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※アレイスター視点
その一撃は正しく魔王の一撃。
兄上はその痕跡すら残すことなく消え去った。
『さて、終わったな。主が消し飛ばされたというのに何もしないのか?』
タイラー団長は剣を握ったまま一歩たりとも動けていない。
いや、動いたら死ぬということを理解しているのだろう。彼自身は野心家ではあるものの実力者であることは間違いない。だからこそあの魔王と対峙してまだ生きていられている。
『死にたくないか?』
ジーク殿の声はブラーのかかったような声に変質している。
「ど、どうすればいい!何をすれば………いい?」
タイラーは折れた。最早命があればどうでもいいとさえ思っているだろう。相手があれでは、仕方のないことだ。
「じゃあ俺の問いに嘘偽りなく答えろ。先に言っておくと俺は嘘を見抜ける。試してもいいが代金はお前の命だ」
赤黒い魔力が霧散し、元のジーク殿の姿へと戻る。どうやら兄上を屠ったことで怒りは収まったらしい。………兄上には悪いが、王国と天秤に乗せるなら安い代償だ。
「まず一つ。お前ら魔族と組んでたな?」
「………あぁ、そうだ」
辺りが騒然とする。まさか、そんなことが、などと口にしているが私とレインディアはその可能性も最悪のケースとして頭にいれていた。
「そして、白魔術士団の動向を探るためにスパイもいれていたな。カークだったか?」
ジーク殿が指を鳴らすと閉められていた謁見の間の扉が開き、眼帯を付けた見目麗しいメイドに一人の男が連行される。
「カーク!?」
狼狽するミレイナ。そう、そうだった。彼はミレイナの護衛を勤めた男だ。プライドは高く見下す傾向にはあったがまさかスパイだったとは。
「報酬を与えるといって唆したらしいな。で、だ。何か質問はあるかい?」
誰もが音を立てることさえできない静寂に包まれる中、タイラーが絞り出すように口を開く。
「何故、そちらについた?」
それはまるでこの結末の答え合わせをしたいかというような問い。ジーク殿はその視線をイーリスとレインディアに向け、戻す。
「参戦したのはイーリスの要請を受けたから。お前達を潰すことにしたのはレインディアの………いや、俺の友人の為だ」
はっきりそう告げる。この場においての宣言はつまり………そういうことだ。これはあのゲームで得た報酬であり、妹でなければ成し得なかった、これまでもこの先を見てもこれ以上の選択はないだろう。
「………なるほど、女か」
「女というより性格だな。特にレインディアは面白い。俺にゲームを挑んで勝ったら友達になってくれだとよ。打算とか嘘とか一切ない、ガチで言ってたんだよ。
こんなこと言える人間に友達になってくれと真っ向から言われたんだぜ。たまんねぇだろ」
それを言われて初めてタイラーが笑みを浮かべる。まるで憑き物が落ちたかのように、晴れやかだ。
「………そりゃそうだ。勝てないわけだ」
事実上の敗北宣言。
それからのタイラーはとても素直に、すべてを話した。どの貴族と繋がっているか、魔族との繋がりも、汚職の全ても余すことなく全て。
夢なのだろうかと思いたくなる光景がここにある。
「お兄様。私の友人は凄いでしょう」
隣にいる可愛い妹がはにかむ。誇らしげに、自慢げに、嬉しそうに、だ。
「凄いね、君の友人は。まるで救世主だ」
この国はこれからが大変だろう。何せ腐敗した貴族とはいえ内政に関わっている者も多い。目が回るほど忙しくなる。
誰のせいだと言われたら最愛の妹の友人である魔王のせいだと躊躇わず返すだろう。
………あぁ、なんて胸の熱くなる未来だろうか。
―――それが、目の前にある。




