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※イーリス視点
あの一件から私の生活は大きく変わりました。
忙しかった仕事が10倍以上になり最早限界という言葉が可愛く思えるほどに。
………女子力がぐんぐん下がっていっています。気のせいではないです。
それもこれも全てあの魔王のせい。
あの魔王がバルハード様を滅し、その一派を悉く潰すよう促した為に今度は人手が足りなくなった。
お陰で平民からも人材発掘を行い有能であれば相応しい地位と給金を支給する。
逆に無能であれば落とし、給金もカット。
こうして人材を整理するとどんどん仕事が楽になっていくので本当に困ります。
人材発掘は主にアレイスター様と、たまにではあるもののレインディア様と一緒にジークさんが執り行ってくれる。
人を見る目も肥えてらっしゃるようで、ジークさんによって発掘された人材は一人で5人分は働いてくれる。
これが数日のうちに行われているのだから本当に凄まじい。一国の王であった経験でもあるのでしょうか。
「はぁ、今日は何を食べましょうか」
思わず口に出していた言葉。今日は仕事も一区切りがついたので帰宅することが叶いました。お家が恋しいです。
………私もそろそろいい歳ですし、本当なら恋の1つも楽しみ結婚もしたいのです。
周りが余りにも腐っていて唯一マトモな男性はアレイスター様くらい。しかも隣国の王女という許嫁がいるので勝ち目はなく。
………そもそも非の打ち所がない男性ではあるものの好みでもないのです。
リイズ魔法騎士団団長イーリス、夢は恋愛結婚!
「………虚しい」
言ってて虚しくなる。分かっていても口に出してしまう。
―――なんて、浮かれていた。だから気づけなかった。直前まで。
「!?!?」
殺気に気づき飛び退くが、一歩遅く不意打ちを防ぐことができず、杖を弾き飛ばされてしまった。
「………何者です」
先ほどの攻撃で爆発が起きているというのに辺りは静かである。………静か過ぎる。こんな不自然がことが起こるとするなら唯一つ―――
「貴様だ………貴様を殺して、あの男に報いを!」
黒い鎧を身に付けた騎士が数名。背後には魔族もいる。その中心にいるあの男を私はよく知っている。
「黒騎士団副団長、アグネス。なるほど、捕まったはずでしたが魔族の手を借り脱獄してきた………いえ、貴方こそが魔族を手引きしていたのですね」
「ハッハッハ!そうだとも!この男は欲望のままに魂を捧げてくれた。お陰で………あの魔王の一撃から生還することも叶ったのだ」
それで気づく。そう、アグネスは既に死んでいる。目の前にいる男はアグネスではなく―――
「八星魔将、グラード!」
「フッフッフ」
………絶望的な状況だった。
結界を貼られている以上逃亡は不可能。杖を失っているため十分な出力も出せず詠唱も破棄できない。近接戦闘のスペシャリストを複数相手にするのは当然、無理。
「貴様の骸をヤツの前に晒してやる!借りを返してやる!この屈辱!晴らすのだ!」
グラードが手を挙げると黒騎士達が私の元へ殺到する。
―――死にたくない。
国のために命をかけてきた私だったのに、なぜかそう思った。
まだ、これからなのに。ようやく未来が見えてきた。私が無意識に自分のことを考えるほどに、世界が広がっているのに。私は………ここで終わる。
悔しくて………悲しくて………ふと、頭を過る。小さい頃に憧れたもの。
少女が憧れる白馬に乗った王子様。誰もが憧れる、お姫様を救ってくれる素敵な人。
「ぐあぁぁああぁぁぁ!!!」
目前まで迫っていた黒騎士達が突如悲鳴と共に後ろに倒れる。それに命の鼓動はなく、何者かに斬られた跡が残った骸と化している。
何者か―――そう思って振り返る前に、後ろから強くて温かい腕に抱き寄せられる。
「怪我はないか?」
「あ………あぁ………貴方は―――」
「よ、イーリス。もう大丈夫だぜ」
私の元に現れたのは白馬に乗った王子様ではなく―――黒衣の魔王だった。




