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※ミラベル視点
「ねぇ、ディア。それって王国としては不味くない?外交的な部分も含めて」
手を挙げ、それは王女の立場を鑑みて魔王に想いを寄せるのはどうなのかと、そう暗に問いかけるセラ。
「問題ございませんわ。元々王国は近年衰退の傾向にありました。他国では軍事力が増強され人間同士での争いも視野に入っております。ジーク様であればそれらを打倒することは叶いますし、そもそも魔王といってもこと魔法に関して他の追随を許さぬ絶対的な存在としての魔王という解釈で進めれば文句は言いにくいでしょう」
まるでその問いへの対策は万全と言わんばかりにすらすらと返してくる。更に王女様の舌は止まらない。
「それにジーク様は文武両道、容姿端麗。男としてこれ以上ございません。強い男の種を授かり強い子を産むのは王女として、そして女としての本懐と言えましょう」
一斉に吹いた。私も我慢できなかった。
今、レインディア様はなんといったのか。ジークの赤ちゃんを、産む?そこまで?嘘でしょ?そもそも勝ったとはいえゲームだしあくまでも友達なのに図々しくも結婚まで考えていて、というか横から入ってきてこの王女は何を言ってるのかしら。私はセラ達より遅いとはいえジークに身内認定されるくらい大切にされているし何よりジークは私―――
「えっと、ミラベル、大丈夫?だいぶこう、黒いオーラみたいなものが出てた気がするけど」
「え、あ、大丈夫。ごめんねカガリちゃん」
どうやらトリップしていた。気を取り直してレインディア様へ意識を向ける。
「因みにお父様とお兄様の許可は得ております。ガッツリとヤってこいだそうです」
「それでいいの、アルフィア王国」
国王の公認とか、もう国がジークとくっついてくれって言ってるレベルじゃない。
「失礼ながら。レインディア様はそれでよいのですか?王女でも出来るなら望んだ相手と幸せになりたいとおっしゃっていたではありませんか」
ここで待ったをかけるイーリス様。いいですよ流石です。その調子です。
「それならば問題ないですわ。私はジーク様の人柄を大変好ましく思っております。後は全力で心を掴めば理想の相手となります」
「た、確かにジークは魔王らしくない、誰にでも優しい人ですが―――」
「え、違いますわ?」
ミレイナ様もイーリス様の援護に出ようとしたところでレインディア様がはっきり否定した。
「ジーク様は正しく魔王ですわ。他者の命を奪うことに躊躇いはなく、必要とあれば迷うことなくその力を振るいます」
何を言ってますの?という感じできょとんとしている。………どういうことだろう。
「そ、そんなことないわ。ジークはクリスを殺さなかった。無闇に人を殺すのは―――」
「それはセラが居たからですわ。勇者様の性格はジーク様の最も嫌うものらしいですし、セラがいなかったら殺められておりました」
それを聞いて私達はゾッとする。確かにジークのクリスに対する態度は厳しいけど、そこまでなんて。
「セラも気づいているでしょう?ジーク様は身内の為なら我慢しますし、配慮します。勇者様についてはセラが居たから。
イーリスについては恐らく最初は利害の一致から、今は私やミラベルのために守ってくれておりますわ」
それを言われると確かに心当たりはある。本来のシナリオ通りであったならイーリス様を利用して虐殺と威圧で強引に解決させるものだった。これもイーリス様に対する配慮はなく、目的を達する為の最短ルートを取ったといえる。
「ジーク様にとって敵か、他人か、身内かしかございません。ジーク様の寵愛を受けている人だけがジーク様を優しい魔王と言えるのですわ」
その言葉には確信があった。そして、それについて私達も心当たりはあり、否定できない。この短時間でレインディア様はジークの人となりをここまで―――
「と、偉そうに言ったものの推測に過ぎないのですけどね」
またしてもレインディア様に振り回されて全員ずっこける。しかしその次の言葉は―――
「だから知りたいのです。何故魔王であることに拘るのかさえ知りません。あの方は理知的で、それでいて他人の目を気にしません。なんと言われようと知ったことかで返します。不利益になることも出来るだけ避けます。
―――それでもなお魔王と名乗りそれに拘るのか。そこにどれ程の想いが込められているのか。
知りたいです。許されるなら触れたいです。その心、ジーク様の根幹にあるものを。
………好き、ですから」
その表情は切なくて、それでいて真摯な想いが込められていた。




