も引き下がるしかなかった。
それを見てミレイナは少し他愛のない雑談をしたあと本日は解散となった。
部屋が空いているとしてここに泊めてもらえたが………感想をいうのであればベッドがふかふかで人をダメにする魔力を持っていた、というところだろうか。