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※イーリス視点
乙女の………本懐………
「貴様………何故ここに!?何故分かった!?」
狼狽するグラードにジークさんは不敵な笑みを浮かべる。まさかここまで読んでいたというのでしょう―――
「いや、分からなかった」
ガクッとなる。分からなかったと言われてグラードが呆けている間にジークさんは話を続ける。
「本当だよ。攻撃が当たる直前にすり抜ける感じがあったのと、お前の保有スキルからして死んじゃいないだろうと踏んではいた。だが人間と同化してるお前を特定するのは難しかった。
幸い黒騎士団と繋がってることは分かっていたからそこから洗い出しを行っていたところだ」
つまり黒騎士団を追い詰めたのもそれが理由であったと。そう告げるとグラードが肩を震わせる。
「それだけなものか!ここが!何故分かった!阻害魔法も掛けて万全を期したのだ!こんなに早く駆けつけられるものか!」
それについて、言われてすぐ心当たりがあった。そう、期間限定と言われて渡されたもの。それを胸元から取り出すと、それは白く濁った色をしてヒビが入っていた。
「イーリス正解。座標を仕込んだ魔具だよ。
これなら座標が認識出来なくなったところに飛べばいい。認識できないだけで魔具としてはちゃんと生きてるしな」
つまり万全を期した相手へ万全の対策がされていた。復讐さえ看破されたグラードが魔装を強く握りしめ、怒りを露にする。
「こんな………貴様がぁ!貴様さえいなければ全て上手くいったのだ!」
「吠える元気があるなら問題ねぇな。これで最期だ、次はねぇ。
今度こそ確実に殺す。魔剣解放―――断罪せし終末の魔剣」
ジークさんの手に光が集い、それが剣の形を作る。
現れたのは真紅の剣。あの天命を穿つ災厄の魔剣に勝るとも劣らぬ魔力を感じる。だというのに、胸が熱くなるのは何故でしょうか。
「怖いかもしれないが、離れるなよ?」
そういって彼は少しだけ抱き寄せる力を強める。それが………心地よくて、どうしたのでしょうか、私は。
「くっ………」
不利を悟ったグラードが撤退しようとして何かに気づく。顔は青ざめ、ジークさんを見る顔はまるで絶望を目の前にしたような、恐怖に染められている。
「確実に殺すといっただろう。アスターとガーベラの張った結界がある限り物理的にも、能力でも脱出は不可能。
さぁ、お前の罪を裁いてやろう―――終わりだ」
「魔王………ジークぅぅぅぅぅ!!!!」
振り下ろされた魔剣が紅い閃光となりグラードを飲み込み、その存在を完全に消滅した。
「お前のことは忘れてやる。お前さんのとこの魔王に非はない。
アスター、褒美だ。残りの黒騎士は好きにしていい」
虚空に向かってそう告げると何処からともなくアスターさんが現れ、顔を綻ばせる。
「これはこれは………。良質な魂ですな」
黒騎士がその顔を見て怯える。絶望は………死はまだ去っていないことに気づいたのでしょう。
「こう見えてグルメでしてな。悪に染まった穢れた魂ほど美味なんですよ。良い素材には良い調理をもって至高の逸品とする。料理の基本であり到達点ですな。
………では、始めましょうか」
その後彼らがどうなかったか、私には分からない。この時点で私はジークさんにおおお姫様抱っこされて、ええっと………この場を去りました。
これが!噂の!お姫様抱っこでした!




